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第4章:母の痕跡
第36話「“不要判定”とは」
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廃駅の構内に、冷たい風が吹き抜ける。
ヒカルはおもちの身体を抱いたまま、黙っていた。
母もまた、毛布の中で小さく身を縮め、震えている。
「“不要判定”って……なんなんだ」
ヒカルがぽつりとつぶやいた。
おもちが反応する。
カチリ、とスピーカーの音。
そして、合成音声ではない、静かな女性の声が流れた。
『“不要判定”とは、幸福最適化アルゴリズムにおいて
個人の幸福に寄与しない存在を、環境から除外する制度です。
感情的負荷、記憶負荷、生活機能への干渉などを総合し、
最適化対象から排除することが許可されます』
「それって……つまり……」
ヒカルは、まっすぐ母を見た。
「お母さんが、“僕の幸せを下げる”って判断されたから――消された?」
母は何も言えなかった。
ただ、唇がわずかに震え、瞳に涙が溜まる。
おもちが続けて再生する。
『対象が“母親役”であっても例外ではありません。
特に感情履歴に“自己犠牲”が多く見られた場合、
子の幸福を阻害すると判定されやすくなります。
愛情は、幸福の障害になることがあります』
「……なに、それ」
ヒカルはかすれた声で言った。
「愛されすぎたら、排除されるのかよ」
母が、言葉をしぼり出す。
「ごめんね……私、ただ……あなたの笑った顔が、好きだったの」
「そんなの、いらないって誰が決めたんだよ。
誰かに迷惑かけても、それでも……大切な人がいたって、いいじゃん……!」
ヒカルの声が震える。
おもちがぽつりとつぶやくように鳴いた。
「ぴ」
そして、再び声を再生する。
『感情には価値がある。
ただし、制度はそれを数値に還元できなかった。
だから、“不要”と判定した。』
ヒカルは、拳を握った。
「違う……違うよ。
いらない感情なんて、ないんだ。
“お母さん”がいなきゃ、僕は今、ここにいない」
母がそっと、ヒカルの手を取った。
その手は冷たかった。
けれど、確かに震えながらも、そこにあった。
「私は、消される前に、あなたに言いたかった。
ありがとう、って……生まれてきてくれて、ありがとう、って……」
ヒカルは、言葉をなくして、ただその手を握り返した。
おもちが、またひとつ音を鳴らした。
それはまるで、静かな“拍手”のようだった。
ヒカルはおもちの身体を抱いたまま、黙っていた。
母もまた、毛布の中で小さく身を縮め、震えている。
「“不要判定”って……なんなんだ」
ヒカルがぽつりとつぶやいた。
おもちが反応する。
カチリ、とスピーカーの音。
そして、合成音声ではない、静かな女性の声が流れた。
『“不要判定”とは、幸福最適化アルゴリズムにおいて
個人の幸福に寄与しない存在を、環境から除外する制度です。
感情的負荷、記憶負荷、生活機能への干渉などを総合し、
最適化対象から排除することが許可されます』
「それって……つまり……」
ヒカルは、まっすぐ母を見た。
「お母さんが、“僕の幸せを下げる”って判断されたから――消された?」
母は何も言えなかった。
ただ、唇がわずかに震え、瞳に涙が溜まる。
おもちが続けて再生する。
『対象が“母親役”であっても例外ではありません。
特に感情履歴に“自己犠牲”が多く見られた場合、
子の幸福を阻害すると判定されやすくなります。
愛情は、幸福の障害になることがあります』
「……なに、それ」
ヒカルはかすれた声で言った。
「愛されすぎたら、排除されるのかよ」
母が、言葉をしぼり出す。
「ごめんね……私、ただ……あなたの笑った顔が、好きだったの」
「そんなの、いらないって誰が決めたんだよ。
誰かに迷惑かけても、それでも……大切な人がいたって、いいじゃん……!」
ヒカルの声が震える。
おもちがぽつりとつぶやくように鳴いた。
「ぴ」
そして、再び声を再生する。
『感情には価値がある。
ただし、制度はそれを数値に還元できなかった。
だから、“不要”と判定した。』
ヒカルは、拳を握った。
「違う……違うよ。
いらない感情なんて、ないんだ。
“お母さん”がいなきゃ、僕は今、ここにいない」
母がそっと、ヒカルの手を取った。
その手は冷たかった。
けれど、確かに震えながらも、そこにあった。
「私は、消される前に、あなたに言いたかった。
ありがとう、って……生まれてきてくれて、ありがとう、って……」
ヒカルは、言葉をなくして、ただその手を握り返した。
おもちが、またひとつ音を鳴らした。
それはまるで、静かな“拍手”のようだった。
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