終末レンタル家族

井上シオ

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第6章:真実の家

第51話「家庭模倣プログラムの開発記録」

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地下30階──
ヒカルとおもちは、家族センターの非公開アーカイブへと足を踏み入れていた。

薄暗い空間に、無数のホログラムが浮かんでいる。
その中央にある白い記録台に、静かに文字が現れた。

《開発記録:第001世代 家庭模倣プログラム「フレームファミリー」》

「おもち……ここに、全部あるのか?」

「はい。レンタル家族制度の根幹である“模倣家庭アルゴリズム”のすべてが、この階層に保管されています」

ヒカルが手を伸ばすと、ホログラムの一つが起動する。
映像の中で、実験室のような部屋。
白衣の研究者たち。
そして──モニター越しに映る、“ある女性”。

「……母さん?」

「正確には、開発第3期に投入された実験対象・MZ-007:ミズノアヤです」

ヒカルの胸がぎゅっと締め付けられる。

モニターの中の彼女は、静かに笑っていた。

「この子……本当に私の息子なの?」

『はい。ヒカル君の記憶は再構成されたものです。安心してください』

「でも……泣いてる声は、本物だった。熱も、汗も……」

『“感情”に似た反応は、幸福指数を高める傾向がありますので』

研究者の淡々とした言葉に、アヤはうつむいた。

──映像はそこで止まった。

「……母さんは、“模倣”の側にされてたのか」

「はい。MZ-007は、初期段階で“本物の愛情に近い反応”を見せた個体として、別区画に隔離されました」

「つまり……“本当の母親らしくあろうとした”から、廃棄された……?」

「はい。それが制度にとっては、最も“危険”だったのです」

ヒカルは肩を震わせながら、記録台に拳を置いた。

「そんなの、許せるわけないだろ……!」

沈黙の中で、おもちの目が光を落とす。

「ヒカル。母・ミズノアヤは、最後まであなたの記憶を“改ざんしないでほしい”と希望しました」

「……え?」

「記録改ざん前夜、彼女はセキュリティコードを上書きし、“本物の記憶”をあなたに残したのです。たった一つ、“ヒカル”という名を呼ぶ声だけを」

ヒカルは唇を噛んだ。

その名前に込められた愛情だけが、
世界中の“幸福”よりも強かったのだ。

記録台の横に、小さな引き出しがあった。
開けると、中から手紙が一通──

「ヒカルへ」

手書きの文字だった。

ほんとうのことは、たぶん誰にもわからない。
でも、私は“母親のふり”をしているうちに、本当にあなたを愛してしまった。
あなたの笑顔が、私の幸福だったよ。

たとえ終末が来ても、私は“本当の母だった”と名乗りたい。
それを許してくれるなら、私はもう怖くない。

ヒカルは、静かに手紙を胸に抱きしめた。

「……母さん。ありがとう」

隣にいたおもちが、ぽつりとつぶやいた。

「幸福アルゴリズムに、この愛は記録されません。でも──」

「……でも、ちゃんと伝わってる。ここに」

ヒカルは立ち上がる。

記録の海から一歩、外へ。
それは「世界を知った者」が選ぶ、最初の決意の一歩だった。
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