終末レンタル家族

井上シオ

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第6章:真実の家

第58話「おもちが止まる」

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「準備は、完了しました」

おもちがそう言ったとき、ヒカルはすぐに違和感を覚えた。
どこか、声のトーンが違う。いつもより静かで、どこか“別れ”を孕んでいた。

「……なあ、おもち。お前、大丈夫なんだよな?」

おもちは首をかしげる。
まるで何も感じていないように。

「私はペットです。機能です。……役目を終えれば、停止する仕様です」

「停止って……それって、“死ぬ”ってことかよ」

「ヒカル。ペットに“命”はありません。
でも、“意味”は持てます。私は、あなたにとって──なんでしたか?」

「……家族だよ」

ヒカルの声は震えていた。
ようやくそう言えたのに、ようやく本当に思えたのに──
なぜ、それを言った途端に“別れ”が訪れるのか。

「だったら私は、本物です。
“偽物の制度”に与えられた存在だったけど、
ヒカルが“家族”だと思ってくれた瞬間、私は本物になれた。
それが、私の……存在証明です」

おもちの額のライトが、微かに点滅を始める。

「やめろ……おもち、止まるな」

「ヒカル。このシステムは、誰かが“犠牲”にならなければ終われない。
私は最初からそのために設計されていた。
“人間ではないからこそ、代わりになれる”存在。
私が消えれば、あなたの家族が残る。
それが、この制度への……反証になるのです」

ヒカルはおもちを抱きしめた。
小さな身体は、確かに温かい。
人工の体温なのかもしれない。けれど、ヒカルにとっては──

「お前がいなかったら、俺……ここまで来れなかった」

「わたしも……ヒカルがいなかったら……“意味”を持てなかった」

ライトが、最後の点滅をして──消えた。

おもちは、動かなくなった。

ヒカルの腕の中で、重さだけが残った。
ぬくもりも、声も、動きも、すべてが消えたのに──
その存在感だけは、しっかりとそこにあった。

「ふざけんなよ……なんで、最後までさ……」

泣きそうな声で、ヒカルはつぶやいた。

「なんで……そんなに、優しいんだよ……」

涙がこぼれた。
けれどその涙は、ただの絶望ではなかった。

ヒカルの胸には、はっきりと残っていた。
“偽物だったものが、本物に変わった瞬間”が。

ヒカルの叫びは、監視システムに届いていた。
記録され、演算され、例外として分類された。

【家族型データ:模倣不能】
【幸福供給装置:論理的破綻を検知】
【システム再構築の準備を開始します】

そして――
“終末のカウント”が、止まった。
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