42 / 100
第5章:家族を問う者たち
第42話「“本物主義者”との遭遇」
しおりを挟む
ナオトに連れられ、ヒカルとおもちは郊外のトンネルを抜けた。
その先に広がっていたのは、古びた校舎を改装した小さな“村”だった。
「ここが……?」
「“オモテ家族”の自治区さ」
ナオトはそう呼んだ。
施設には子どもたちが何人もいた。
服は擦り切れていて、食事も質素――だが彼らは笑っていた。
誰かが誰かを名前で呼び、頭を撫でていた。
「ヒカルくん、君は“名前で呼ぶこと”の重さを、知ってるか?」
ナオトの隣にいた中年の女性が口を開いた。
白髪まじりの髪をまとめ、顔に深い皺を刻んだその人は“カスミ”と名乗った。
「政府が奪ったのは、感情じゃない。
“本物の関係を築く過程”だったの。……レンタル家族には“喧嘩”も“すれ違い”もない。
すべてが最適化された“幸福な演技”でしかないから」
「でも……みんな“それ”で満足してる。世界が終わるまで、穏やかならそれで――」
「それが、一番怖いのよ」
カスミは断言した。
「私の娘は、夫の死を乗り越えるために“夫のプログラム”をレンタルした。
でも……何年も“演技の愛”に浸った末、自分の感情をどこかに置き忘れた。
娘はもう、“本物の愛し方”を忘れてしまったの」
ヒカルの中に、母の記憶がよみがえる。
叱ってくれた母。
背中を押してくれた母。
笑って、泣いて、時に怒った――あの“母”。
「……それでも、あの人は“不要”って言われた」
「“不要判定”を出すのは、幸福度が50%を切ったとき。
レンタル制度にとって“不協和音”を生む存在は、最適化の妨げなの」
おもちがヒカルの手を握った。
小さな温もりが、ヒカルの指先を震わせた。
「ぼくは、ヒカルくんの“違和感”を全部記録してきたよ」
そう言って、おもちは胸の端末を開いた。
《記録再生:2025年3月3日》
《内容:ヒカルくんの“偽りの誕生日”に感じた違和感》
《キーワード:母/本物/違う笑顔》
その映像を見て、カスミが呟く。
「君には、“真実の記録”がある」
ナオトがヒカルの肩を叩いた。
「俺たち“本物主義者”は、それを証明するために動いてる。
制度に抗い、本物を取り戻すために」
ヒカルは深く頷いた。
だがその瞬間、村の上空に警報音が鳴った。
《警告:未登録プログラムユニット“おもち”の通信を傍受》
《発信元:脱レンタル派区域》
《制裁ドローンを展開中》
空を割るように、黒い機械が降下してくる。
その光景に、子どもたちが悲鳴を上げる。
「くそっ、見つかった!」
ナオトが叫び、村人たちは避難を始めた。
カスミはヒカルの肩を強く掴む。
「まだ間に合う。……“母のログ”を使って、あの扉を開きなさい」
「扉?」
「あの丘の向こうに、“母たちの記録室”がある。
政府の削除データがすべて残されている場所……!」
ヒカルは走り出した。
おもちを抱えて、風のように――
その先に、本物の記憶があると信じて。
その先に広がっていたのは、古びた校舎を改装した小さな“村”だった。
「ここが……?」
「“オモテ家族”の自治区さ」
ナオトはそう呼んだ。
施設には子どもたちが何人もいた。
服は擦り切れていて、食事も質素――だが彼らは笑っていた。
誰かが誰かを名前で呼び、頭を撫でていた。
「ヒカルくん、君は“名前で呼ぶこと”の重さを、知ってるか?」
ナオトの隣にいた中年の女性が口を開いた。
白髪まじりの髪をまとめ、顔に深い皺を刻んだその人は“カスミ”と名乗った。
「政府が奪ったのは、感情じゃない。
“本物の関係を築く過程”だったの。……レンタル家族には“喧嘩”も“すれ違い”もない。
すべてが最適化された“幸福な演技”でしかないから」
「でも……みんな“それ”で満足してる。世界が終わるまで、穏やかならそれで――」
「それが、一番怖いのよ」
カスミは断言した。
「私の娘は、夫の死を乗り越えるために“夫のプログラム”をレンタルした。
でも……何年も“演技の愛”に浸った末、自分の感情をどこかに置き忘れた。
娘はもう、“本物の愛し方”を忘れてしまったの」
ヒカルの中に、母の記憶がよみがえる。
叱ってくれた母。
背中を押してくれた母。
笑って、泣いて、時に怒った――あの“母”。
「……それでも、あの人は“不要”って言われた」
「“不要判定”を出すのは、幸福度が50%を切ったとき。
レンタル制度にとって“不協和音”を生む存在は、最適化の妨げなの」
おもちがヒカルの手を握った。
小さな温もりが、ヒカルの指先を震わせた。
「ぼくは、ヒカルくんの“違和感”を全部記録してきたよ」
そう言って、おもちは胸の端末を開いた。
《記録再生:2025年3月3日》
《内容:ヒカルくんの“偽りの誕生日”に感じた違和感》
《キーワード:母/本物/違う笑顔》
その映像を見て、カスミが呟く。
「君には、“真実の記録”がある」
ナオトがヒカルの肩を叩いた。
「俺たち“本物主義者”は、それを証明するために動いてる。
制度に抗い、本物を取り戻すために」
ヒカルは深く頷いた。
だがその瞬間、村の上空に警報音が鳴った。
《警告:未登録プログラムユニット“おもち”の通信を傍受》
《発信元:脱レンタル派区域》
《制裁ドローンを展開中》
空を割るように、黒い機械が降下してくる。
その光景に、子どもたちが悲鳴を上げる。
「くそっ、見つかった!」
ナオトが叫び、村人たちは避難を始めた。
カスミはヒカルの肩を強く掴む。
「まだ間に合う。……“母のログ”を使って、あの扉を開きなさい」
「扉?」
「あの丘の向こうに、“母たちの記録室”がある。
政府の削除データがすべて残されている場所……!」
ヒカルは走り出した。
おもちを抱えて、風のように――
その先に、本物の記憶があると信じて。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
豊臣徳川両家政務会議録 〜天下のことをだいたい決める会〜
cozy0802
歴史・時代
会議系、歴史回避コメディ。
豊臣と徳川が“なぜか共存している”少し不思議な戦国時代。
そこでは定期的に、「天下のことをだいたい決める会」という政務会議が開かれている。
議長は淀殿。補佐は徳川秀忠殿。参考意見は豊臣秀次様。
そして私は――記録係、小早川秀秋。
議題はいつも重大。
しかし結論はだいたい、
「高度な政治的判断により現状維持」。
関ヶ原の到着時期の差異も、言いにくい史実も、
すべて会議の議事録として“やさしく処理”されていく。
これは、歴史が動きそうで動かない、
両家政務会議の史実回避コメディである。
だが――
この均衡がいつまで続くのかは、誰も知らない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる