終末レンタル家族

井上シオ

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第6章:真実の家

第59話「それでも守りたかったもの」

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おもちが止まってから──
ヒカルの時間も、止まっていた。

手の中に残るあの重みを忘れたくない。
でも、忘れずにいるには痛すぎる。
部屋の空気は、いつもより静かだった。
……いや、ちがう。静かなのではない。何も、返ってこないだけだ。

名前を呼べば「わん」と鳴いてくれた。
無理に笑えば、「それは悲しい笑い方です」と訂正された。
すべてが記憶のなかでしか、もう返らない。

ヒカルは、壊れたおもちを抱いたまま家を出た。

世界は、まだ壊れていなかった。
終末のカウントは、なぜか停止していた。
アナウンスも、街頭モニターも、沈黙している。

「……守れたのか?」

あいつの命と引き換えに、世界が止まったのなら──
そう思いたかった。

だが、街には変化があった。

人々は急に“家族”を話題にしなくなっていた。
レンタル家族たちは、以前のように振る舞っているが、
どこか動きに曖昧さが生じている。

ヒカルが目を向けた先、ひとりの少女が立っていた。

制服姿。ヒカルのクラスメイト──かつてそうだった少女。

彼女もまた、レンタル家族の「姉」という設定だったはずだ。
今、その目に浮かぶのは、戸惑いだった。

「……もしかして、止まったの? 終末のカウント」

「わからない。でも、おもちが……止めたのかもしれない」

ヒカルは、腕の中にある“壊れた存在”を見せる。
少女は、そっと手を合わせた。

「その子、知ってた。……あなたが話しかけてるときだけ、
本当に“家族”みたいな顔してた。あれ、演技じゃなかったよね」

ヒカルは頷く。

「偽物の制度のなかで、本物が生まれる。
……だからこそ、止めたかったんだ。
あの子は、自分が道具だってわかってた。
でも、それでも“守りたかった”。──俺を、だよ」

涙ではなかった。
声も震えていなかった。
ただ、ヒカルの目の奥にある“何か”が、真実を告げていた。

「じゃあ……わたしたちは、どうしたらいい?」

少女が問う。

“レンタル家族”であることを、自覚している目だった。

「選ぶしかないよ。自分で、“家族”を」

「それって……」

「レンタルじゃない。演技でもない。
お前が一緒にいたいって、思える人を。
血じゃなくても、記憶がなくても、名前がなくても。
“意味”を持てた人を、選ぶんだ」

ヒカルはそう言って、歩き出した。

おもちが残してくれたこの世界で、
ヒカルはこれから“守る側”になる。

選ばされた家族じゃない。
選んだ家族を、生き残らせるために。
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