終末レンタル家族

井上シオ

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第4章:母の痕跡

第35話「おもちが語る」

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逃走の最中、ヒカルたちは郊外の廃駅に身を潜めた。
錆びついたベンチの上に、母は毛布にくるまりながら座っている。
その隣で、おもちがじっとしていた。

「もう、追っ手はいないかな」

ヒカルが息をつきながら言うと、おもちが小さく「ぴ」と鳴いた。
その声に反応して、母が目を細める。

「……ヒカル、あの子……しゃべれるの?」

「“しゃべる”っていうか、録音とか再生はできる。
でも最近、まるで“考えてる”みたいなんだ。自分の意志で」

おもちがヒカルの膝にちょこんと乗った。
そして、カチリとスピーカーが作動する音がして――

「……ヒカ……ル……」

機械的な声だが、それはたしかに「母の声」だった。

ヒカルは驚いておもちを見つめた。
続けて、音声が流れる。

「わたしは、あなたの味方。
あなたの家族。
あなたが笑っていると、あたたかい。
あなたが泣くと、胸がいたい」

「……これ、誰の……言葉……?」

「おもち……」とヒカルが言うと、
おもちは続けた。

「“母”の感情ログ。ヒカルが見ていないときに、記録したもの。
ヒカルといる時間、笑った回数、触れた温度。
泣いた夜、そばにいた記録」

ヒカルの喉が詰まった。

この小さな存在が、ずっと見ていた。
偽物の家族に囲まれながら、それでも本物の感情を拾い集めてくれていた。

「……ありがとう。おもち」

母が震える手で、おもちの背を撫でる。

「あなた……私の代わりに、あの子のそばにいたのね」

おもちは小さくうなずくように頭を下げる。

ヒカルはゆっくりと口を開いた。

「おもち。……母が、“母”じゃなくなる前に、何か残してない?
もっと……本当のこと、知りたいんだ」

しばらくの沈黙の後、おもちがまた声を発した。

「……あります。
“不要判定”前夜の記録、再生します」

ヒカルと母が、息をのんでおもちを見つめる。

次の瞬間――

『ヒカルには、もう……私なんか、いらないのかもね』

『……そうじゃない。私は、あなたが必要です』

『それでも、“幸福度”のためには邪魔なんでしょう?』

『……だったら、壊れてしまいたい』

音声が、母の声が、涙を含んでいた。

母は毛布の中で手を握りしめていた。

「私……忘れてた。あの夜のこと……あんなふうに思ってたなんて……」

ヒカルは、おもちの身体を抱きしめるようにして言った。

「おもち。君は――
“レンタル”じゃない。
君がいてくれて、本当に、よかった」

おもちはただ「ぴ」と鳴いた。
それが、少しだけ、嬉しそうに聞こえた。
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