終末レンタル家族

井上シオ

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第6章:真実の家

第53話「隕石情報の真偽」

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「ヒカル。君は、“隕石”を信じているのか?」

そう言ったのは、廃墟になった図書館の地下で出会った初老の男だった。
白髪交じりの無精髭。肩にかけたコートの内側には、古びた端末が複数隠されている。

「あなたは……?」

「元・情報管理局。今はただの観測者だよ。名前はカシワギ」

ヒカルは一瞬だけ警戒の色を見せたが、おもちが「危険性は低い」と判断し、警告を解除する。

「俺は“母親”を探してる。その手がかりになるかもしれない。――“隕石”って、本当に落ちてくるの?」

カシワギは鼻で笑った。

「本当に“来る”なら、君は今ここにいない。
……いや、“来る”ように設定されてるんだ。システムによってな」

ヒカルの顔に疑念が走る。

「設定……?」

「“終末”は、演出だ。最初から“絶対に来ない隕石”を、あたかも現実であるかのように仕立てた。
なぜだと思う?」

「……人を、操作するため?」

「そう。絶望は、管理しやすい」

端末を操作し、彼はスクリーンにある映像を映し出した。
それは“最初の隕石接近会見”とされる映像。

「見覚えあるだろ。公式放送のアレだ」

画面の中、官僚らしき人物が神妙な顔で“地球への巨大隕石衝突まであと1095日”と語っている。

「これ、背景の星図とズレてる。星の動きが、実際の軌道と一致しない。要するにCG合成だ」

「……でも、みんな信じてる。先生も、近所の人も……家族だって」

「家族? ああ、“レンタル”か。そいつらは全部、プログラム通りに“信じさせられてる”だけだよ」

ヒカルは黙って映像を見つめた。
3年前、母が言った最後の言葉を思い出す。

「ヒカル、どんな未来でも、私はあなたを守る」

――それも、演出だったのか?
そう思いかけた時、カシワギがふと静かに言った。

「でもな、少年。“偽りの終末”でも、人は“本物の感情”を持てる」

「……え?」

「君が泣いたり、笑ったり、怒ったりした日々は全部、本当だ。
それを、“誰かが作ったから偽物だ”って切り捨てるのは、もったいない」

ヒカルの手が震えた。

「……俺が泣いたのは、母さんがいなくなったからだ。
でも……あの記憶は、俺が感じた“本物”だった」

「その通り。終末が嘘でも、君の心までは嘘じゃない」

カシワギは、ヒカルに一枚のディスクを手渡した。

「これが、偽りの“終末情報”の全記録。だが使い方は君次第だ。
真実を知っても、すべてを壊す必要はない。“守る”選択もある」

ヒカルはその小さな円盤を握りしめた。

「……ありがとう。俺、母さんにこれを届ける」

「届けたら教えてやれ。――“未来は、自分で決めていい”ってな」

その言葉に背中を押され、ヒカルはカシワギと別れた。

曇った空の下。
隕石が落ちてくる予定の“あと何日”かの空虚なカウントが、今日も続いている。

でもヒカルは、それに怯えるだけの少年ではもうなかった。
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