83 / 100
第9章:それでも世界は終わる
第83話「母の影」
しおりを挟む
「ヒカル、今日も郵便が届いてたよ」
おもちが差し出したのは、灰色の封筒。
差出人の欄には「幸福庁 家族再構築課」の文字。
ヒカルは、無言で封を切った。
「あなたの“母親の人格ファイル”は仮想世界内で再構築可能です。
“最期の会話”を希望されますか?」
「……なんだよこれ」
ヒカルは机に封筒を投げ捨てた。
「最期の会話、なんて勝手に用意するなよ……!」
おもちがそっと訊ねた。
「ヒカルの……お母さんって、どんな人?」
ヒカルはしばらく黙っていたが、ぽつりと口を開いた。
「明るくて、優しくて、ちょっと泣き虫だった」
「……じゃあ、なんでいなくなったの?」
「……俺のせい、だと思ってた」
ヒカルが8歳のとき。
母はある日、突然家を出た。
“疲れちゃったの。少しだけ、自分のことを考えたいの”
その言葉を最後に、連絡は途絶えた。
父は、「仕方ない」とだけ言い残して、ヒカルに背を向けた。
「母さんの写真も、全部捨てられた。
俺の記憶からも、どんどん薄れていった」
ヒカルは、少し笑った。
「だからさ、いま“人格ファイルで再会できます”って言われても、なんか……ズルいって思っちゃうんだよな」
「ズルい?」
「だって、“いなかった母親”が、いきなり“戻ってくる母親”に変わるんだぜ」
その夜。
ヒカルは、棚の奥にしまっていた小箱を取り出した。
そこには一枚の古いポラロイド写真があった。
母と手をつなぐ幼い自分。
その笑顔の中に、たしかにあった“ぬくもり”。
「なあ、おもち」
「うん?」
「たとえ本物じゃなくても……“あのとき”の母さんに会えるなら、会ってみたいと思うかな?」
おもちは少し黙って、言った。
「ヒカルが“会いたい”と思うなら、それはほんとうの母さんなんだと思う」
ヒカルは、そっと写真を胸に抱いた。
「俺、もう一度……母さんに会ってくる」
「……うん」
「“ありがとう”って、言えなかったから」
カウントゼロまで、あと27日。
おもちが差し出したのは、灰色の封筒。
差出人の欄には「幸福庁 家族再構築課」の文字。
ヒカルは、無言で封を切った。
「あなたの“母親の人格ファイル”は仮想世界内で再構築可能です。
“最期の会話”を希望されますか?」
「……なんだよこれ」
ヒカルは机に封筒を投げ捨てた。
「最期の会話、なんて勝手に用意するなよ……!」
おもちがそっと訊ねた。
「ヒカルの……お母さんって、どんな人?」
ヒカルはしばらく黙っていたが、ぽつりと口を開いた。
「明るくて、優しくて、ちょっと泣き虫だった」
「……じゃあ、なんでいなくなったの?」
「……俺のせい、だと思ってた」
ヒカルが8歳のとき。
母はある日、突然家を出た。
“疲れちゃったの。少しだけ、自分のことを考えたいの”
その言葉を最後に、連絡は途絶えた。
父は、「仕方ない」とだけ言い残して、ヒカルに背を向けた。
「母さんの写真も、全部捨てられた。
俺の記憶からも、どんどん薄れていった」
ヒカルは、少し笑った。
「だからさ、いま“人格ファイルで再会できます”って言われても、なんか……ズルいって思っちゃうんだよな」
「ズルい?」
「だって、“いなかった母親”が、いきなり“戻ってくる母親”に変わるんだぜ」
その夜。
ヒカルは、棚の奥にしまっていた小箱を取り出した。
そこには一枚の古いポラロイド写真があった。
母と手をつなぐ幼い自分。
その笑顔の中に、たしかにあった“ぬくもり”。
「なあ、おもち」
「うん?」
「たとえ本物じゃなくても……“あのとき”の母さんに会えるなら、会ってみたいと思うかな?」
おもちは少し黙って、言った。
「ヒカルが“会いたい”と思うなら、それはほんとうの母さんなんだと思う」
ヒカルは、そっと写真を胸に抱いた。
「俺、もう一度……母さんに会ってくる」
「……うん」
「“ありがとう”って、言えなかったから」
カウントゼロまで、あと27日。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる