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第6話 魔人フラルゴ戦
宝物殿にて。
一体の魔人が、玉座に腰掛けていた。
魔人の名はフラルゴという。
フラルゴは生まれたての魔人だった。魔人は生まれつき、人語や魔術の使用法を含む種々の知識を有する。故にフラルゴも大抵の事を理解していた。
だからこそ退屈だった。
フラルゴは自分の強さを理解していた。宝龍など羽虫も同然と理解していた。じきにここへ来る天花寺エレナも、宝龍と同様に『虫』であると理解していた。
可能なら天花寺エレナなど捨て置いて地上へ出たい。今すぐ地上を燃やし尽くし、人類を根絶やしにしたい。だが、異物を排除してダンジョンを完全に支配せねば地上へ出られない事も理解していた。
「難儀なものだ」
呟き、嘆息した。
そのとき結界の砕ける音を聞いた。
フラルゴが見上げる。頭上、空中にひとりの少女が居た。
「来たか。天花寺エレナ」
少女は目を合わせたが、一言も返さない。フラルゴは少女を観察して、あるひとつの事実に気付いた。
(魔力の気配が無い。何か仕掛けがあるな)
そして、目尻と口角を歪めて嗤った。
「頭が高いな」
掌から炎を投げ放つ。少女は天井を蹴って回避。続いて壁を蹴り、一直線に飛びかかって来る。
(速い)
予想以上の速度。集中力の亢進《こうしん》による体感時間の鈍化を味わいながら、フラルゴは少女を見定める。
(やはり魔力を発していない……。全魔力を膂力へ代えたか? だとすればこの速度にも納得が行く。しかしこれが此奴の限界だとしたら、俺には到底届き得んな)
フラルゴは少女へ向けた両掌から巨大な炎を見舞った。
刹那、少女の姿が消える。フラルゴは驚愕と同時、反射的に振り返った。
少女が右拳を振りかぶっていた。
(加速した。先の速度が限界ではなかったのか?)
虚を突かれたが、負ける気はしない。
フラルゴの肉体は龍の鱗に優るとも劣らぬほど頑強である。少女の拳では、フラルゴに傷を負わせることはできまい。
加えて、フラルゴは頭部と心臓を魔力の障壁で覆って防御している。いかに膂力に優れようと、魔力の障壁を打ち破れるはずもない。
少女の拳は有効打たりえない。
フラルゴはそう確信していた。
過信だった。
砲撃。
そう感じられた。
少女の右拳は轟音を立ててフラルゴの胸骨を砕き、胸腔を貫き、心臓を挽き潰して背骨を圧し曲げた。
「タフだね」
少女が呟く。フラルゴは血を吐きながら後ずさる。
少女は右手でフラルゴの背骨を握りしめ、左拳を顔へ叩き込む。両腕で防御される。が、威力を殺しきれない。両腕を打ち砕いた。そして拳は頭部へ到る。
その感触だけがあった。
気付けばフラルゴの姿は消え、同時に離れた場所へ再出現していた。
「『命拾いの護符』か。所有者が致死的なダメージを受け絶命する直前に発動し、既定の場所へと転移させる魔道具。天文学的な量の魔力を消費するから、君ごときじゃ到底扱えないはずなんだけど……」
語りながら間合いを詰めようとした少女を、フラルゴは炎で牽制。最小限の動作でかわされる。が、距離は取れた。
フラルゴは大量の鮮血を撒き散らしながら、懸命に息を整える。胸の傷穴が見る間に塞がっていく。
血風と硝煙の入り混じった穢らわしい臭気が立ち込める。同時に、フラルゴのものよりも禍々しい魔力の気配が少女の肌を刺した。
忘れもしない、全知の書の断章の気配だった。
「成程ね。『断章』さえあれば魔力切れは起こり得ない。治癒力・防御力の高さもそれのおかげか。それにしても、どうやって入手したんだか……」
異世界に封印されていたはずの『断章』がこちらの世界にもあった。その事実の不可解さに、少女は細首を傾げた。
一方、フラルゴは黙したまま歯牙を食い縛る。そして口内に残った血を吐き捨て、叫んだ。
「天花寺エレナではないな貴様ァ!!!」
少女は鼻で笑った。
「今更かよ」
その声は男のそれへ変わっていた。
少女の姿が変わる。少年へと変わる。淡い水色の髪は、艶の無い黒髪へ。大胆な服装は、目立たない黒衣へ。
暗殺者リヒトがそこに居た。
「改めまして、数合《すごう》理人《りひと》です。僕のスキルは【変身】。自分の姿を自由自在に変えられる。知ってる娘《こ》に化けるぐらいは朝飯前さ。ビキニアーマーはチョイ恥ずかったが」
リヒトの軽口を黙殺し、フラルゴはたたずまいを正す。そして憎々しげに口を開いた。
「自らの術を軽々《けいけい》に明かすとは、愚かしいな」
「視聴者の皆さんが混乱すると良くないからね。せっかくの『ざまぁ展開』で盛り上がったんだから、スルッと行きたいわけよ」
「……何の話だ」
フラルゴの知識は魔人としての生活の為に生まれ持ったもの。故に彼は人の娯楽に疎い。リヒトはそれを知っていた。あえて惑わし、会話の主導権を握るための言葉選びだった。
微笑み、指を鳴らす。
フラルゴの目の前に映像が投影された。拳を受けたフラルゴの映像、その画面には無数のコメントが流れる。
:草
:ダッサ
:これもう半分生き恥だろ
:吐血ゲロゲロ魔人さん……w
侮辱軽蔑罵詈雑言。悪口《あっこう》の限り、濁流の如く。流れ去るコメントを読んだフラルゴは無表情だった。高温の炎が青く透き通るように、臨界した怒りはある種の冷たさを伴っていた。
「殺す」
フラルゴは掌から蒼い大火を投射した。規模、威力、弾速。あらゆる点で最上級の一撃だった。
リヒトはそれを難なくかわし、声を張った。
「はい、宣戦布告いただきました! じゃあタイトルコール行きます! 名付けて、『隠し階層の魔人を──」
炎が呼吸の隙を突く。リヒトは紙一重で避け、飛びかかると同時に拳を浴びせる。
「『5分で討伐してみた!』」
砲弾が胴めがけ打ち込まれる。フラルゴは両腕と魔力障壁で防御。衝撃が伝わり、両腕が粉砕され、肋骨が幾本も折られる。
殴り飛ばされたフラルゴは壁に激突した。
リヒトは拳に付着した血を振り払いつつ、再度飛びかかっていく。
フラルゴは両腕と魔力障壁で頭部を守ったが、リヒトの拳はまたも胴に命中。骨を砕いて吹き飛ばす。しかしフラルゴの傷はすぐ治る。
フラルゴは防戦一方だが、断章を利用しての超回復により死を免れ続ける。
リヒトはため息をついた。
「……『断章』の魔力に頼るのはドーピングみたいなものさ。もたらされた恩恵以上の負担を免れない。君の脳はじきにオーバーヒートを起こすよ」
「ハッ、要らぬ世話だな。その前に貴様を屠れば良いだけの事だ」
果敢にのたまうフラルゴをリヒトは半眼で見つめる。
「だったらさっさとしてくれない? このままじゃ盛り上がりに欠ける。なんか新技とか──」
転瞬、爆音。
気付けばフラルゴがリヒトの真横に着いていた。
(後ろ手から炎を放ってジェットブースター代わりにしたのか)
「悪くない」
短く讃えたリヒトの上衣を、フラルゴが掴んで引き込む。リヒトは逆らわず脱衣。同時に上衣をフラルゴの顔に被せ視界と行動の自由を奪い、拳撃の予備動作へ移る。フラルゴは反射的に頭部を両掌で護る。リヒトの左手がその上から触れた。
フラルゴの両手を握り潰し、骨ごと掴んで拘束した。
「つかまえた」
右拳がガラ空きの胴へ打ち込まれる。天を衝く揚げ突き。フラルゴの体はくの字に曲がり、天井へ吹き飛ぶ。眺めながら、リヒトは呟くように語る。
「僕の【変身】の効果対象は外見だけじゃない。筋骨を強靭に作り変えて魔力で強化すれば、爆発的なパワーとスピードを発揮できる。本来、並の魔人じゃ反応できないんだけど……」
フラルゴは財宝の山へ落下し、耳障りな金属音を響かせた。が、即座に抜け出し、被せられた上衣を破り捨てリヒトを睨めつける。
リヒトは目を細めた。
「君は優秀みたいだね。僕の拳に対応しつつある」
先の揚げ突き。フラルゴは頭部を両掌で守ったまま、心臓を魔力障壁で覆った。さらに、被弾の瞬間に足下へと爆風を放ち浮き上がる事で、拳の威力を軽減させた。
「君のスキルは何なのかな?」
リヒトの問いに、フラルゴは答えなかった。
魔術には大別して三つの種類がある。
一つは基礎魔術。修練次第で誰でも習得可能な魔術。物体の強化や損傷の治癒、魔力障壁による防御などが代表的である。
もう一つは種族魔術。種族特性として生まれつき使用できる魔術。龍族が放つ火の息などが好例だ。
そして最後が固有魔術。個々人の深層心理・根源的欲求を反映した魔術。一個体につきひとつのみであり、成長こそすれど、後天的に大きく変化することは無い。魔人は例外なく固有魔術を使うが、人間で固有魔術を扱える者は稀少である。
固有魔術は多くの場合、「ユニークスキル」、もしくは「スキル」と呼ばれる。
リヒトもフラルゴもその事を諒解していた。
「火炎放射ぐらいなら僕の敵じゃないけど、どう?」
「莫迦《バカ》が。俺のスキルは──」
フラルゴは牙を剥くように笑み、
「触れたものを、爆弾に変える」
指を鳴らした。
リヒトの左手が爆ぜた。
「……は?」
左肘から先が欠損した。
重心が、ぶれる。姿勢が崩れるのに合わせてフラルゴが炎を放つ。リヒトは間一髪で避けた。
フラルゴは喉奥から忍び笑いを漏らす。しかしすぐに箍《たが》が外れ、宝物庫を揺るがす程の絶笑を響き渡らせた。
「ギャハハハ! 俺が炎を放つだけの凡愚に見えたか間抜けがァ!!」
後ろへ跳んで逃げるリヒトへ追いすがり、叫ぶように告げる。
「我が名はフラルゴ! 固有魔術《ユニークスキル》は【万象発破】! 手で触れるだけであらゆるものを──」
かたわらに置かれていた黄金の彫像を手に取り、リヒトへ投げつける。
「爆弾化できる!」
彫像は空中で爆ぜ、爆炎と爆風が周囲を蹂躙した。
一体の魔人が、玉座に腰掛けていた。
魔人の名はフラルゴという。
フラルゴは生まれたての魔人だった。魔人は生まれつき、人語や魔術の使用法を含む種々の知識を有する。故にフラルゴも大抵の事を理解していた。
だからこそ退屈だった。
フラルゴは自分の強さを理解していた。宝龍など羽虫も同然と理解していた。じきにここへ来る天花寺エレナも、宝龍と同様に『虫』であると理解していた。
可能なら天花寺エレナなど捨て置いて地上へ出たい。今すぐ地上を燃やし尽くし、人類を根絶やしにしたい。だが、異物を排除してダンジョンを完全に支配せねば地上へ出られない事も理解していた。
「難儀なものだ」
呟き、嘆息した。
そのとき結界の砕ける音を聞いた。
フラルゴが見上げる。頭上、空中にひとりの少女が居た。
「来たか。天花寺エレナ」
少女は目を合わせたが、一言も返さない。フラルゴは少女を観察して、あるひとつの事実に気付いた。
(魔力の気配が無い。何か仕掛けがあるな)
そして、目尻と口角を歪めて嗤った。
「頭が高いな」
掌から炎を投げ放つ。少女は天井を蹴って回避。続いて壁を蹴り、一直線に飛びかかって来る。
(速い)
予想以上の速度。集中力の亢進《こうしん》による体感時間の鈍化を味わいながら、フラルゴは少女を見定める。
(やはり魔力を発していない……。全魔力を膂力へ代えたか? だとすればこの速度にも納得が行く。しかしこれが此奴の限界だとしたら、俺には到底届き得んな)
フラルゴは少女へ向けた両掌から巨大な炎を見舞った。
刹那、少女の姿が消える。フラルゴは驚愕と同時、反射的に振り返った。
少女が右拳を振りかぶっていた。
(加速した。先の速度が限界ではなかったのか?)
虚を突かれたが、負ける気はしない。
フラルゴの肉体は龍の鱗に優るとも劣らぬほど頑強である。少女の拳では、フラルゴに傷を負わせることはできまい。
加えて、フラルゴは頭部と心臓を魔力の障壁で覆って防御している。いかに膂力に優れようと、魔力の障壁を打ち破れるはずもない。
少女の拳は有効打たりえない。
フラルゴはそう確信していた。
過信だった。
砲撃。
そう感じられた。
少女の右拳は轟音を立ててフラルゴの胸骨を砕き、胸腔を貫き、心臓を挽き潰して背骨を圧し曲げた。
「タフだね」
少女が呟く。フラルゴは血を吐きながら後ずさる。
少女は右手でフラルゴの背骨を握りしめ、左拳を顔へ叩き込む。両腕で防御される。が、威力を殺しきれない。両腕を打ち砕いた。そして拳は頭部へ到る。
その感触だけがあった。
気付けばフラルゴの姿は消え、同時に離れた場所へ再出現していた。
「『命拾いの護符』か。所有者が致死的なダメージを受け絶命する直前に発動し、既定の場所へと転移させる魔道具。天文学的な量の魔力を消費するから、君ごときじゃ到底扱えないはずなんだけど……」
語りながら間合いを詰めようとした少女を、フラルゴは炎で牽制。最小限の動作でかわされる。が、距離は取れた。
フラルゴは大量の鮮血を撒き散らしながら、懸命に息を整える。胸の傷穴が見る間に塞がっていく。
血風と硝煙の入り混じった穢らわしい臭気が立ち込める。同時に、フラルゴのものよりも禍々しい魔力の気配が少女の肌を刺した。
忘れもしない、全知の書の断章の気配だった。
「成程ね。『断章』さえあれば魔力切れは起こり得ない。治癒力・防御力の高さもそれのおかげか。それにしても、どうやって入手したんだか……」
異世界に封印されていたはずの『断章』がこちらの世界にもあった。その事実の不可解さに、少女は細首を傾げた。
一方、フラルゴは黙したまま歯牙を食い縛る。そして口内に残った血を吐き捨て、叫んだ。
「天花寺エレナではないな貴様ァ!!!」
少女は鼻で笑った。
「今更かよ」
その声は男のそれへ変わっていた。
少女の姿が変わる。少年へと変わる。淡い水色の髪は、艶の無い黒髪へ。大胆な服装は、目立たない黒衣へ。
暗殺者リヒトがそこに居た。
「改めまして、数合《すごう》理人《りひと》です。僕のスキルは【変身】。自分の姿を自由自在に変えられる。知ってる娘《こ》に化けるぐらいは朝飯前さ。ビキニアーマーはチョイ恥ずかったが」
リヒトの軽口を黙殺し、フラルゴはたたずまいを正す。そして憎々しげに口を開いた。
「自らの術を軽々《けいけい》に明かすとは、愚かしいな」
「視聴者の皆さんが混乱すると良くないからね。せっかくの『ざまぁ展開』で盛り上がったんだから、スルッと行きたいわけよ」
「……何の話だ」
フラルゴの知識は魔人としての生活の為に生まれ持ったもの。故に彼は人の娯楽に疎い。リヒトはそれを知っていた。あえて惑わし、会話の主導権を握るための言葉選びだった。
微笑み、指を鳴らす。
フラルゴの目の前に映像が投影された。拳を受けたフラルゴの映像、その画面には無数のコメントが流れる。
:草
:ダッサ
:これもう半分生き恥だろ
:吐血ゲロゲロ魔人さん……w
侮辱軽蔑罵詈雑言。悪口《あっこう》の限り、濁流の如く。流れ去るコメントを読んだフラルゴは無表情だった。高温の炎が青く透き通るように、臨界した怒りはある種の冷たさを伴っていた。
「殺す」
フラルゴは掌から蒼い大火を投射した。規模、威力、弾速。あらゆる点で最上級の一撃だった。
リヒトはそれを難なくかわし、声を張った。
「はい、宣戦布告いただきました! じゃあタイトルコール行きます! 名付けて、『隠し階層の魔人を──」
炎が呼吸の隙を突く。リヒトは紙一重で避け、飛びかかると同時に拳を浴びせる。
「『5分で討伐してみた!』」
砲弾が胴めがけ打ち込まれる。フラルゴは両腕と魔力障壁で防御。衝撃が伝わり、両腕が粉砕され、肋骨が幾本も折られる。
殴り飛ばされたフラルゴは壁に激突した。
リヒトは拳に付着した血を振り払いつつ、再度飛びかかっていく。
フラルゴは両腕と魔力障壁で頭部を守ったが、リヒトの拳はまたも胴に命中。骨を砕いて吹き飛ばす。しかしフラルゴの傷はすぐ治る。
フラルゴは防戦一方だが、断章を利用しての超回復により死を免れ続ける。
リヒトはため息をついた。
「……『断章』の魔力に頼るのはドーピングみたいなものさ。もたらされた恩恵以上の負担を免れない。君の脳はじきにオーバーヒートを起こすよ」
「ハッ、要らぬ世話だな。その前に貴様を屠れば良いだけの事だ」
果敢にのたまうフラルゴをリヒトは半眼で見つめる。
「だったらさっさとしてくれない? このままじゃ盛り上がりに欠ける。なんか新技とか──」
転瞬、爆音。
気付けばフラルゴがリヒトの真横に着いていた。
(後ろ手から炎を放ってジェットブースター代わりにしたのか)
「悪くない」
短く讃えたリヒトの上衣を、フラルゴが掴んで引き込む。リヒトは逆らわず脱衣。同時に上衣をフラルゴの顔に被せ視界と行動の自由を奪い、拳撃の予備動作へ移る。フラルゴは反射的に頭部を両掌で護る。リヒトの左手がその上から触れた。
フラルゴの両手を握り潰し、骨ごと掴んで拘束した。
「つかまえた」
右拳がガラ空きの胴へ打ち込まれる。天を衝く揚げ突き。フラルゴの体はくの字に曲がり、天井へ吹き飛ぶ。眺めながら、リヒトは呟くように語る。
「僕の【変身】の効果対象は外見だけじゃない。筋骨を強靭に作り変えて魔力で強化すれば、爆発的なパワーとスピードを発揮できる。本来、並の魔人じゃ反応できないんだけど……」
フラルゴは財宝の山へ落下し、耳障りな金属音を響かせた。が、即座に抜け出し、被せられた上衣を破り捨てリヒトを睨めつける。
リヒトは目を細めた。
「君は優秀みたいだね。僕の拳に対応しつつある」
先の揚げ突き。フラルゴは頭部を両掌で守ったまま、心臓を魔力障壁で覆った。さらに、被弾の瞬間に足下へと爆風を放ち浮き上がる事で、拳の威力を軽減させた。
「君のスキルは何なのかな?」
リヒトの問いに、フラルゴは答えなかった。
魔術には大別して三つの種類がある。
一つは基礎魔術。修練次第で誰でも習得可能な魔術。物体の強化や損傷の治癒、魔力障壁による防御などが代表的である。
もう一つは種族魔術。種族特性として生まれつき使用できる魔術。龍族が放つ火の息などが好例だ。
そして最後が固有魔術。個々人の深層心理・根源的欲求を反映した魔術。一個体につきひとつのみであり、成長こそすれど、後天的に大きく変化することは無い。魔人は例外なく固有魔術を使うが、人間で固有魔術を扱える者は稀少である。
固有魔術は多くの場合、「ユニークスキル」、もしくは「スキル」と呼ばれる。
リヒトもフラルゴもその事を諒解していた。
「火炎放射ぐらいなら僕の敵じゃないけど、どう?」
「莫迦《バカ》が。俺のスキルは──」
フラルゴは牙を剥くように笑み、
「触れたものを、爆弾に変える」
指を鳴らした。
リヒトの左手が爆ぜた。
「……は?」
左肘から先が欠損した。
重心が、ぶれる。姿勢が崩れるのに合わせてフラルゴが炎を放つ。リヒトは間一髪で避けた。
フラルゴは喉奥から忍び笑いを漏らす。しかしすぐに箍《たが》が外れ、宝物庫を揺るがす程の絶笑を響き渡らせた。
「ギャハハハ! 俺が炎を放つだけの凡愚に見えたか間抜けがァ!!」
後ろへ跳んで逃げるリヒトへ追いすがり、叫ぶように告げる。
「我が名はフラルゴ! 固有魔術《ユニークスキル》は【万象発破】! 手で触れるだけであらゆるものを──」
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