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第4話 白雪姫 天花寺エレナ戦
「悪くない。アクビはせずに済みそうかな」
リヒトの声は軽やかだった。
暗殺・暗躍が主要業務だったとは言え、『影の』という枕詞付きとは言え、リヒトも一応は勇者。世界の平和と発展を望んでいる。
だから、自分と同じ世代に優秀で勇気ある者がいるのは、大いに喜ばしかった。
だから小手調べをしたくなった。
だから煽ってしまったのだった。
(我ながら大人げないな。後で埋め合わせよう)
ぼんやりそんなことを思った。
そのとき、こちらに背を向けていたエレナが勢いよく回転する。肘打ちの予備動作だ。
リヒトはエレナの二の腕を掌で抑え、動きを封じた。
「悪手だね。そこは逃げなきゃ」
「私の台詞よ」
訝《いぶか》しがるリヒトの掌が音を立てて凍りつく。凍結は侵食する。瞬時に指を覆い、手の甲から手首、前腕、肘関節へ迫り──
「ほっ!」
気の抜けた声と氷の砕ける音。
リヒトは手を振って氷の破片を払い、エレナと目を合わせる。
「肌に触れたものを凍結できるのか。そのために露出してたんだね。合理的だ」
心からの称賛。しかしエレナはそれを受け取らない。受け取れない。白皙《はくせき》の首筋を一筋の冷や汗が伝った。
「そんな……なぜ凍らないの?」
「なぜって、ただのシバリングだよ」
シバリング。体を震わすことで熱を生み、体温を保つ生理現象。リヒトはそれを任意で、かつ超高速で行うことができた。
「懐かしいのう。妾も主様のそれには手を焼いた」
いつからいたのか、魔王アニマがリヒトのそばでそう言った。
「それを使うほどの相手かえ? 主様」
「彼女は準Aランクなんだぜ? 手加減できないよ。程々にしか、ね」
「その割には隙だらけね。もう終わりかしら?」
エレナの指摘にリヒトは余裕綽々で返す。
「どっちでもいいけど、見逃してもらった方が楽かな」
「却下よ。ここは私が任されたダンジョンだもの。職務放棄はできないわ」
「ま、そうなるよね。じゃ、アニマは霊体化して少し待ってて。せっかくだし、一対一の構図を作ろう」
アニマは無言で頷き姿を消す。
音も無いその変化が、奇しくも開戦の号砲となった。
ダンジョンの通路、石造りの無機質な空間にてエレナとリヒトが対峙する。
エレナは、リヒトのことだけを考えている。そうしなければ即座に詰むと、それほどの実力差があると悟っている。
リヒトは、今この場にはいない視聴者のことを考えている。この闘いをいかに盛り上げるかを考えている。
そして高らかに宣言した。
「さあ皆さんお待たせしました! 今から配信タイトルを変更します! 名付けて、【白雪姫】天花寺《てんげいじ》エレナさんを──」
「【雪球弾幕《スノウバラージュ》】!」
詠唱と同時、雪球の群れが全方位からリヒトへ殺到した。
口上の最中の攻撃。物量で封じる堅実な初手。いずれもエレナらしくはなかったが、そうする必要があると判断した。
その判断は正しかった。
だが意味を為さなかった。
一息で弾幕の隙を抜け、リヒトはエレナへ辿り着いた。
「──完封してみた」
驚愕で強張ったエレナの顔へ、リヒトがスッと手を伸ばす。その手首をエレナが掴む。凍結が始まろうとした瞬間、リヒトが振り払った。
エレナは小石のように放り投げられる。
(この──速度──風圧! なんて怪力!!)
空中で何とか体勢を立て直し、着地。既にリヒトが肉迫していた。
押し退けようと左拳を打ち込む。リヒトは右手で払う。続いて右拳。右手で逸らす。前蹴り、右手で受け止める。ハイキック、右手。後ろ蹴り、右手。
右手。右手。右手。エレナの猛攻に一歩も退かず、右手だけで受け続けている。
「肌に触れてから凍り始めるまで一瞬のラグがあるね。打撃戦のほうがラクかな」
言って、踏み込む。しかし足を滑らせた。足元を見ると、地面が凍っている。
「やるねぇ」
転げたリヒトは地に手を着き、ブレイクダンスのような蹴りを放つ。
爆ぜる風切り音。エレナは悲鳴をすんでで飲み込み必死に後退。
そして、
「【氷製猛禽《アイスラプター》】!」
詠唱、半透明の鷹が群れを成して飛ぶ。
リヒトは逆立ちの姿勢から腕力のみで跳ねる。鷹の群れは宙にて待ち構えている。リヒトは壁を蹴り、天井を蹴り、跳弾のような動きで逃げ続ける。鷹の群れは一糸乱れぬ統率で執念深く猛追する。
「悪くはないけど、速さが足りない」
「わかってるわよ。だからこうする」
リヒトの頭上、飛んでいた鷹が溶ける。形を失った氷は雨のごとく降り注ぐが、リヒトは難なく全てを避けきる。水滴の一粒が服を濡らすことさえ無かった。
迷宮の床に大きな水溜りが出来た。
と思った瞬間、水溜りから氷の蛇が何匹も現れた。
「溶けた氷の再利用! そんなこともできたんだね」
エレナは応えない。詰めに全神経を集中している。
何匹もの蛇がリヒトの両足に絡みつき締め上げる。しかしリヒトは動じない。
ある一匹がリヒトの手に噛みついた。鋭い毒牙には魔力が漲《みなぎ》っている。
(体内から凍らせようってか)
が、牙が刺さらない。リヒトの皮膚が堅すぎる。
「動物虐待します。閲覧注意!」
警告の後に蛇の鎌首を掴み、握り潰そうと力を込める。瞬間、他の蛇たちが消えた。
リヒトがエレナへ視線をやると、額の汗をぬぐいつつ勝利の笑みを浮かべている。
「決着よ。他の子の魔力を全てその子に回して、硬度を高めたの。今、その子は鋼鉄以上に」
バリン、と。
小気味よい音を立て、蛇は弾けた。
シバリングの振動で砕け散った。
「……ッ! Auf keinen Fall(ありえない)!!」
「Das ist die Realität.(これが現実だよ)。ってか君、ドイツ語しゃべれるんだね」
「……あなたこそ」
「まあね」
リヒトはネット上のドイツ語に関する単語辞典や文法書を脳に直接ダウンロードし、瞬時にドイツ語を習得していた。
「そう言えば口の動きも日本語とは違ってたね。でも日本語に聞こえてた。通訳術式って、こっちでも一般化してんの?」
興味津々のリヒトとは対照的に、エレナは眉をひそめる。
「何を言っているの? 通訳術式が一般化したのはダンジョン出現直後……もう10年以上も前の話でしょう?」
「あ、そうなんだ。今ググってみたけど、結構経ってんだね」
リヒトが異世界に召喚される前、現世で魔術や魔物やダンジョンを見たことなど一度も無かった。
リヒトが異世界に召喚されてから魔王アニマを倒すまで、リヒトの主観では少なくとも4年ほどの時が経過していた。
しかし、リヒトが異世界へ転移してから現世にダンジョンが発生して通訳術式が一般化するまで、10年以上も経っているという。
「まるで浦島太郎だな。時間の流れる速度みたいなものが異世界と現世で異なるのかな? いや、未来へ転生した可能性もあるか……?」
リヒトの独り言にアニマが念話で応える。
(さあのう。女神のみぞ知ることじゃ)
(そうだねぇ。問い詰めたいとこだけど、アイツどこにいるかわからんしな)
(……主様)
(なに?)
(……済まぬ。妾の不手際じゃ)
沈んだ声。念話は心模様を声色へと反映する。
(それはまだわからない。それに、君のせいだとしても不手際じゃないよ。僕は今、君のおかげで超楽しめてる。もっと盛り上げるから、君も楽しんでよ)
快活に言う。アニマが安堵したようにため息を漏らす。リヒトはエレナへ集中する。
「ごめん、ちょっとぼうっとしてた。で、1個だけ確認なんだけどさ。君が使ってる通訳術式って日英日だよね?」
「……そうよ。あなたの話した日本語は私には英語に聞こえて、私が話した英語はあなたには日本語に聞こえる。ドイツ語は効果対象外だからそのままよ」
「そうか。それなら、ちょっと遊べそうかな」
意味深長にのたまうリヒトは、ゆっくりと拳を振りかぶり砲丸投げのような体勢を取る。
「……何をしているの?」
エレナは怯えをあらわに問うた。間合いの外から拳を振りかぶるその予備動作の意図がわからない。
何かを投げるつもりか?
それにしても、こんな明け透けにするだろうか?
そもそも、リヒトの魔力をずっと感じ取れなかった。魔術以外の何かなのだろうか?
(エレナちゃんビビってるな……僕の魔術は察知できないもんな。魔力が体外に漏れないから。まあその代わり、特定条件下でしか魔力を放出できないんだけど)
関節の可動限界まで捻られたリヒトの肉体が、ぎちぎちと鳴る。筋繊維に過負荷がかかり軋んでいる。
何を繰り出すつもりなのか。
エレナは先手を打つべきかと思ったが、不用意に動けば隙を作ってしまう、と思い直した。
「〝方便〟〝八百〟〝灰撒くような〟」
詠唱。魔術の効果を強めるための一手。
(阻止、回避──無理! 防御!!)
エレナは全身を魔力の障壁で覆い、両腕を顔の前で交差する。現時点で行える最大限の防御。
目を固く閉じ、全身に力を入れる。
一秒。
二秒。
……何も無い。
エレナは薄く目を開け、恐る恐る様子をうかがう。
逃げるリヒトの後ろ姿が、どんどん遠ざかっていくのが見えた。
「こ、この……!」
白雪姫の腹の底、憤怒の炎が燃え盛る。
遠くのリヒトが走りながら振り向く。
「『嘘も方便』、『嘘八百』、『灰撒くような嘘』。慣用句って色々あるよね。もうちょい日本語勉強しとき」
聞き終えるより早くエレナは駆け出した。
「待ちなさい! こんにゃろ……絶対とっちめてやる!!」
リヒトの声は軽やかだった。
暗殺・暗躍が主要業務だったとは言え、『影の』という枕詞付きとは言え、リヒトも一応は勇者。世界の平和と発展を望んでいる。
だから、自分と同じ世代に優秀で勇気ある者がいるのは、大いに喜ばしかった。
だから小手調べをしたくなった。
だから煽ってしまったのだった。
(我ながら大人げないな。後で埋め合わせよう)
ぼんやりそんなことを思った。
そのとき、こちらに背を向けていたエレナが勢いよく回転する。肘打ちの予備動作だ。
リヒトはエレナの二の腕を掌で抑え、動きを封じた。
「悪手だね。そこは逃げなきゃ」
「私の台詞よ」
訝《いぶか》しがるリヒトの掌が音を立てて凍りつく。凍結は侵食する。瞬時に指を覆い、手の甲から手首、前腕、肘関節へ迫り──
「ほっ!」
気の抜けた声と氷の砕ける音。
リヒトは手を振って氷の破片を払い、エレナと目を合わせる。
「肌に触れたものを凍結できるのか。そのために露出してたんだね。合理的だ」
心からの称賛。しかしエレナはそれを受け取らない。受け取れない。白皙《はくせき》の首筋を一筋の冷や汗が伝った。
「そんな……なぜ凍らないの?」
「なぜって、ただのシバリングだよ」
シバリング。体を震わすことで熱を生み、体温を保つ生理現象。リヒトはそれを任意で、かつ超高速で行うことができた。
「懐かしいのう。妾も主様のそれには手を焼いた」
いつからいたのか、魔王アニマがリヒトのそばでそう言った。
「それを使うほどの相手かえ? 主様」
「彼女は準Aランクなんだぜ? 手加減できないよ。程々にしか、ね」
「その割には隙だらけね。もう終わりかしら?」
エレナの指摘にリヒトは余裕綽々で返す。
「どっちでもいいけど、見逃してもらった方が楽かな」
「却下よ。ここは私が任されたダンジョンだもの。職務放棄はできないわ」
「ま、そうなるよね。じゃ、アニマは霊体化して少し待ってて。せっかくだし、一対一の構図を作ろう」
アニマは無言で頷き姿を消す。
音も無いその変化が、奇しくも開戦の号砲となった。
ダンジョンの通路、石造りの無機質な空間にてエレナとリヒトが対峙する。
エレナは、リヒトのことだけを考えている。そうしなければ即座に詰むと、それほどの実力差があると悟っている。
リヒトは、今この場にはいない視聴者のことを考えている。この闘いをいかに盛り上げるかを考えている。
そして高らかに宣言した。
「さあ皆さんお待たせしました! 今から配信タイトルを変更します! 名付けて、【白雪姫】天花寺《てんげいじ》エレナさんを──」
「【雪球弾幕《スノウバラージュ》】!」
詠唱と同時、雪球の群れが全方位からリヒトへ殺到した。
口上の最中の攻撃。物量で封じる堅実な初手。いずれもエレナらしくはなかったが、そうする必要があると判断した。
その判断は正しかった。
だが意味を為さなかった。
一息で弾幕の隙を抜け、リヒトはエレナへ辿り着いた。
「──完封してみた」
驚愕で強張ったエレナの顔へ、リヒトがスッと手を伸ばす。その手首をエレナが掴む。凍結が始まろうとした瞬間、リヒトが振り払った。
エレナは小石のように放り投げられる。
(この──速度──風圧! なんて怪力!!)
空中で何とか体勢を立て直し、着地。既にリヒトが肉迫していた。
押し退けようと左拳を打ち込む。リヒトは右手で払う。続いて右拳。右手で逸らす。前蹴り、右手で受け止める。ハイキック、右手。後ろ蹴り、右手。
右手。右手。右手。エレナの猛攻に一歩も退かず、右手だけで受け続けている。
「肌に触れてから凍り始めるまで一瞬のラグがあるね。打撃戦のほうがラクかな」
言って、踏み込む。しかし足を滑らせた。足元を見ると、地面が凍っている。
「やるねぇ」
転げたリヒトは地に手を着き、ブレイクダンスのような蹴りを放つ。
爆ぜる風切り音。エレナは悲鳴をすんでで飲み込み必死に後退。
そして、
「【氷製猛禽《アイスラプター》】!」
詠唱、半透明の鷹が群れを成して飛ぶ。
リヒトは逆立ちの姿勢から腕力のみで跳ねる。鷹の群れは宙にて待ち構えている。リヒトは壁を蹴り、天井を蹴り、跳弾のような動きで逃げ続ける。鷹の群れは一糸乱れぬ統率で執念深く猛追する。
「悪くはないけど、速さが足りない」
「わかってるわよ。だからこうする」
リヒトの頭上、飛んでいた鷹が溶ける。形を失った氷は雨のごとく降り注ぐが、リヒトは難なく全てを避けきる。水滴の一粒が服を濡らすことさえ無かった。
迷宮の床に大きな水溜りが出来た。
と思った瞬間、水溜りから氷の蛇が何匹も現れた。
「溶けた氷の再利用! そんなこともできたんだね」
エレナは応えない。詰めに全神経を集中している。
何匹もの蛇がリヒトの両足に絡みつき締め上げる。しかしリヒトは動じない。
ある一匹がリヒトの手に噛みついた。鋭い毒牙には魔力が漲《みなぎ》っている。
(体内から凍らせようってか)
が、牙が刺さらない。リヒトの皮膚が堅すぎる。
「動物虐待します。閲覧注意!」
警告の後に蛇の鎌首を掴み、握り潰そうと力を込める。瞬間、他の蛇たちが消えた。
リヒトがエレナへ視線をやると、額の汗をぬぐいつつ勝利の笑みを浮かべている。
「決着よ。他の子の魔力を全てその子に回して、硬度を高めたの。今、その子は鋼鉄以上に」
バリン、と。
小気味よい音を立て、蛇は弾けた。
シバリングの振動で砕け散った。
「……ッ! Auf keinen Fall(ありえない)!!」
「Das ist die Realität.(これが現実だよ)。ってか君、ドイツ語しゃべれるんだね」
「……あなたこそ」
「まあね」
リヒトはネット上のドイツ語に関する単語辞典や文法書を脳に直接ダウンロードし、瞬時にドイツ語を習得していた。
「そう言えば口の動きも日本語とは違ってたね。でも日本語に聞こえてた。通訳術式って、こっちでも一般化してんの?」
興味津々のリヒトとは対照的に、エレナは眉をひそめる。
「何を言っているの? 通訳術式が一般化したのはダンジョン出現直後……もう10年以上も前の話でしょう?」
「あ、そうなんだ。今ググってみたけど、結構経ってんだね」
リヒトが異世界に召喚される前、現世で魔術や魔物やダンジョンを見たことなど一度も無かった。
リヒトが異世界に召喚されてから魔王アニマを倒すまで、リヒトの主観では少なくとも4年ほどの時が経過していた。
しかし、リヒトが異世界へ転移してから現世にダンジョンが発生して通訳術式が一般化するまで、10年以上も経っているという。
「まるで浦島太郎だな。時間の流れる速度みたいなものが異世界と現世で異なるのかな? いや、未来へ転生した可能性もあるか……?」
リヒトの独り言にアニマが念話で応える。
(さあのう。女神のみぞ知ることじゃ)
(そうだねぇ。問い詰めたいとこだけど、アイツどこにいるかわからんしな)
(……主様)
(なに?)
(……済まぬ。妾の不手際じゃ)
沈んだ声。念話は心模様を声色へと反映する。
(それはまだわからない。それに、君のせいだとしても不手際じゃないよ。僕は今、君のおかげで超楽しめてる。もっと盛り上げるから、君も楽しんでよ)
快活に言う。アニマが安堵したようにため息を漏らす。リヒトはエレナへ集中する。
「ごめん、ちょっとぼうっとしてた。で、1個だけ確認なんだけどさ。君が使ってる通訳術式って日英日だよね?」
「……そうよ。あなたの話した日本語は私には英語に聞こえて、私が話した英語はあなたには日本語に聞こえる。ドイツ語は効果対象外だからそのままよ」
「そうか。それなら、ちょっと遊べそうかな」
意味深長にのたまうリヒトは、ゆっくりと拳を振りかぶり砲丸投げのような体勢を取る。
「……何をしているの?」
エレナは怯えをあらわに問うた。間合いの外から拳を振りかぶるその予備動作の意図がわからない。
何かを投げるつもりか?
それにしても、こんな明け透けにするだろうか?
そもそも、リヒトの魔力をずっと感じ取れなかった。魔術以外の何かなのだろうか?
(エレナちゃんビビってるな……僕の魔術は察知できないもんな。魔力が体外に漏れないから。まあその代わり、特定条件下でしか魔力を放出できないんだけど)
関節の可動限界まで捻られたリヒトの肉体が、ぎちぎちと鳴る。筋繊維に過負荷がかかり軋んでいる。
何を繰り出すつもりなのか。
エレナは先手を打つべきかと思ったが、不用意に動けば隙を作ってしまう、と思い直した。
「〝方便〟〝八百〟〝灰撒くような〟」
詠唱。魔術の効果を強めるための一手。
(阻止、回避──無理! 防御!!)
エレナは全身を魔力の障壁で覆い、両腕を顔の前で交差する。現時点で行える最大限の防御。
目を固く閉じ、全身に力を入れる。
一秒。
二秒。
……何も無い。
エレナは薄く目を開け、恐る恐る様子をうかがう。
逃げるリヒトの後ろ姿が、どんどん遠ざかっていくのが見えた。
「こ、この……!」
白雪姫の腹の底、憤怒の炎が燃え盛る。
遠くのリヒトが走りながら振り向く。
「『嘘も方便』、『嘘八百』、『灰撒くような嘘』。慣用句って色々あるよね。もうちょい日本語勉強しとき」
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