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第5章:家族を問う者たち
第46話「自分で“家族”を演じる少年」
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森を抜けた先にあったのは、ひどく古びた空き家だった。
まるで取り残された時間がそこだけ流れているような、静かな空間。
「ここ……?」ヒカルが眉をひそめる。
リョウは頷いた。「脱レンタル派の避難所……らしい」
ドアをノックすると、中から少年の声が返ってきた。
「今、ママが料理中だから、待っててねー」
ヒカルとリョウは顔を見合わせる。
ガラリと戸が開くと、ひとりの少年が現れた。年はヒカルより少し下だろうか。
その子はエプロン姿で、顔には笑顔を貼り付けていた。
「いらっしゃい。今日はカレーだよ。ボクが“ママ”だからね!」
「……え?」
「それとね、奥に“お父さん”もいるよ。新聞読んでる。声かけちゃダメだよ。寝てるから」
ヒカルがそっと覗き込むと、古びたソファに毛布をかぶせたマネキンが座っていた。
「これが……お父さん?」
「そうだよ。ごはんのときだけ笑ってくれるんだ」
少年は、指でマネキンの口元を押すと、ぱきりと音を立てて笑顔を作った。
その様子に、ヒカルの胸がズキッと痛んだ。
「名前……聞いてもいい?」
「うん。ボクはシオン。“家族役”は順番でやるんだよ。ママになったり、子どもになったり。今日は“ママ”だから」
「一人で?」リョウが驚いたように訊いた。
「うん。ひとりで“家族ごっこ”するの。じゃないと、誰もいなくなるから」
シオンは笑っていたけれど、その目は泣いていた。
ヒカルは言葉を失った。
レンタル家族を拒否した子どもたちは、“演じることでしか家族を保てない”。
そこには、制度にも記録にも頼らず、「誰かといたかった」ただその想いだけがあった。
「……シオン。ありがとう。でもさ、それは“ごっこ”じゃないよ」
「え?」
「それ、ほんとに“家族”だよ。誰よりも本気で、誰かを思ってるじゃんか」
その言葉に、シオンの表情が一瞬ほどける。
「……そうかな。だったら、いいな」
その夜、ヒカルたちはシオンの作ったカレーを一緒に食べた。
レトルトで、ちょっとしょっぱかったけど、あたたかい味がした。
「ねぇ、ヒカル。君は、誰に会いたいの?」
夜、寝る前にシオンが訊いてきた。
「おれは……“本物の母”に会いたい。記録でも、制度でもなく、ちゃんとおれを見てくれる人に」
シオンは、しばらく考えて、頷いた。
「その人に、会えるといいね。……会ったら、ぎゅーってしてあげなよ」
「うん。そうする」
静かな夜だった。
でもそこには、“自分で選んだ家族”の灯りが、ちゃんと灯っていた。
まるで取り残された時間がそこだけ流れているような、静かな空間。
「ここ……?」ヒカルが眉をひそめる。
リョウは頷いた。「脱レンタル派の避難所……らしい」
ドアをノックすると、中から少年の声が返ってきた。
「今、ママが料理中だから、待っててねー」
ヒカルとリョウは顔を見合わせる。
ガラリと戸が開くと、ひとりの少年が現れた。年はヒカルより少し下だろうか。
その子はエプロン姿で、顔には笑顔を貼り付けていた。
「いらっしゃい。今日はカレーだよ。ボクが“ママ”だからね!」
「……え?」
「それとね、奥に“お父さん”もいるよ。新聞読んでる。声かけちゃダメだよ。寝てるから」
ヒカルがそっと覗き込むと、古びたソファに毛布をかぶせたマネキンが座っていた。
「これが……お父さん?」
「そうだよ。ごはんのときだけ笑ってくれるんだ」
少年は、指でマネキンの口元を押すと、ぱきりと音を立てて笑顔を作った。
その様子に、ヒカルの胸がズキッと痛んだ。
「名前……聞いてもいい?」
「うん。ボクはシオン。“家族役”は順番でやるんだよ。ママになったり、子どもになったり。今日は“ママ”だから」
「一人で?」リョウが驚いたように訊いた。
「うん。ひとりで“家族ごっこ”するの。じゃないと、誰もいなくなるから」
シオンは笑っていたけれど、その目は泣いていた。
ヒカルは言葉を失った。
レンタル家族を拒否した子どもたちは、“演じることでしか家族を保てない”。
そこには、制度にも記録にも頼らず、「誰かといたかった」ただその想いだけがあった。
「……シオン。ありがとう。でもさ、それは“ごっこ”じゃないよ」
「え?」
「それ、ほんとに“家族”だよ。誰よりも本気で、誰かを思ってるじゃんか」
その言葉に、シオンの表情が一瞬ほどける。
「……そうかな。だったら、いいな」
その夜、ヒカルたちはシオンの作ったカレーを一緒に食べた。
レトルトで、ちょっとしょっぱかったけど、あたたかい味がした。
「ねぇ、ヒカル。君は、誰に会いたいの?」
夜、寝る前にシオンが訊いてきた。
「おれは……“本物の母”に会いたい。記録でも、制度でもなく、ちゃんとおれを見てくれる人に」
シオンは、しばらく考えて、頷いた。
「その人に、会えるといいね。……会ったら、ぎゅーってしてあげなよ」
「うん。そうする」
静かな夜だった。
でもそこには、“自分で選んだ家族”の灯りが、ちゃんと灯っていた。
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