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ヒロイン、裁く5
しおりを挟む「ほら、まるくおさまったでしょう」
二人を置いて先に地下部屋から出してもらって、すぐアダムに抱き上げられた。
わかりますよ。これからは夫婦の仲直りの番でしからね。子どもはすぐ退散しますよ。さっきもベンお父さまに『さっさと行け』というような目で睨まれましたからね。
そして階段を登るアダムにドヤァと言ったのだ。
やればできる子なのよ、と。
やれやれ、とアダムが私を下し膝をついた。
「お見事でした」
そしてカシャンと冷たい感触。すかさず腕輪をつけられたようだ。
そんなに警戒しなくてももう魔力は僅かですって。
「今度はそっちの番よ。ユーリを守って」
「ええ。約束は守りますよ。その証拠にこちらをお渡しします」
アダムはわかっていたという表情で胸ポケットから何かを取りだし、腕輪をいじる私の手を広げさせるとコロンと落とした。
藍色に白い花弁のカボションピン。
脳裏に噴水の音とユーリの赤い顔が浮かぶ。
「……あっ」
「なかなか良い品ですね。こちらをアンネリーゼお嬢様へ、と言付かりました。ロマンティックですね」
そんなんじゃない。ロマンティックなことなんて、何もない。
贈り物の言葉とか、シチュエーションとか、色々言って悪かったとは思うよ。けどさ。
こんな、つき返すことないじゃないか。
最後に、あのままユーリにもらっていればよかった。
ん、って差し出されたら、もうって言って、髪にさしてもらえばよかった。
柄にも無く、後悔が浮かんだ思考をアダムが切った。
「あなたはユリウス殿下と縁づきたい?」
眼鏡の奥のアダムの瞳に、私を探る色が見えた。
「まさか。”ユーリ”は私と会いたくもないと思うわ。だから、私の周りじゃなくて、”王妃派”でもない、えーっと、ユーリが安心して暮らせる、優しいお父さんとお母さんになれる方のところへ移してほしいの。男爵家、ダメ、絶対」
ユーリの心のお姉さんとして、譲れない条件をずらずらと並べたが。アダムは眉間に皺を寄せて、唸り声を上げている。そんなに難しい条件だろうか。
「何か誤解がありますね……あぁ面倒だ……」
「難しいの?いくら公爵家といえども、やっぱり難しいこともあるわよね……」
ソウジャナイ、ソウジャナイ、と壊れた機械のように小さい声で呟いていたと思ったが、「まあ物事にはタイミングがありますからね」と気持ちを切り替えたのかアダムは胡散臭い笑顔を持ち上げた。
「あなたの弱みもわかりました。あなたが閣下や、公爵家にとって凶星だとわかった時には、男爵家の皆さまとあなたの育ての親御様がお住いの村、あと”ユーリ”ぼっちゃんですね。消えて頂きましょう」
「最低!」
ハッと口をおさえる。
咄嗟に口から飛び出てしまったが、もうこういう部分は私の愛嬌だと思ってほしい。この口が、勝手に!
アダムの胡散臭い笑顔に凄みが増したが、ここは見逃してくれるらしい。
「くれぐれも、私を”最低”にしないでくださいね」
と、念を押すだけに留めた。
────ヒロインは災難にも好かれやすいのだ。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
第一章 男爵家編 完
第二章 公爵家編は書き溜めたら更新します。
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