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代わりの涙

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『ティーナ、泣くな泣くな!転んだぐらいで痛くないだろう』

『いたいわ!まだいたいから涙が止まらないんですもの!』

『そんなに泣いたら目がとけちゃわないかな』

『と、とけたらもっと泣いてしまうわ…!』

『あ!ほら!そこにティーナの目が落ちてる!』

『ひっ!!!……なによ、これ石じゃない!おどろいたじゃない!』

『ははは!騙されたな。…でもこの石、キレイだ。ティーナの瞳の色と同じエメラルド色だ。そう思うだろう?』

『私の目ってこんな色なの?』

『あぁ。ほら。涙が止まって、よーく見えるようになった。キレイな色だ』

『そ、そんなに見られたら恥ずかしいわ!』

『ティーナは泣いたり怒ったり忙しいやつだな。ははは!』





『ティーナ。そんなに泣くなよ』

『泣いてないわ。怒っているの。』

『俺のために怒ったり、泣いてくれるティーナがいてくれて嬉しいよ』

『泣いてないったら!』

『じゃあ、これは俺の代わりの涙だな』

『……そうね。泣けないクリフの代わりに泣いてあげているんだからっ』

『ははは!そうだな。……ありがとうティーナ』





『ティーナ……兄さんから聞いた。この結婚の話を進めるのか?』

『お父様が決めたことに嫌はないわ』

『……俺がクロッシェンに入ればいいじゃないか。今までティーナは皇太子妃候補だったから……だから……。家との繋がりが必要なら……』

『………もう、決まったことなの』

『ティーナ』

『私はジョエル様と結婚するわ。来年の春に式を予定しているの。陛下にも報告が済んでいるそうよ』

『……』

『貴族の結婚ですもの。でも、ジョエル様とならきっと幸せになれるわ。クリフの自慢のお兄様ですもの』

『あぁ……。自慢の兄だ』

『ジョエル様がね。おっしゃっていたの。私と心を通わせた夫婦になりたいって。こんなにも、お心を砕いてくださる旦那様で……私は幸せよ』



『あぁ。ティーナの幸せは俺の幸せだよ。』



そう言ってクリフは、いつも、私の涙を受け止めてくれた。





その翌年の春の雨季。

私たちの幸せは雨雲に隠れてしまった。

 





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