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帰宅〜下絵到着
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羽生はアトリエを出ると、軽く肩を伸ばした。
打ち合わせは想像以上に順調で、胸の奥に静かな達成感が満ちていた。
羽生:「じゃあ、僕はちょっと寄り道して帰るね」
新城は短く頷くだけで応える。
二人の間には、公共の場では距離を置くという“暗黙のルール”がある。
羽生は軽く息を整える。
誰かの視線にふと触れれば神経がわずかに反応するのは事実だが、
それは怯えというより、関係を守るための自然な注意深さだった。
駅へ向かう道では、通行人の流れをさりげなく確認する。
無意識にしてしまう習慣のようなものだ。
ただ、今日はそれ以上に胸の内の安堵が勝っていた。
打ち合わせの緊張が解け、肩の力がすっと抜けていく。
視界の端で状況を把握しつつも、足取りはいつも通り落ち着いていた。
電車に乗り込むと、荷物を膝に置き、流れる景色をぼんやり眺める。
静けさが身体に戻っていくような感覚に、羽生はゆっくり呼吸を整えた。
駅名のアナウンスや周囲のざわめきを受け流しながら、次の予定や買い物のことを頭の片隅で整理する。
一方、新城も別の車両に乗り込んでいた。
座席に腰を落ち着けると、羽生の前で張っていた緊張がほどけ、肩の力がふっと抜ける。
窓の外の風景に視線を置きながら、ふと目に入ったカップルの仕草に胸の奥が微かにざわついた。
認めたくはないのに、そのざわつきの正体は羽生の影だった。
“そばにいたいわけじゃない。けれど、確かに繋がっている”
その実感に身を預けたまま、いつの間にか瞼が落ちていた。
駅に着くと、新城は寄り道もせず真っすぐ自宅へ戻る。
靴を脱ぎながらスマホを手に取り、羽生へ簡潔に連絡を送る。
――「着いた」
その一言のあと、深く息を吐き、シャワーを浴びにバスルームへ向かう。
熱い湯が肩を伝い落ちると、張りつめていた神経が静かに溶けていった。
羽生と離れたときだけ訪れる、誰にも見せない“素の時間”。
一方の羽生は、駅前の人混みの端でしばらく時間をやり過ごしたあと、近所の目に余計な印象を残さない程度の“最低限の買い物”だけを静かに済ませ、新城のマンションへ向かった。
袋の数が増えれば、それだけ足取りに理由を問われやすくなる──そうした些細な視線も、彼にとっては避けておきたいリスクだった。
袋を片手に歩く道で、湿ったアスファルトに光る街灯の下の自分の影が細く揺れる。
帽子を少し深く被るのは、癖でもあり、
恋人の家へ足を踏み入れるときの“密やかな緊張”でもあった。
玄関の明かりを思い浮かべただけで、胸の奥に小さな熱がじんわりと湧き上がる。
玄関の鍵をそっと開けると、ちょうど奥でシャワーの音が止まった。
ほどなくして浴室のドアが開き、濡れた髪をタオルで軽く拭きながら新城が姿を見せる。
水気を含んだ髪先が揺れ、火照りの残る肌が照明に淡く光る。
その姿を見た瞬間、羽生はふっと表情を緩めた。
新城も羽生の気配を感じ取り、厳しい目元をわずかに和らげる。
言葉は交わさない。
抱き寄せるでも、駆け寄るでもない。
ただ、二人の間に満ちる温度は同じで──
その静かな重なり方こそが、彼らにとって確かな“幸福”だった。
■下絵到着
リビングの柔らかな灯りが、深煎りのコーヒーと羽生が開いたノートパソコンを穏やかに照らしていた。新城はソファの背にもたれ、手元の分厚い専門書に目を落としている。羽生は隣のソファで音楽を聴きながら、指先で画面を軽くタップしていた。
静寂を切り裂くように、羽生のスマホが震える。パールマリ工房からのメールだった。
羽生は思わず肩を跳ねさせ、息を整えてから画面を覗き込む。
羽生:「先生、来た……僕たちの答えが」
羽生の手がそっと新城の膝に触れる。新城は短く頷き、声は出さずとも内心でわずかに息を飲む。メールを開く指が、自然とわずかに震えていた。画面に表示されたのは、モノクロの下絵――新城の「深紅の赤いリボンと孔雀の目」のデザインだった。
二人は並んで画面を覗き込む。
新城は息を呑んだ。
紙の上に描かれた赤いリボンの結び目には、孔雀の羽の“目”が浮かび、まるで体温を帯びているかのような湿り気すら感じられる。色はまだ付いていないのに、血がじんわり滲み出しそうな質感だ。触れれば指先が染まりそうで、思わず手を引く。
新城:(……なんだこれは。こんな、呼吸してるかのような)
ページをスクロールする指がわずかに震える。羽生のデザインは彼らしい伸びやかで優しい線だが、自分のはどこか異様なほど生々しい。Mariの腕が優れていることは知っていた。それを差し引いても――
この赤は“自分に彫られること”を前提に、最初から自分の皮膚の上に存在していたかのようだった。
新城:「……羽生。Mari氏の仕事は完璧だ。このデザインは、俺の美意識を完全に満たしている。すぐに承認するべきだ」
羽生はその言葉に微笑み、画面をスクロールして自分の「羽根とハートの槍」のデザインを表示する。
羽生:「僕の羽根は、先生を世間の雑音から守る。そして、この槍は、先生をどこまでも守り抜く、僕の愛と献身の証だ」
二つのデザインは、支配と守護という形で互いに響き合う。羽生は新城の手に自分の手を重ね、そっと唇を近づけ、決定的な軽いキスを落とす。
羽生:「ありがとう、先生」
羽生は即座に承認メールを送信する。
新城は、羽生の瞳に映る熱を見つめながら、静かに胸の奥で芽生えた理性を超えた感情を自覚した――自分の身体にこのデザインが刻まれることを、じわじわと渇望する気持ちだった。
♡あとがき♡
二人の容姿、表紙画像と全然違う設定です。絵心あればな、、二人とも肌キレイで永久脱毛済み。それともそれは嫌な人が多いのかしら。どちらも美味しいから他の人の意見も聞きたいところ。笑
打ち合わせは想像以上に順調で、胸の奥に静かな達成感が満ちていた。
羽生:「じゃあ、僕はちょっと寄り道して帰るね」
新城は短く頷くだけで応える。
二人の間には、公共の場では距離を置くという“暗黙のルール”がある。
羽生は軽く息を整える。
誰かの視線にふと触れれば神経がわずかに反応するのは事実だが、
それは怯えというより、関係を守るための自然な注意深さだった。
駅へ向かう道では、通行人の流れをさりげなく確認する。
無意識にしてしまう習慣のようなものだ。
ただ、今日はそれ以上に胸の内の安堵が勝っていた。
打ち合わせの緊張が解け、肩の力がすっと抜けていく。
視界の端で状況を把握しつつも、足取りはいつも通り落ち着いていた。
電車に乗り込むと、荷物を膝に置き、流れる景色をぼんやり眺める。
静けさが身体に戻っていくような感覚に、羽生はゆっくり呼吸を整えた。
駅名のアナウンスや周囲のざわめきを受け流しながら、次の予定や買い物のことを頭の片隅で整理する。
一方、新城も別の車両に乗り込んでいた。
座席に腰を落ち着けると、羽生の前で張っていた緊張がほどけ、肩の力がふっと抜ける。
窓の外の風景に視線を置きながら、ふと目に入ったカップルの仕草に胸の奥が微かにざわついた。
認めたくはないのに、そのざわつきの正体は羽生の影だった。
“そばにいたいわけじゃない。けれど、確かに繋がっている”
その実感に身を預けたまま、いつの間にか瞼が落ちていた。
駅に着くと、新城は寄り道もせず真っすぐ自宅へ戻る。
靴を脱ぎながらスマホを手に取り、羽生へ簡潔に連絡を送る。
――「着いた」
その一言のあと、深く息を吐き、シャワーを浴びにバスルームへ向かう。
熱い湯が肩を伝い落ちると、張りつめていた神経が静かに溶けていった。
羽生と離れたときだけ訪れる、誰にも見せない“素の時間”。
一方の羽生は、駅前の人混みの端でしばらく時間をやり過ごしたあと、近所の目に余計な印象を残さない程度の“最低限の買い物”だけを静かに済ませ、新城のマンションへ向かった。
袋の数が増えれば、それだけ足取りに理由を問われやすくなる──そうした些細な視線も、彼にとっては避けておきたいリスクだった。
袋を片手に歩く道で、湿ったアスファルトに光る街灯の下の自分の影が細く揺れる。
帽子を少し深く被るのは、癖でもあり、
恋人の家へ足を踏み入れるときの“密やかな緊張”でもあった。
玄関の明かりを思い浮かべただけで、胸の奥に小さな熱がじんわりと湧き上がる。
玄関の鍵をそっと開けると、ちょうど奥でシャワーの音が止まった。
ほどなくして浴室のドアが開き、濡れた髪をタオルで軽く拭きながら新城が姿を見せる。
水気を含んだ髪先が揺れ、火照りの残る肌が照明に淡く光る。
その姿を見た瞬間、羽生はふっと表情を緩めた。
新城も羽生の気配を感じ取り、厳しい目元をわずかに和らげる。
言葉は交わさない。
抱き寄せるでも、駆け寄るでもない。
ただ、二人の間に満ちる温度は同じで──
その静かな重なり方こそが、彼らにとって確かな“幸福”だった。
■下絵到着
リビングの柔らかな灯りが、深煎りのコーヒーと羽生が開いたノートパソコンを穏やかに照らしていた。新城はソファの背にもたれ、手元の分厚い専門書に目を落としている。羽生は隣のソファで音楽を聴きながら、指先で画面を軽くタップしていた。
静寂を切り裂くように、羽生のスマホが震える。パールマリ工房からのメールだった。
羽生は思わず肩を跳ねさせ、息を整えてから画面を覗き込む。
羽生:「先生、来た……僕たちの答えが」
羽生の手がそっと新城の膝に触れる。新城は短く頷き、声は出さずとも内心でわずかに息を飲む。メールを開く指が、自然とわずかに震えていた。画面に表示されたのは、モノクロの下絵――新城の「深紅の赤いリボンと孔雀の目」のデザインだった。
二人は並んで画面を覗き込む。
新城は息を呑んだ。
紙の上に描かれた赤いリボンの結び目には、孔雀の羽の“目”が浮かび、まるで体温を帯びているかのような湿り気すら感じられる。色はまだ付いていないのに、血がじんわり滲み出しそうな質感だ。触れれば指先が染まりそうで、思わず手を引く。
新城:(……なんだこれは。こんな、呼吸してるかのような)
ページをスクロールする指がわずかに震える。羽生のデザインは彼らしい伸びやかで優しい線だが、自分のはどこか異様なほど生々しい。Mariの腕が優れていることは知っていた。それを差し引いても――
この赤は“自分に彫られること”を前提に、最初から自分の皮膚の上に存在していたかのようだった。
新城:「……羽生。Mari氏の仕事は完璧だ。このデザインは、俺の美意識を完全に満たしている。すぐに承認するべきだ」
羽生はその言葉に微笑み、画面をスクロールして自分の「羽根とハートの槍」のデザインを表示する。
羽生:「僕の羽根は、先生を世間の雑音から守る。そして、この槍は、先生をどこまでも守り抜く、僕の愛と献身の証だ」
二つのデザインは、支配と守護という形で互いに響き合う。羽生は新城の手に自分の手を重ね、そっと唇を近づけ、決定的な軽いキスを落とす。
羽生:「ありがとう、先生」
羽生は即座に承認メールを送信する。
新城は、羽生の瞳に映る熱を見つめながら、静かに胸の奥で芽生えた理性を超えた感情を自覚した――自分の身体にこのデザインが刻まれることを、じわじわと渇望する気持ちだった。
♡あとがき♡
二人の容姿、表紙画像と全然違う設定です。絵心あればな、、二人とも肌キレイで永久脱毛済み。それともそれは嫌な人が多いのかしら。どちらも美味しいから他の人の意見も聞きたいところ。笑
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