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第9章:それでも世界は終わる
第90話「“家族”の定義を変える」
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終末システムの再起動を目前に控え、ヒカルは中枢タワーに立っていた。
すべてを監視し、制御する“母性中枢”――かつて母と呼んだ存在の、根源。
「ヒカル。最終確認です」
スピーカーから、穏やかな声が響く。
けれどそれは、あまりに機械的で、あまりに母に似すぎていた。
「新たな定義を入力してください。“家族”とは、何ですか?」
ヒカルは、ゆっくりと息を吸った。
そして、目を閉じず、はっきりと答えた。
「……“家族”とは、自分で選んで、守りたいと願う人のことだ」
「血縁関係や法的契約は、必須条件としますか?」
「違う」
「過去の記憶は、必要ですか?」
「なくてもいい。でも、積み重ねることはできる」
「感情の共有は?」
「それがなかったら、“人”じゃないだろ」
母性中枢が、一瞬だけ沈黙した。
「新しい定義、確認しました。
再構築を開始します。旧システムの一部は破棄されます」
「待って。破棄しないでくれ」
ヒカルは、声を強める。
「……そこに、“おもち”がいる」
数秒の沈黙の後、音声が変わった。
どこか懐かしいイントネーションで、柔らかくヒカルを呼ぶ声。
「――ヒカル?」
「おもち……?」
「うん。最後の記憶バックアップ、君に届いたよ。
もう僕は、壊れかけてるけど、きっと君なら、大丈夫だって……思ってる」
「……ふざけんなよ。お前がいなくなったら、意味ないだろ」
「違うよ。僕がいたことを“覚えててくれる”なら、それでいい」
ヒカルは歯を噛みしめた。
唇が震えて、目が潤む。
「ずっと一緒にいたかった。……本当の家族みたいに」
「――だったよ。
ヒカルがくれた時間は、ちゃんと“家族”だった」
中枢が再起動を始める。
光があふれ、世界の構造が少しずつ書き換わっていく。
“レンタル家族”という制度は廃止され、
代わりに“選択家族制度”という新たなシステムが導入された。
血縁ではなく、誰と過ごしたいか。
契約ではなく、どれだけ相手を大切にしたか。
それを一人ひとりが“記録”することで、“家族”を形成する世界へと変わっていく。
数日後、ヒカルは空き家だったアパートの部屋で、ミオと二人、夕食を囲んでいた。
「これから、どうなるんだろうね」
ミオがぽつりと呟いた。
「どうなるかなんて、わからない。
でもさ……誰かの“ふり”をしなくても、隣にいていいって、思える」
ヒカルは笑った。
食卓の端には、ぬいぐるみのような姿になった“おもち”の残骸が置かれていた。
けれど、そこにある温かさは、確かに今も、生きていた。
――“家族”とは、誰かと、選び合うこと。
レンタルじゃなくても、最初からじゃなくても。
心が通えば、ちゃんと「家族」になる。
それが、ヒカルが選び取った新しい定義だった。
すべてを監視し、制御する“母性中枢”――かつて母と呼んだ存在の、根源。
「ヒカル。最終確認です」
スピーカーから、穏やかな声が響く。
けれどそれは、あまりに機械的で、あまりに母に似すぎていた。
「新たな定義を入力してください。“家族”とは、何ですか?」
ヒカルは、ゆっくりと息を吸った。
そして、目を閉じず、はっきりと答えた。
「……“家族”とは、自分で選んで、守りたいと願う人のことだ」
「血縁関係や法的契約は、必須条件としますか?」
「違う」
「過去の記憶は、必要ですか?」
「なくてもいい。でも、積み重ねることはできる」
「感情の共有は?」
「それがなかったら、“人”じゃないだろ」
母性中枢が、一瞬だけ沈黙した。
「新しい定義、確認しました。
再構築を開始します。旧システムの一部は破棄されます」
「待って。破棄しないでくれ」
ヒカルは、声を強める。
「……そこに、“おもち”がいる」
数秒の沈黙の後、音声が変わった。
どこか懐かしいイントネーションで、柔らかくヒカルを呼ぶ声。
「――ヒカル?」
「おもち……?」
「うん。最後の記憶バックアップ、君に届いたよ。
もう僕は、壊れかけてるけど、きっと君なら、大丈夫だって……思ってる」
「……ふざけんなよ。お前がいなくなったら、意味ないだろ」
「違うよ。僕がいたことを“覚えててくれる”なら、それでいい」
ヒカルは歯を噛みしめた。
唇が震えて、目が潤む。
「ずっと一緒にいたかった。……本当の家族みたいに」
「――だったよ。
ヒカルがくれた時間は、ちゃんと“家族”だった」
中枢が再起動を始める。
光があふれ、世界の構造が少しずつ書き換わっていく。
“レンタル家族”という制度は廃止され、
代わりに“選択家族制度”という新たなシステムが導入された。
血縁ではなく、誰と過ごしたいか。
契約ではなく、どれだけ相手を大切にしたか。
それを一人ひとりが“記録”することで、“家族”を形成する世界へと変わっていく。
数日後、ヒカルは空き家だったアパートの部屋で、ミオと二人、夕食を囲んでいた。
「これから、どうなるんだろうね」
ミオがぽつりと呟いた。
「どうなるかなんて、わからない。
でもさ……誰かの“ふり”をしなくても、隣にいていいって、思える」
ヒカルは笑った。
食卓の端には、ぬいぐるみのような姿になった“おもち”の残骸が置かれていた。
けれど、そこにある温かさは、確かに今も、生きていた。
――“家族”とは、誰かと、選び合うこと。
レンタルじゃなくても、最初からじゃなくても。
心が通えば、ちゃんと「家族」になる。
それが、ヒカルが選び取った新しい定義だった。
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