天才魔術師、ヒロインになる

コーヒー牛乳

文字の大きさ
21 / 27

ヒロイン、交渉する

しおりを挟む

 カチリという音の後、手首を見れば繊細なデザインの腕輪があった。
 先日の貴族街の露店で見かけたブレスレットとは確実に格の違う、値の張りそうな意匠だった。しかも、ぴったりサイズ。指一本も入らない。

「報告書によると、あなたは人身売買に関わるアジトを急襲し壊滅状態にさせ、我が国の誇る王立騎士団団長の武器を奪い、奴隷商人を捕縛。……と、ありましたが、そこまで脅威ではなさそうですね。私でも無力化できました」

 アダムはしてやったりと満足そうな顔で椅子に座り直した。
 その余裕しゃくしゃくな顔にイラッとしたので、相打ちになろうとも本当にスーツを消してやろうとするがうんともすんともいわない。

 私の手には先ほどアダムにつけられた腕輪。
 アダムのしたり顔。
 魔術が発動しない私の手。
 アダムの煽るような三日月目。

 何度も視線を行ったり来たりさせ、罠にかかった子狸のように自分の無力を叫んだ。

「外れないわ!」
「外れたら危ないでしょう」

 全く、とアダムは余裕を取り戻し脚を組んで眼鏡を磨き始めた。生意気眼鏡め!

「閣下の言う通り、持ってきていて助かりました。それは魔力を暴走させないようにする子ども用の魔具だそうですよ。閣下からの下賜品です。大切になさい」
「暴走も何も既に十分コントロール出来てましたけど!?」

 そういえば、魔力がある子どもには魔力を暴走させないようにする魔道具を身に着けさせる風習があった。
 魔力を使えない私なんて、ただの無力な美少女じゃないか。ヒロインとしての強みが減ってしまったんじゃないだろうか。

「とにかく、あなたが魔術の遣い手だという情報は真だったことはわかりました」

 アダムの良い笑顔を向けられる。
 さっきまで野良狸でも見るような目をしていたくせに、胡散臭いが過ぎる笑顔だ。

「しかも、かなりの」
「いえいえ、そんなことは」

 あれぐらいで大げさなほどの賞賛である。褒められれば喜ぶとでも思っているんだろうか。もっと言って。

 へへへっと照れ笑いをしつつ、久しぶりの賞賛を浴びる。これだよこれこれ。くぅ~生き返る。大地の息吹を感じるように感じ入っていたが、アダムの「そんなことあるんですよ」という重い声で我に返る。

「こちらの記章はネジ式です。廻旋させる繊細な操作、浮遊、異動、そして物質を消して、出す。しかも無詠唱で、です」

 アダムの笑顔の圧が、強い。

「……あなたは何者ですか」

 私を観察するようにじっと見るアダムの視線に、どう答えた方が良いものか悩む。

 私の実父である公爵はアダムを遣いに出し、私の存在を確認しに来た。
 消すだけならいつでも出来た。それをしなかった。それが答えだろう。

 私が目覚めたこの部屋はきっと公爵が所有する建物なのだろう。調度品の一つ一つが男爵家とは格が違う。
 清潔で豪華なベッドに、身の回りの世話をしてくれていたメイドたち。現時点ではとても丁重に扱われていると感じる。

 そして、私は魔術を使いこなせる。これは魔力を保有している貴族の一部、特権階級の中でも強い武器になる。
 魔力を保有している人間は貴族の一部であり、その魔力を体外に出す【発現】の段階に行くのも稀だからだ。つまり。

 ────きっと公爵は私の存在を手に入れ、新しい駒にしたいはずだ。

「何者だったら、私のお願いを叶えてくださいますか?」

 アダムの視線をまっすぐ返す。
 従順な駒として使いたいなら、それなりの報酬が無くては。

「……閣下は、あなたを判断しかねている。公爵家にとって、吉星か、はたまた凶星か」
「私は使えますよ。どうせなら頭の良い人に使われたい」

 私の答えが意外だったのか、細められていた目が丸くなった。アダムの瞳は綺麗なセピア色だった。そうしていると結構若く見える。 

「同感です」

 私の敬愛する閣下は人遣いが荒いですからね。退屈させませんよ。と、アダムは作り物ではない自然な笑顔でそう言った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?

恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

転生公爵令嬢は2度目の人生を穏やかに送りたい〰️なぜか宿敵王子に溺愛されています〰️

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リリーはクラフト王子殿下が好きだったが クラフト王子殿下には聖女マリナが寄り添っていた そして殿下にリリーは殺される? 転生して2度目の人生ではクラフト王子殿下に関わらないようにするが 何故か関わってしまいその上溺愛されてしまう

望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで

越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。 国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。 孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。 ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――? (……私の体が、勝手に動いている!?) 「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」 死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?  ――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...