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非人道的である

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「嘘つきめ……もう信じないぞ……」
「嘘じゃない。聖女様の無事も、君の保護も真実だ。……正直に話したら、な」
 人を小ばかにした表情で薄ら笑うグレイさん──いやもうグレイさんなんて呼ばない。この男は悪の組織の親玉だ。
「俺も暇じゃないんだ。さっさと話してくれないか」
「じゃあ、この紐外してください!」
「では、その魔法具を渡せ。そうしたら外してやる」
「取ればいいじゃないですか!あ~、触れないんですっけ~?」
「……君は本当に良い根性をしているな」
 悪の組織の親玉は疲れた、というように首を回した。

 あの捕獲作戦の後、運ばれたのはどこかの牢屋だった。なにが「ここは寒いだろう。おいで」だ。ここも寒いぞ。あそこも石の床だったが、こっちも石の床で、なんなら清潔感はダウンしている!日本人の衛生観念で言えばこれは不潔な石の床だ!なんだか公衆トイレの匂いもするし、そこに一枚毛布らしき臭い布の上に、手と足を拘束されたまま転がされている。わかっているんだぞ。こうやって人間の尊厳を損なって、なんかこう精神的に追い詰めるやり方だろう。非人道的だ。ひどすぎる。
 なんでも、私たちがどこの誰だとか魔法具(お玉と鍋の蓋)について詳しく供述するまでこのままらしい。そんなこと言われてもこっちだって困る。我が家にあったキッチンツールである。
 どうやらあのお兄さんたちは第三騎士団の方々らしく、いま私を椅子の上から見下ろしているのが第三騎士団団長のグレンさん……じゃなかった、悪の親玉だ。
 悪の親玉たちは私を捕獲後、お玉や鍋の蓋を取り上げようとしたがどうにも触れないらしく、今も私の左手にはお玉があるし、エプロンのお腹のポケットには蓋がひっかけられている。ちょっと邪魔だ。でも、この拘束している紐も魔法具のようでお玉をフリフリしても何も起きない。ただのお玉である。なにも起きない場合、ただのお玉と蓋はただの荷物である。ぐぬぬ。
 でもどんな荷物でも無いよりはマシと私も武器を離さないし、悪の親玉たちも紐を解かないのである。
「──もう一度聞く。君の名前は」
「忘れました」

 両者にらみ合いのまま、何時間経っているのか。そこに、インテリ系の賢そうな顔をしたお兄さんがやって来て親玉に何かを見せた。親玉は溜息を一つこぼし「すぐ戻ってくるから変なことをするなよ」と言い残し、不衛生な牢屋にポツンと私一人残してどこかに行ってしまったのだった。
 


「だ、大丈夫ですかぁ……」

 こんな状況で他人の心配をしているのは私ぐらいなものなのではないだろうか。
 両手両足を縛られ、石の床に布一枚、そうここは牢屋。そんな非日常な展開でも、自分より幼そうな少年がボロぞうきんのように同じ牢屋に投げ込まれたなら、それは第一声は「大丈夫ですか?」になるだろう。

 薄暗い牢屋に一人で待機も怖かったが、乱暴に扱われる少年を見てしまうとさらに怖い。私も調子に乗って生意気な態度をとっていたが、次はこうなるぞと脅されているようだ。

 荷物のように投げ込まれた少年は痛みに呻きながら体を丸め、浅い呼吸鵜を繰り返している。

「たた、たっ大変だ……痛い?痛いよね、ケガしてる?大丈夫?意識ある?」

 不安でキャンキャンキャンキャンまくしたてるように話しかけると、少年がのそりと体を起こし、こちらを振り返った。美少年だった。なんだか薄汚れているが、ファミリーレストランの壁の天使みたいなエンジェルフェイスである。さっきから美形しか出てこないが、大丈夫だろうか。
 少年は私を警戒するようにズルズルと鈍い動きで下がり痛みをこらえるようにお腹を抱えると、怯えたように壁側に背をつけ体を小さくした。

 ひどい。こんな幼気な子に何をしたんだ!ひどすぎる。この子が何をしたっていうのか。見たところ、少年は縛られてはいないようだ。ということは私よりは危険じゃなさそうだと思われたってことだ。ますますひどい。か弱い女性(私のことだ)を縛り転がし、少年に暴力を振るう。これが悪の組織のやり方か。

「……ひどい。ひどすぎる!あのグレンさんって人、最低! 騙された!」

 きいぃ!と怒りを体で表現するが、貧弱な私に拘束が取れるはずもなく、モゾモゾと動くだけである。

「……キミも、騙されたの?」

 距離をとってこちらを警戒していた少年が、小さな声でそう聞いてきた。
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