2 / 32
第1章 倫理の境界線(プロトコルの策定)
しおりを挟む
1. 静寂の中の義務感と汚された知性
深夜の書斎は、分厚いカーテンに閉ざされ、重苦しい静寂が支配していた。重厚な木のデスクの上。無機質な金属製のトイが、医療用の滅菌パックに収まったまま置かれている。
新城教授は、それをブジーという専門用語ではなく、「トイ」と呼ぶ教え子の望みに応える義務感に駆られていた。
彼はこの行為を心から望んでいない。しかし、切実な甘い言葉で自分を「教授」としてリードしてほしいと求めてくる羽生の要望を前に、年長者としての責任を放棄することは、彼自身の規範が許さなかった。
新城の切れ長の瞳の奥には、倫理を破る罪悪感と、「引き受けた以上、教え子の身体の安全を最優先に、完璧に遂行しなければならない」という、真面目な義務感が宿っていた。この器具の使用には、当然リスクが伴う。新城は、教え子の身体の安全という、最も避けがたい責任を全うするため、知識で武装する必要があった。
2. 教授のプライドと臨床医の具体的助言
新城は、深呼吸で心拍の乱れを鎮め、公的な権威のトーンを声にまとうと、スマホを手に取った。呼吸を整え、同窓の泌尿器科医師、田中を呼び出す。教授の白いシャツの下、腹部の奥では、抑え込まれた緊張が微かな熱となり、隠された衝動を警告していた。
新城:「田中君、夜分に済まない。倫理委員会への提出資料を作成中でね」
新城は、罪悪感からくる硬さを、『教授の責務』という仮面に貼り付けた。田中の疲れたような笑い声が、電話口から漏れた。
田中:「はぁ、新城教授。夜にその手の話題ですか。相変わらず真面目ですね。で、何の実測値が必要で?」
新城は一瞬、居心地の悪さに沈黙する。トイの実践的な手技を聞き出すという、教授としてのプライドを削る行為に、羞恥心が胸を締め付けた。
新城:「尿道への異物挿入が体腔内に与える影響についてだ」
彼は、意を決して核心に入った。
新城:「ブジーが尿道のS字カーブを通過する際の、粘膜損傷を避けるための微妙な角度について、何かコツはあるかね? 文献の理論だけでは、どうも精度に欠ける。……安全性の確保が最優先だ。」
田中は、教授の真面目さに面白がっているようだった。声を潜める。
田中:「安全性の確保、ですか。教授、そんなに真面目だと、相手に逃げられますよ? ブジーが『入っていく』のを待つんじゃなくて、『尿道がブジーを受け入れるのを待つ』のがコツですよ。愛ですよ、愛。それを焦ると、痛いだけです。」
田中は一度笑った後、臨床医としてのトーンに戻し、具体的な助言を付け加えた。
田中:「真面目な話、教授。挿入の開始角度は、ペニスに対してだいたい30度ですよ。その角度から、ブジーの先端がカーブに当たったら、そこで力を抜いて3秒待つ。粘膜が柔らかく広がるのを待つんです。それが一番、粘膜を傷つけない。理論じゃなくて、実務です。」
新城は、その臨床的な生々しさと甘い教訓を同時に与えられ、一瞬沈黙した。羞恥心と、貴重な情報を得た知的な驚きを押し殺す。
新城:「……30度、そして3秒……。ありがとう。再現性のある貴重な情報だ。」
田中:「教授、再現性より優しさですよ。金属は冷たいですからね。年長者としてリードするなら、なおさらです。」
田中は再び茶化す。
新城:「私の研究の範疇だ。その抵抗を最小限に抑え、感染リスクを確実に排除する医療用潤滑剤の成分を、正確に教えてくれ。これは医療者としての責務だろう。」
新城は冷たく答えたが、声には焦燥が隠されていた。
3. 支配ではなく、リードするためのプロトコル
新城は、田中の「愛」の助言をノイズとして処理し、通話を切った。彼の指先が、トイをパックから取り出す。教え子の身体の安全という責任感から、医療用のアルコールで入念に拭き上げられた。この真面目すぎる衛生管理は、教え子の身体に、自分という存在の罪を刻む道具を、決して傷つけてはならないという、倒錯的な責任感の表れだった。
机上には、泌尿器系の人体解剖図が広げられている。新城はトイのカーブと長さを視覚的に照合し、田中から得た「30度の開始角度」と「3秒の待機時間」をペンで細かくメモしていく。
新城のメモ用紙の冒頭には、「トイの使用時、被験者に対するプロトコル」というタイトルで、大人の義務が記されていった。
《プロトコル:羽生に対する義務》
トイ挿入時、尿道括約筋の弛緩を維持すること。抵抗は即座に中止の合図とする。
トイが前立腺に到達した際、快感の最大値(主観的評価)を明確な言葉で私に報告すること。
私が処置の主導権を持つ。いかなる感情的な衝動も、私の許可なしに顕在化させないこと。
新城教授は、年長者としての責任と、羽生の望みを叶える義務感をもって、この背徳的なプロトコルを完成させた。彼は、この一連の義務が、羽生の肉体をどの程度の屈辱と快感で染め上げるか、その「データ予測」に、背筋が冷えるような抑えがたい快感を感じていた。彼の表情には、支配者の傲慢さではなく、避けられない任務を引き受け、知性で倫理を武装した指導者の重い決意だけが宿っていた。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
他にもこの二人が主人公のお話を投稿しているのでよかったら読んでみてくださいね。
深夜の書斎は、分厚いカーテンに閉ざされ、重苦しい静寂が支配していた。重厚な木のデスクの上。無機質な金属製のトイが、医療用の滅菌パックに収まったまま置かれている。
新城教授は、それをブジーという専門用語ではなく、「トイ」と呼ぶ教え子の望みに応える義務感に駆られていた。
彼はこの行為を心から望んでいない。しかし、切実な甘い言葉で自分を「教授」としてリードしてほしいと求めてくる羽生の要望を前に、年長者としての責任を放棄することは、彼自身の規範が許さなかった。
新城の切れ長の瞳の奥には、倫理を破る罪悪感と、「引き受けた以上、教え子の身体の安全を最優先に、完璧に遂行しなければならない」という、真面目な義務感が宿っていた。この器具の使用には、当然リスクが伴う。新城は、教え子の身体の安全という、最も避けがたい責任を全うするため、知識で武装する必要があった。
2. 教授のプライドと臨床医の具体的助言
新城は、深呼吸で心拍の乱れを鎮め、公的な権威のトーンを声にまとうと、スマホを手に取った。呼吸を整え、同窓の泌尿器科医師、田中を呼び出す。教授の白いシャツの下、腹部の奥では、抑え込まれた緊張が微かな熱となり、隠された衝動を警告していた。
新城:「田中君、夜分に済まない。倫理委員会への提出資料を作成中でね」
新城は、罪悪感からくる硬さを、『教授の責務』という仮面に貼り付けた。田中の疲れたような笑い声が、電話口から漏れた。
田中:「はぁ、新城教授。夜にその手の話題ですか。相変わらず真面目ですね。で、何の実測値が必要で?」
新城は一瞬、居心地の悪さに沈黙する。トイの実践的な手技を聞き出すという、教授としてのプライドを削る行為に、羞恥心が胸を締め付けた。
新城:「尿道への異物挿入が体腔内に与える影響についてだ」
彼は、意を決して核心に入った。
新城:「ブジーが尿道のS字カーブを通過する際の、粘膜損傷を避けるための微妙な角度について、何かコツはあるかね? 文献の理論だけでは、どうも精度に欠ける。……安全性の確保が最優先だ。」
田中は、教授の真面目さに面白がっているようだった。声を潜める。
田中:「安全性の確保、ですか。教授、そんなに真面目だと、相手に逃げられますよ? ブジーが『入っていく』のを待つんじゃなくて、『尿道がブジーを受け入れるのを待つ』のがコツですよ。愛ですよ、愛。それを焦ると、痛いだけです。」
田中は一度笑った後、臨床医としてのトーンに戻し、具体的な助言を付け加えた。
田中:「真面目な話、教授。挿入の開始角度は、ペニスに対してだいたい30度ですよ。その角度から、ブジーの先端がカーブに当たったら、そこで力を抜いて3秒待つ。粘膜が柔らかく広がるのを待つんです。それが一番、粘膜を傷つけない。理論じゃなくて、実務です。」
新城は、その臨床的な生々しさと甘い教訓を同時に与えられ、一瞬沈黙した。羞恥心と、貴重な情報を得た知的な驚きを押し殺す。
新城:「……30度、そして3秒……。ありがとう。再現性のある貴重な情報だ。」
田中:「教授、再現性より優しさですよ。金属は冷たいですからね。年長者としてリードするなら、なおさらです。」
田中は再び茶化す。
新城:「私の研究の範疇だ。その抵抗を最小限に抑え、感染リスクを確実に排除する医療用潤滑剤の成分を、正確に教えてくれ。これは医療者としての責務だろう。」
新城は冷たく答えたが、声には焦燥が隠されていた。
3. 支配ではなく、リードするためのプロトコル
新城は、田中の「愛」の助言をノイズとして処理し、通話を切った。彼の指先が、トイをパックから取り出す。教え子の身体の安全という責任感から、医療用のアルコールで入念に拭き上げられた。この真面目すぎる衛生管理は、教え子の身体に、自分という存在の罪を刻む道具を、決して傷つけてはならないという、倒錯的な責任感の表れだった。
机上には、泌尿器系の人体解剖図が広げられている。新城はトイのカーブと長さを視覚的に照合し、田中から得た「30度の開始角度」と「3秒の待機時間」をペンで細かくメモしていく。
新城のメモ用紙の冒頭には、「トイの使用時、被験者に対するプロトコル」というタイトルで、大人の義務が記されていった。
《プロトコル:羽生に対する義務》
トイ挿入時、尿道括約筋の弛緩を維持すること。抵抗は即座に中止の合図とする。
トイが前立腺に到達した際、快感の最大値(主観的評価)を明確な言葉で私に報告すること。
私が処置の主導権を持つ。いかなる感情的な衝動も、私の許可なしに顕在化させないこと。
新城教授は、年長者としての責任と、羽生の望みを叶える義務感をもって、この背徳的なプロトコルを完成させた。彼は、この一連の義務が、羽生の肉体をどの程度の屈辱と快感で染め上げるか、その「データ予測」に、背筋が冷えるような抑えがたい快感を感じていた。彼の表情には、支配者の傲慢さではなく、避けられない任務を引き受け、知性で倫理を武装した指導者の重い決意だけが宿っていた。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
他にもこの二人が主人公のお話を投稿しているのでよかったら読んでみてくださいね。
10
あなたにおすすめの小説
タトゥーの甘い檻
マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代)
どのお話も単体でお楽しみいただけます。
「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」
真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。
それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。
「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
陥落 ー おじさま達に病愛されて ー
ななな
BL
眉目秀麗、才ある青年が二人のおじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全九話。
国一番の璃伴士(将棋士)であるリンユゥは、義父に温かい愛情を注がれ、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日、一人の紳士とリンユゥは対局することになり…。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
【花言葉】
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。
◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる