アバンギャルド

安道玄朔

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序章

酔狂な魔術師は弟子をとる

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「私の弟子にならないか?」

チシャ猫のように爛々と目を輝かせた男は牢屋の奥の壁にぐったりと凭れ掛かる少年に尋ねた。

 闇に浮かび上がる少年の白い肌には夥しい拷問の痕跡が見受けられる。
 パチンッと男が指を鳴らすと、少年の頭上に暖かい湯が勢いよく降り注いだ。ホカホカと湯気を立てている少年が身じろぎをして、緩慢な動きで起き上がろうとする様を、男は大して気に留めた様子もなく鼻歌でも歌いだしそうな軽い足取りで鉄格子の内側にやってきた。

 「加減はどうだい?」
 何処からともなく取り出した厚手のタオルケットで男は少年の頭をすっぽりと包みこんだ。
 ポタポタと雫を落とす濡れ羽色の髪の間から冴え冴えとした少年の瞳が男を射抜く

 「良い目だーー  
キツい拷問を受けていた子どものものだとは思えない」

 男は心底嬉しそうな眼差しで柔らかく微笑むと少年に治癒魔法をかけた。
ーー刹那、眩い光が部屋中を覆い、少年の身体から痛みが消えた。

 いきなり目潰しを食らったことに面食らい、呆然と目を瞬かせる少年を先程の数倍嬉しーーいや、楽しそうな表情で眺めると、男は足元に転がる子どもの歯を拾いあげた。
 「ほら、抜けた歯や剥がされた爪も全部生えてるはずだよ」
 はっ、としたように正気に返った少年は据わった目で男を見た。

「何故?」
「えっ、殺さないとダメ?」
「理由がない」
「ちょうど弟子が欲しいなって、思ってたとこなんだよね」
「はっ?」
 どういう意味だ?と、言うように訝しげな目で少年は男を見つめる。

 「右足、契約印」
 少年は、男の視線に促されるように自分の足を見た。
 「ーー隷属契約の印が消えてる……。」

 少年は信じられないという目をしながらそっと右足の甲を 撫でると、左足にも目を向ける。 
 今にも千切れそうな細い鎖を象る紫紺の線が、ガチャガチャと音を立てそうな勢いで蠢いていた。

 「こちら側も私と契約を結べば完全に消えるよ、いいね?」
 男は揶揄うように、傷一つない華奢な少年の左足を恭しく持ち上げるとそっと爪先に口付けた。

 「!!っ」
 
 鎖を象る紋様がフワリと肌から剥がれ浮かび上がったかと思うと、パリンっと澄んだ音を立てて弾けた。それと同時に、少年の足を包む男の手から伸びてきた赤みを帯びた暗い黄褐色の古代語の呪文が少年の脛まで這い上るとフリージアの花を描いて残像を残すように淡く光って消えた。
  少年は絞り出すような声で呻く。

「今から、お前の主人は私だ。お前は私の弟子になれ」

 蛇の様な男から少年が逃れる術など何処にもなかった。
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