終末レンタル家族

井上シオ

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第4章:母の痕跡

第38話「記録改ざん」

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家族センターの裏手には、柵があった。
鉄条網、監視カメラ、そして警告の看板。
「関係者以外立入禁止」「幸福管理局 所属者以外進入不可」
だが、おもちが示したのは、その隣にある――古びた空調ダクトだった。

「ここ、非常時用。メンテナンス経路。わたし、通ったことある」

「ペットの姿で?」

「ううん。前は、ただの記録係だったころ」

ヒカルはダクトの蓋を開け、おもちとともに身を滑り込ませた。
中は驚くほど静かで、外の風音すら聞こえなかった。

息を殺して進むうち、突き当たりの金属の扉にたどり着く。
タッチパネルがついている。

「認証が必要って言ってたけど……」
ヒカルが言いかけた瞬間、パネルが青く点灯した。

《ID:ヒカル/被験者001》
《記録アクセス権 限定許可中》
《ようこそ、“最初の子ども”》

「……最初の?」

ヒカルは何度か瞬きをしたが、戸惑いを押し込めて扉を開ける。
そこは、巨大な記録保管室だった。
光るチューブの中に、膨大な「家族ユニット」の記録が保存されている。

「おもち……ここに、母の本当の記録が?」

「はい。でも、少し改ざんされてる。
“不要判定”された記憶は、切り取られてる」

「改ざんって……誰がそんなこと……」

「制度。幸福度のため。
ヒカルくんが、母に“怒られた記憶”とか、“泣いた夜”とか、
そういうマイナスを持ってると、幸福指数が下がる」

ヒカルは思い出す。
母が言ったことを怒鳴ってしまった日。
寂しさをぶつけてしまった日。
でも――

「それも、大事な記憶なのに」

「うん。だから、今から戻せる」

おもちが前に進み、小さな端末に尾を差し込む。

「これで、“母の記録”を元に戻す。でも――」

「でも?」

「ヒカルくんの“幸福度”が下がるかもしれない。
制度的には、“不適格な家族”になる。
母さんは、“正規ルート”ではもう帰ってこられなくなる」

ヒカルは一拍、考えた。

だが、答えは決まっていた。

「……構わない。僕は、“母さんといた記憶”が欲しい。
たとえ笑えない日があっても、怒られた夜があっても、
それでも、母さんが好きだったから」

おもちの瞳が、まるく細くなった。

「了解。改ざん、解除します」

光が走る。
記録のチューブが震える。
消されていた映像が、ノイズ混じりで再生される。

「ヒカル、靴脱ぎっぱなしよ!」

「ごめん!」

「好き嫌い言わないの!残すのはダメ!」

「でも、ピーマン……!」

――懐かしい母の声。
ヒカルは、涙をこらえながら、画面を見つめ続けた。

「ようやく会えたね、“母さん”」
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