終末レンタル家族

井上シオ

文字の大きさ
39 / 100
第4章:母の痕跡

第39話「母のいた場所」

しおりを挟む
再生された記録の中、ヒカルの母は笑ったり、怒ったり、泣いたりしていた。

どの表情も、完璧ではない。
でも、どれも間違いなく――「母」だった。

「これが……僕の、家族」

おもちが記録チューブの横でぽつりと告げる。

「この記録の発信元、“母の最終ログ”があるよ。場所は……第三居住区、スロットK‐27」

「第三……居住区?」

「制度導入直後、“不要”とされた家族ユニットが一時保管された場所。
今はほとんど立ち入り禁止だけど、行ける」

ヒカルは頷いた。

「行こう、すぐに」


第三居住区は、まるでゴーストタウンだった。
建物はあるのに、人の気配はない。
空気は静まり返り、風の音が異様に大きく聞こえた。

「スロットK‐27……この辺のはず……」

ヒカルは手に持った地図と、建物の番号を照らし合わせる。
そこにあったのは、平屋建ての、小さな一軒家。
レンタル家族として登録された頃の「母の住居」だった。

玄関の前で立ち止まる。

「……入るよ、母さん」

重たい扉を開けると、ほこりを被ったリビングが現れた。
ソファの上には、誰かが編んだ途中のセーター。
キッチンには、腐ったままの食材の痕跡。
あの日から、時間が止まっていた。

「この家……覚えてる。小さい頃に来たことがある気がする」

おもちがぽん、とヒカルの肩に触れる。

「その記憶も、きっと消されてた。ここで暮らしてたんだよ、ほんの少しだけ」

ヒカルは壁の棚に手を伸ばし、1冊のノートを見つけた。
埃を払って開く。

そこには、母の文字でこう書かれていた。

――「ヒカルが、今日も笑ってくれた。
でも、私は彼の記憶から消されるのだろうか。
笑顔の裏で、私は“不要”とされる日を待っている」

「……」

「母さんは……自分が消えることを知ってたんだ」

「制度は、完璧な家族以外を“幸福の妨げ”と定義する。
でも母さんは、笑ってた。ヒカルくんが笑うためなら、それでもよかったんだと思う」

ヒカルの手が震える。
ノートの最後のページには、こうあった。

――「私が消えても、ヒカルの中に“家族”の種が残るように。
誰かと、家族になれる子になりますように」

ヒカルは小さくつぶやいた。

「……なるよ。なるから、母さん」

「うん」

おもちが静かに寄り添う。
ただ一人、ずっとヒカルの隣にいてくれた存在。

そしてヒカルはノートを抱きしめた。

「ここが、“母のいた場所”なんだね」

「うん。そして、ここが“ヒカルが帰る場所”だったんだよ」

ヒカルは、初めて本当に泣いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

豊臣徳川両家政務会議録
〜天下のことをだいたい決める会〜

cozy0802
歴史・時代
会議系、歴史回避コメディ。 豊臣と徳川が“なぜか共存している”少し不思議な戦国時代。 そこでは定期的に、「天下のことをだいたい決める会」という政務会議が開かれている。 議長は淀殿。補佐は徳川秀忠殿。参考意見は豊臣秀次様。 そして私は――記録係、小早川秀秋。 議題はいつも重大。 しかし結論はだいたい、 「高度な政治的判断により現状維持」。 関ヶ原の到着時期の差異も、言いにくい史実も、 すべて会議の議事録として“やさしく処理”されていく。 これは、歴史が動きそうで動かない、 両家政務会議の史実回避コメディである。 だが―― この均衡がいつまで続くのかは、誰も知らない。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...