終末レンタル家族

井上シオ

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第8章:おもちとヒカル

第73話「ペットであり、家族である存在」

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「ねえ、ヒカル。ぼくって、“ペット”なのかな」

夕暮れどき。
ヒカルとおもちは、並んで縁側に座っていた。
風が吹くたび、どこかで鈴の音のようなノイズが聞こえる。

ヒカルは、おもちの問いかけにしばらく考えてから答えた。

「うん。最初は、そうだったかもな。家族セットの“おまけ”って感じで」

「おまけ……」

おもちが、少し寂しそうに笑う。
その表情は、人工物には見えなかった。

「でも今は、ちがうよ」

「今は?」

ヒカルは立ち上がって、小さな庭に降りた。
一輪だけ咲いていた花を摘んで、おもちのそばに戻る。

「これ、母さんが好きだった花なんだ」

「……スズラン?」

「そう。母さん、誕生日にこれをくれたんだ。…覚えてる?」

おもちの目が、すこしだけ潤んだように見えた。

「録画ログにある。でも、ヒカルの記憶のほうが……あたたかい」

「お前は機械かもしれないけど、でも――」

ヒカルはスズランをおもちの胸元にそっと飾る。

「俺にとっては、もう“ただのペット”じゃない。家族だよ」

「……ほんとうに?」

「ああ。うん。母さんがいなくなって、俺を見ててくれたのは、お前だけだった」

ヒカルの声は、少し震えていた。

「誰もいない夜に、そばにいてくれて。俺の泣き顔、見てくれて。なのに、何も言わずにいてくれた」

「……言葉にしたら、ヒカルが壊れそうだったから」

おもちの言葉に、ヒカルは思わず笑ってしまった。
その優しさに、涙がこぼれそうになる。

「なあ、おもち。ペットって言葉、もうやめないか?」

「……やめる?」

「うん。これからは“おもち”って呼ぶ。ただの名前。でも、それだけでいいよな?」

「いい……ヒカルがつけてくれた名前、だもん」

静かな夕暮れ。
人工と記憶、ペットと人間、機械と感情。
それらの境界線が、溶けてゆくようだった。

「ねえ、ヒカル」

「ん?」

「ぼく、家族でいられて……うれしいよ」

ヒカルは、おもちの小さな手をそっと握った。

「俺も、お前がいてくれて……ほんとうに、よかった」


そしてその夜。
ヒカルは自分の部屋の机に向かって、一冊のノートを開いた。

タイトルは、こう書かれていた。

『ほんとうの家族ノート』
1ページ目:
家族は、選ぶことができる。
血よりも、形よりも、言葉よりも、
“いっしょにいてくれる”ことがすべてなんだ。

ヒカルは、そのページの端に、小さく「おもち」と書き添えた。

まるで、家族写真に名前を書くみたいに。
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