終末レンタル家族

井上シオ

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第5章:家族を問う者たち

第42話「“本物主義者”との遭遇」

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ナオトに連れられ、ヒカルとおもちは郊外のトンネルを抜けた。
その先に広がっていたのは、古びた校舎を改装した小さな“村”だった。

「ここが……?」

「“オモテ家族”の自治区さ」

ナオトはそう呼んだ。

施設には子どもたちが何人もいた。
服は擦り切れていて、食事も質素――だが彼らは笑っていた。
誰かが誰かを名前で呼び、頭を撫でていた。

「ヒカルくん、君は“名前で呼ぶこと”の重さを、知ってるか?」

ナオトの隣にいた中年の女性が口を開いた。
白髪まじりの髪をまとめ、顔に深い皺を刻んだその人は“カスミ”と名乗った。

「政府が奪ったのは、感情じゃない。
“本物の関係を築く過程”だったの。……レンタル家族には“喧嘩”も“すれ違い”もない。
すべてが最適化された“幸福な演技”でしかないから」

「でも……みんな“それ”で満足してる。世界が終わるまで、穏やかならそれで――」

「それが、一番怖いのよ」

カスミは断言した。

「私の娘は、夫の死を乗り越えるために“夫のプログラム”をレンタルした。
でも……何年も“演技の愛”に浸った末、自分の感情をどこかに置き忘れた。
娘はもう、“本物の愛し方”を忘れてしまったの」

ヒカルの中に、母の記憶がよみがえる。

叱ってくれた母。
背中を押してくれた母。
笑って、泣いて、時に怒った――あの“母”。

「……それでも、あの人は“不要”って言われた」

「“不要判定”を出すのは、幸福度が50%を切ったとき。
レンタル制度にとって“不協和音”を生む存在は、最適化の妨げなの」

おもちがヒカルの手を握った。
小さな温もりが、ヒカルの指先を震わせた。

「ぼくは、ヒカルくんの“違和感”を全部記録してきたよ」

そう言って、おもちは胸の端末を開いた。

《記録再生:2025年3月3日》
《内容:ヒカルくんの“偽りの誕生日”に感じた違和感》
《キーワード:母/本物/違う笑顔》

その映像を見て、カスミが呟く。

「君には、“真実の記録”がある」

ナオトがヒカルの肩を叩いた。

「俺たち“本物主義者”は、それを証明するために動いてる。
制度に抗い、本物を取り戻すために」

ヒカルは深く頷いた。

だがその瞬間、村の上空に警報音が鳴った。

《警告:未登録プログラムユニット“おもち”の通信を傍受》
《発信元:脱レンタル派区域》
《制裁ドローンを展開中》

空を割るように、黒い機械が降下してくる。
その光景に、子どもたちが悲鳴を上げる。

「くそっ、見つかった!」

ナオトが叫び、村人たちは避難を始めた。
カスミはヒカルの肩を強く掴む。

「まだ間に合う。……“母のログ”を使って、あの扉を開きなさい」

「扉?」

「あの丘の向こうに、“母たちの記録室”がある。
政府の削除データがすべて残されている場所……!」

ヒカルは走り出した。
おもちを抱えて、風のように――

その先に、本物の記憶があると信じて。
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