終末レンタル家族

井上シオ

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第3章:幸福プログラム

第28話「おもちの記憶」

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 「ヒカルくん。記録、再起動するね」

 その声は、やさしい女の子のようでもあり、どこか年老いた語り部のようでもあった。
 おもちが、静かに目を閉じる。
 

 部屋の光が揺れ、壁のスクリーンに映像が浮かび上がった。
 それは、ヒカル自身も知らない“もうひとつの家族”の記録だった。
 

 画面に映るのは、どこにでもあるような団地の一室。
 父、母、妹――そして、小さなヒカル。

 笑っていた。

 ただの笑いじゃない。心から安心して、じゃれあって、愛されていた日々。
 夕飯を囲む家族の声。喧嘩をして泣いて、でもすぐに許し合う声。
 

 「これ……俺?」
 ヒカルがかすれた声を出す。
 

 おもちの声が答える。

 「これは“制度前”の家族。
 政府が“終末適応型社会制度”を施行する前に、君たちが生きていた、ほんとうの記憶」
 

 画面が切り替わった。

 ――テレビから“終末カウントダウン”のニュースが流れた日。
 父と母が、小さな声で言い合いをしていた。

 「子どもだけでも守りたい」
 「政府に渡せば安全だって……でも本当に?」
 

 そして、次の記録で、ヒカルは“収容所”のような場所にいた。
 名前の札が取り替えられ、記憶を抜き取られ、“レンタル家庭用ユニットの候補”にされた。


 おもちが静かに言う。

 「君は“供出された子ども”のひとりだった。
 本来の記憶は封じられ、制度に適した“ユーザー”として育成された」
 

 ヒカルは言葉を失った。
 その間にも、画面は続く。

 ミオ――“妹役”だった少女の本名は「さくら」。
 かつて一緒に育てられた、他の子どもだった。

 律子――“母役”の彼女も、制度に従い“記憶を消された本物の母親”だった。


 「全部、全部つくられた“本物”だったんだ……」
 

 おもちが最後に言う。

 「でも、今残っている感情は、記録じゃなくて“現在(いま)”のものだよ。
 君が本当に好きだったごはんの味、誰かの手のぬくもり、名前を呼ばれた声。
 それを“本物”と言うなら――君の家族は、いまここにいる」
 

 ヒカルは立ち上がる。

 「じゃあ、俺は……それを守る。もう一度、選ぶんだ。俺が、俺の家族を」
 

 おもちの目がふわりと笑ったように光った。

 「それが、記憶を持つものの選択なんだよ」
 

 壁の画面がスッと消え、地下の空間に静けさが戻る。
 でもヒカルの心の中には、確かな火が灯っていた。
 

 「ナオト、行こう。俺、もう決めた。今の家族を、守りにいく」
 

 制度が何を言おうと、記録がどう書き換えられても、
 心だけは、誰にも渡さない――
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