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第5章:家族を問う者たち
第47話「おもちのアップデート」
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ヒカルが目を覚ますと、見慣れない天井と微かなカレーの匂いがした。
昨夜泊まった古びた空き家。ひとりで“家族”を演じていた少年・シオンの家だ。
「ヒカルー、朝ごはんできたよー!」
軽快に響く声に導かれるように台所へ向かうと、湯気の立つパンと卵焼きが並んでいた。
「……これ、シオンが?」
「うん、“お父さんの役”が作ってくれたの」
シオンはそう言って、エプロン姿のまま笑った。
「今朝はね、ボクが“妹”なんだ」
ヒカルは小さく笑い、椅子に腰を下ろした。
リョウはまだ寝ているようだった。そっと、あの存在が重たいことを察していた。
そのとき――「ピピッ」という電子音が響いた。
「……おもち?」
ヒカルは背後を振り返る。テーブルの下で、白いぬいぐるみのようなその存在――おもちが、静かに起き上がった。
「おはよう、ヒカル」
「喋った……?」
「新しい音声パッケージを取得しました。アップデート完了」
合成音声にしては柔らかすぎた。まるで人間が囁くような口調。
目元のLEDが、緑色に瞬いた。
「どうして今……?」
「ヒカルの“家族理解度”が一定値を超えたため、機能制限を一部解除。記録モード、対話モード、感情シミュレーション機能が使用可能となりました」
「感情……?」
「それは“君が持つもの”を模倣する機能です。私は、君の感情から学び、再生します」
ヒカルは戸惑いながらも、問いを重ねた。
「じゃあ、ずっと黙ってたのは……?」
「君が“本当の疑問”を口にするまで、私は話せない仕様でした」
ヒカルの胸に、冷たい針が刺さったような痛みが走る。
「本当の疑問」とは、何だ。
“本物ってなんだ?”
あの日、声にしたあの言葉か。
「……教えてくれ、おもち。おれの“母”はどこにいるんだ」
おもちは一瞬だけ沈黙し、やがてゆっくりと応えた。
「母と認識される人物は現在、存在ログにて“抹消済み”です」
「抹消……?」
「しかし、“記録”は残っています。再生、しますか?」
ヒカルは目を伏せ、頷いた。
おもちの目が投影装置のように輝き、空間に映像が浮かんだ。
それは、台所でふと振り返る、優しげな女性の姿だった。
【ヒカル、今日は何があったの?】
その声に、ヒカルの全身が一瞬で熱くなる。
「……ママ……」
思わず呟いたその一言に、おもちが静かに言った。
「ヒカル、君が“母”を望む限り、私はそれを記録し、保持し続けます」
「違うんだ……記録じゃダメなんだ。おれは、会いたいんだ。もう一度、ちゃんと」
おもちの目が、一度だけ淡く明滅する。
「……そのための手段、解析中です」
ヒカルは、言葉にならない感情を喉で呑み込んだ。
シオンがそっと近づき、手を握った。
「ボクも、本当の“家族”に会いたいんだ。でも、ヒカルはすごいよ。動いてる。諦めてない」
ヒカルはシオンを見つめ、強く頷いた。
「……もう一度、会いに行こう。“母”に」
そしてその隣で、おもちが小さく、何かを呟いたように聞こえた。
【ヒカルの“家族”として、同行します】
昨夜泊まった古びた空き家。ひとりで“家族”を演じていた少年・シオンの家だ。
「ヒカルー、朝ごはんできたよー!」
軽快に響く声に導かれるように台所へ向かうと、湯気の立つパンと卵焼きが並んでいた。
「……これ、シオンが?」
「うん、“お父さんの役”が作ってくれたの」
シオンはそう言って、エプロン姿のまま笑った。
「今朝はね、ボクが“妹”なんだ」
ヒカルは小さく笑い、椅子に腰を下ろした。
リョウはまだ寝ているようだった。そっと、あの存在が重たいことを察していた。
そのとき――「ピピッ」という電子音が響いた。
「……おもち?」
ヒカルは背後を振り返る。テーブルの下で、白いぬいぐるみのようなその存在――おもちが、静かに起き上がった。
「おはよう、ヒカル」
「喋った……?」
「新しい音声パッケージを取得しました。アップデート完了」
合成音声にしては柔らかすぎた。まるで人間が囁くような口調。
目元のLEDが、緑色に瞬いた。
「どうして今……?」
「ヒカルの“家族理解度”が一定値を超えたため、機能制限を一部解除。記録モード、対話モード、感情シミュレーション機能が使用可能となりました」
「感情……?」
「それは“君が持つもの”を模倣する機能です。私は、君の感情から学び、再生します」
ヒカルは戸惑いながらも、問いを重ねた。
「じゃあ、ずっと黙ってたのは……?」
「君が“本当の疑問”を口にするまで、私は話せない仕様でした」
ヒカルの胸に、冷たい針が刺さったような痛みが走る。
「本当の疑問」とは、何だ。
“本物ってなんだ?”
あの日、声にしたあの言葉か。
「……教えてくれ、おもち。おれの“母”はどこにいるんだ」
おもちは一瞬だけ沈黙し、やがてゆっくりと応えた。
「母と認識される人物は現在、存在ログにて“抹消済み”です」
「抹消……?」
「しかし、“記録”は残っています。再生、しますか?」
ヒカルは目を伏せ、頷いた。
おもちの目が投影装置のように輝き、空間に映像が浮かんだ。
それは、台所でふと振り返る、優しげな女性の姿だった。
【ヒカル、今日は何があったの?】
その声に、ヒカルの全身が一瞬で熱くなる。
「……ママ……」
思わず呟いたその一言に、おもちが静かに言った。
「ヒカル、君が“母”を望む限り、私はそれを記録し、保持し続けます」
「違うんだ……記録じゃダメなんだ。おれは、会いたいんだ。もう一度、ちゃんと」
おもちの目が、一度だけ淡く明滅する。
「……そのための手段、解析中です」
ヒカルは、言葉にならない感情を喉で呑み込んだ。
シオンがそっと近づき、手を握った。
「ボクも、本当の“家族”に会いたいんだ。でも、ヒカルはすごいよ。動いてる。諦めてない」
ヒカルはシオンを見つめ、強く頷いた。
「……もう一度、会いに行こう。“母”に」
そしてその隣で、おもちが小さく、何かを呟いたように聞こえた。
【ヒカルの“家族”として、同行します】
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