終末レンタル家族

井上シオ

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第4章:母の痕跡

第37話「ヒカルの願い」

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「じゃあ……僕は、どうすればいいの?」

母の手を握りしめたまま、ヒカルは空を仰いだ。

夕焼けは血のように赤く、町の輪郭を切り裂いている。
レンタル家族たちの住む静かな住宅街。
その先に、いびつな形の“施設”がそびえていた。

「母さんを……返してほしいだけなんだ」

その声は、自分でも驚くほど小さかった。

おもちが首をかしげるように、ピ、と鳴いた。

「わたし、記録、あります」
合成音声でなく、柔らかな“おもちの声”が、頭の中に響く。

「母さんの、願い。最後の記録。ヒカルくんへの、気持ち、たくさん、残ってる」

「おもち……」

「でも、制度、許してくれない。
本物の気持ちは、数値にできないから。
でも、ヒカルくんなら、きっと、できる」

「……僕が?」

「そう。選ぶ。母を、選ぶ。それが、願いになる」

おもちの丸い体が、ヒカルの方に傾いた。

「わたし、案内する。“母さんの本体”が、まだ、ある場所へ」

「……どこ?」

おもちがくるりと回り、空を指した。
夕暮れの向こうに、灰色の“家族センター”が黒く影を落としている。

「記録管理区画。立ち入り禁止。
でも、ヒカルくんなら、入れる。前に、一度、認証されたから」

「第33話のときか……」

ヒカルは、ふと笑った。

「メタいこと言うな」

おもちも「ぴ」と笑った(ような気がした)。

母は、薄い毛布を握りしめたまま、微笑む。

「でも、もう危ないかもしれない。私は、ほとんど記憶の中の存在だから……」

「だったら、急がないと」

ヒカルは立ち上がった。
手にはおもちの背中のハーネス。
母の手を、そっと離しながら、言った。

「母さん。僕、あきらめないよ。
制度が“不要”って言っても、僕の“必要”を信じる」

「……ありがとう」

母の目に、涙がひとすじ、こぼれ落ちる。

ヒカルは、走った。
おもちの足音が、ころころと後を追う。

向かう先は、
この終末に用意された、最後の選択肢。

ヒカルの願いは――“母の存在を、取り戻す”ことだった。
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