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エピローグ🟥完結🟥
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エピローグ:報酬系への静かな拍動
❥講義室の「教授」と「優等生」
あれから一週間。二人の世界に、激しい非日常の痕跡は何一つ残っていない。
新城教授は今日も、いつものように完璧な教授の仮面をつけ、講義棟の大教室の壇上に立っている。彼の纏うチャコールグレーの硬質なスーツはシワ一つなく、切れ長の瞳は冷徹な知性の光を湛え、一分の隙もない。流暢で硬質な言葉遣いが、知の象徴たる高度な論理を論じる。
(新城のモノローグ)
(『教授としての体面が……』あの夜、誰にも聞かれずに、俺はそう呻いた。今、この壇上で、俺の威厳が、快感の前に屈服したことを知っているのは、世界でたった一人。それだけが、俺の、秘められた渇望だ。)
新城は、無意識にネクタイの結び目に指が触れる。その直下の皮膚には、羽生の指の跡も、卑猥な粘液の熱も、もう残っていない。だが、その場所に刻まれた「屈辱の記憶」だけが、彼の理性の下で静かに、だが確実に拍動している。
彼は意図的に、教室を見渡す際に、最前列の定位置に座る羽生だけは視界に入れないようにする。
羽生は、本日も完璧な「優等生」の仮面をつけている。上質なリネン素材のカジュアルシャツにパンツ。その大きな瞳は、静かな光を宿し、知性と利発さを漂わせる。ただ静かに、ノートを取ることに集中している。その完璧な「普通」の姿は、昨夜、警察官の制服を着て、自分の首筋を舐めさせた傲慢な支配者と同一人物だとは、誰にも想像できないだろう。
羽生は一言も発しない。新城もまた、羽生を無視する。この、視線すら交わさない「完璧な距離」こそが、二人の倒錯的な愛の、変わらない共犯関係だった。
❥研究室の「静かな契約」
講義が終わり、新城は自分の研究室へと戻る。数人の生徒が質問を終え、室内は静寂を取り戻した。
ノックの音。
「失礼します、新城教授。先ほどの講義のレポートについて、少し質問が……」
扉を開けて入ってきたのは、羽生だった。彼は他の生徒と同様に、「質問」という公的な建前を完璧に携えている。
新城は、デスクの奥の椅子に深く腰掛けたまま、一分の隙もない視線で羽生を見上げた。
「……入れ。簡潔にまとめろ。」
新城は羽生が椅子に座るのを待たず、レポートに視線を落とす。新城の切れ長の瞳は、羽生を「教え子」としてしか映していない。だが、新城の無意識は、羽生がデスクの前に座る瞬間、床の位置を把握している。
羽生は、新城の冷徹な命令に従い、椅子に座る。質問は形式的で、一分もかからずに終わった。
「分かりました。ありがとうございました、教授。」
羽生は椅子から立ち上がろうとしない。新城もまた、「行け」という言葉を言わない。新城の冷徹な美貌の下、その切れ長の瞳(まなざし)が、一瞬だけ、机の下にいる羽生の足元へ向けられる。
新城の「命令」を待つことなく、羽生は静かに新城の視界から切れない位置で、私服のパンツの裾をわずかに捲り上げた。
(新城のモノローグ)
(『跪け、生徒……この足は、お前の支配を打ち砕いた、俺の、醜く、甘い愛の象徴だ。』あの夜の自分の命令が、彼の足元を見ただけで、脳の深部で熱く反響する。)
言葉も接触もない。だが、「お前の理性は、僕の足元で鳴いている」という屈辱的な事実と、「その屈辱こそが、俺の依存の源である」という愛の契約が、一瞬で更新された。
新城の喉仏が微かに上下する。
「……もう、行っていい。」新城の声は、低く、冷たかった。
羽生は、「失礼します」と完璧な優等生の礼儀で一礼し、研究室を出て行った。
新城は、誰もいなくなった研究室で、デスクの上の愛用の万年筆を手に取る。冷たい金色のペン先(ニブ)を、昨夜、羽生に押し当てられた自分の喉元へ、そっと当てた。
頸動脈の微かな拍動が、知性を象徴する硬いペンに伝わる。
その振動は、羽生にとって「規範崩壊の計測値」だった。
だが、新城にとって、その振動は、「次の非日常を求める、抗いがたい依存(アディクション)」の、静かで切実な拍動だった。
午後の光が次第に深みを増し、薄い影が大学の敷地に濃密に落ちる。その堅牢な土壌の奥底で、二人の愛憎と支配は硬く、深く根を絡ませた。アガパンサスは、次の夏を静かに待つ。彼らの秘密は、この大学の敷地で、永遠のサイクルを繰り返すだろう
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
他にもこの二人が主人公のお話を投稿しているのでよかったら読んでみてくださいね。
❥講義室の「教授」と「優等生」
あれから一週間。二人の世界に、激しい非日常の痕跡は何一つ残っていない。
新城教授は今日も、いつものように完璧な教授の仮面をつけ、講義棟の大教室の壇上に立っている。彼の纏うチャコールグレーの硬質なスーツはシワ一つなく、切れ長の瞳は冷徹な知性の光を湛え、一分の隙もない。流暢で硬質な言葉遣いが、知の象徴たる高度な論理を論じる。
(新城のモノローグ)
(『教授としての体面が……』あの夜、誰にも聞かれずに、俺はそう呻いた。今、この壇上で、俺の威厳が、快感の前に屈服したことを知っているのは、世界でたった一人。それだけが、俺の、秘められた渇望だ。)
新城は、無意識にネクタイの結び目に指が触れる。その直下の皮膚には、羽生の指の跡も、卑猥な粘液の熱も、もう残っていない。だが、その場所に刻まれた「屈辱の記憶」だけが、彼の理性の下で静かに、だが確実に拍動している。
彼は意図的に、教室を見渡す際に、最前列の定位置に座る羽生だけは視界に入れないようにする。
羽生は、本日も完璧な「優等生」の仮面をつけている。上質なリネン素材のカジュアルシャツにパンツ。その大きな瞳は、静かな光を宿し、知性と利発さを漂わせる。ただ静かに、ノートを取ることに集中している。その完璧な「普通」の姿は、昨夜、警察官の制服を着て、自分の首筋を舐めさせた傲慢な支配者と同一人物だとは、誰にも想像できないだろう。
羽生は一言も発しない。新城もまた、羽生を無視する。この、視線すら交わさない「完璧な距離」こそが、二人の倒錯的な愛の、変わらない共犯関係だった。
❥研究室の「静かな契約」
講義が終わり、新城は自分の研究室へと戻る。数人の生徒が質問を終え、室内は静寂を取り戻した。
ノックの音。
「失礼します、新城教授。先ほどの講義のレポートについて、少し質問が……」
扉を開けて入ってきたのは、羽生だった。彼は他の生徒と同様に、「質問」という公的な建前を完璧に携えている。
新城は、デスクの奥の椅子に深く腰掛けたまま、一分の隙もない視線で羽生を見上げた。
「……入れ。簡潔にまとめろ。」
新城は羽生が椅子に座るのを待たず、レポートに視線を落とす。新城の切れ長の瞳は、羽生を「教え子」としてしか映していない。だが、新城の無意識は、羽生がデスクの前に座る瞬間、床の位置を把握している。
羽生は、新城の冷徹な命令に従い、椅子に座る。質問は形式的で、一分もかからずに終わった。
「分かりました。ありがとうございました、教授。」
羽生は椅子から立ち上がろうとしない。新城もまた、「行け」という言葉を言わない。新城の冷徹な美貌の下、その切れ長の瞳(まなざし)が、一瞬だけ、机の下にいる羽生の足元へ向けられる。
新城の「命令」を待つことなく、羽生は静かに新城の視界から切れない位置で、私服のパンツの裾をわずかに捲り上げた。
(新城のモノローグ)
(『跪け、生徒……この足は、お前の支配を打ち砕いた、俺の、醜く、甘い愛の象徴だ。』あの夜の自分の命令が、彼の足元を見ただけで、脳の深部で熱く反響する。)
言葉も接触もない。だが、「お前の理性は、僕の足元で鳴いている」という屈辱的な事実と、「その屈辱こそが、俺の依存の源である」という愛の契約が、一瞬で更新された。
新城の喉仏が微かに上下する。
「……もう、行っていい。」新城の声は、低く、冷たかった。
羽生は、「失礼します」と完璧な優等生の礼儀で一礼し、研究室を出て行った。
新城は、誰もいなくなった研究室で、デスクの上の愛用の万年筆を手に取る。冷たい金色のペン先(ニブ)を、昨夜、羽生に押し当てられた自分の喉元へ、そっと当てた。
頸動脈の微かな拍動が、知性を象徴する硬いペンに伝わる。
その振動は、羽生にとって「規範崩壊の計測値」だった。
だが、新城にとって、その振動は、「次の非日常を求める、抗いがたい依存(アディクション)」の、静かで切実な拍動だった。
午後の光が次第に深みを増し、薄い影が大学の敷地に濃密に落ちる。その堅牢な土壌の奥底で、二人の愛憎と支配は硬く、深く根を絡ませた。アガパンサスは、次の夏を静かに待つ。彼らの秘密は、この大学の敷地で、永遠のサイクルを繰り返すだろう
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
他にもこの二人が主人公のお話を投稿しているのでよかったら読んでみてくださいね。
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