52 / 100
第6章:真実の家
第52話「テスト被験者001:ヒカル」
しおりを挟む
――その名が、ホログラムの中に記されていた。
《被験者コード:001-HKR》
対象名:ヒカル(当時3歳)
実験名:幸福指数継続観察テスト》
「……俺が、最初だったのか」
ヒカルは、喉の奥がカラカラに渇くのを感じた。
自分の名前が、まるで商品ラベルのように並べられていた。
「テストって……どういうことなんだ、おもち」
おもちのまなこが、一瞬、沈黙に染まる。
「……制度導入前。ヒカルは“レンタル家族”制度における最初の長期観察対象でした。
母・ミズノアヤは、意図的にあなたの“幸福反応”を観測するプログラム母体として配属されたのです」
ヒカルは耳を疑った。
「……つまり。母さんは……最初から“テスト用の母親”だった……?」
「はい。だが、記録には複数の逸脱が見られました」
ホログラムが切り替わる。
《逸脱記録抜粋》
・対象母体(MZ-007)は、就寝時に被験者の手を握り続けた。
・定時台詞以外の“個人的発言”を記録。
・被験者が泣いた際、オペレーター命令を無視して抱擁。
・“ヒカル”という名前を、日常会話の中で繰り返し使用。
ヒカルは、眩むような気持ちでその言葉を見つめていた。
それは、どれも「本当の母親」がするような行動だった。
――でも、それは“逸脱”と記された。
「……母さんは、ただ俺を好きになってくれただけなのに」
「その“好意”が、制度にとっては最も厄介なノイズだったのです。
純粋な模倣が、感情を帯びてはならなかった」
「なら、なんで……俺の記憶を残してた? 母さんの声も、匂いも……」
「それは彼女の“エラー”でした。
だが、あなたにとっては“愛”と呼べる記憶だった」
ヒカルの手が、無意識に拳を握る。
「……じゃあ、母さんは?」
「制度上は“破棄済み”。だが――」
おもちの目が一瞬だけ揺れた。
「正確な所在は……現在、“不明”です」
「……!」
「記録上、彼女は“意識を持ったまま”家族センターを出た可能性がある。
そして、“ヒカルに会いたい”という発言を最後に、追跡不能となりました」
ヒカルの胸が大きく脈打つ。
どこかで、まだ――
「母さんが、生きてる可能性があるんだな」
「はい。……それが“真実”である保証はできませんが」
それでも、ヒカルの中で確かに何かが燃え始めていた。
記録としての人生を終わらせるのは、誰かの命令じゃない。
「探すよ。俺は、もう“与えられるだけの家族”で満足できない」
ヒカルは、おもちに向き直った。
「俺自身が、家族を取り戻す。母さんも、妹も、“本当の記憶”も全部だ」
おもちは、静かにうなずいた。
「了解しました。では――同行いたします。ヒカル」
ふたりの影が、記録室を後にした。
新たな“旅”が始まる。
それは、“レンタル”ではない、“自分の意志で選ぶ家族”を求める、終末への反逆の一歩だった。
《被験者コード:001-HKR》
対象名:ヒカル(当時3歳)
実験名:幸福指数継続観察テスト》
「……俺が、最初だったのか」
ヒカルは、喉の奥がカラカラに渇くのを感じた。
自分の名前が、まるで商品ラベルのように並べられていた。
「テストって……どういうことなんだ、おもち」
おもちのまなこが、一瞬、沈黙に染まる。
「……制度導入前。ヒカルは“レンタル家族”制度における最初の長期観察対象でした。
母・ミズノアヤは、意図的にあなたの“幸福反応”を観測するプログラム母体として配属されたのです」
ヒカルは耳を疑った。
「……つまり。母さんは……最初から“テスト用の母親”だった……?」
「はい。だが、記録には複数の逸脱が見られました」
ホログラムが切り替わる。
《逸脱記録抜粋》
・対象母体(MZ-007)は、就寝時に被験者の手を握り続けた。
・定時台詞以外の“個人的発言”を記録。
・被験者が泣いた際、オペレーター命令を無視して抱擁。
・“ヒカル”という名前を、日常会話の中で繰り返し使用。
ヒカルは、眩むような気持ちでその言葉を見つめていた。
それは、どれも「本当の母親」がするような行動だった。
――でも、それは“逸脱”と記された。
「……母さんは、ただ俺を好きになってくれただけなのに」
「その“好意”が、制度にとっては最も厄介なノイズだったのです。
純粋な模倣が、感情を帯びてはならなかった」
「なら、なんで……俺の記憶を残してた? 母さんの声も、匂いも……」
「それは彼女の“エラー”でした。
だが、あなたにとっては“愛”と呼べる記憶だった」
ヒカルの手が、無意識に拳を握る。
「……じゃあ、母さんは?」
「制度上は“破棄済み”。だが――」
おもちの目が一瞬だけ揺れた。
「正確な所在は……現在、“不明”です」
「……!」
「記録上、彼女は“意識を持ったまま”家族センターを出た可能性がある。
そして、“ヒカルに会いたい”という発言を最後に、追跡不能となりました」
ヒカルの胸が大きく脈打つ。
どこかで、まだ――
「母さんが、生きてる可能性があるんだな」
「はい。……それが“真実”である保証はできませんが」
それでも、ヒカルの中で確かに何かが燃え始めていた。
記録としての人生を終わらせるのは、誰かの命令じゃない。
「探すよ。俺は、もう“与えられるだけの家族”で満足できない」
ヒカルは、おもちに向き直った。
「俺自身が、家族を取り戻す。母さんも、妹も、“本当の記憶”も全部だ」
おもちは、静かにうなずいた。
「了解しました。では――同行いたします。ヒカル」
ふたりの影が、記録室を後にした。
新たな“旅”が始まる。
それは、“レンタル”ではない、“自分の意志で選ぶ家族”を求める、終末への反逆の一歩だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
豊臣徳川両家政務会議録 〜天下のことをだいたい決める会〜
cozy0802
歴史・時代
会議系、歴史回避コメディ。
豊臣と徳川が“なぜか共存している”少し不思議な戦国時代。
そこでは定期的に、「天下のことをだいたい決める会」という政務会議が開かれている。
議長は淀殿。補佐は徳川秀忠殿。参考意見は豊臣秀次様。
そして私は――記録係、小早川秀秋。
議題はいつも重大。
しかし結論はだいたい、
「高度な政治的判断により現状維持」。
関ヶ原の到着時期の差異も、言いにくい史実も、
すべて会議の議事録として“やさしく処理”されていく。
これは、歴史が動きそうで動かない、
両家政務会議の史実回避コメディである。
だが――
この均衡がいつまで続くのかは、誰も知らない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる