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最終章:最初で最後の家族
第91話「“母”という役を与えた存在」
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“終末”が過ぎた世界。
空は少し曇っていたけれど、不思議な静けさに包まれていた。
ヒカルは、ひとりで旧中央記録館を訪れていた。
そこにはかつて、終末システムの礎となった“人格ファイル”が保管されている。
重い扉を押し開け、奥へと進む。
目的はただひとつ――“母”という役を与えられた、あの存在にもう一度会うこと。
カプセルの中に静かに眠る仮想人格体。
それはかつて、ヒカルの記憶の中の“母”の声や表情をベースに、作り上げられたものだった。
「……君が来ると思っていたよ」
声がした。
機械に繋がれたその“母”は、ヒカルの姿を見て微笑む。
「僕は“母親”じゃない。ただ、君の記憶に沿って演じていただけ。
それでも、君が望むなら……また“母”として話すこともできる」
ヒカルは首を振った。
「……もう、いらない。俺は、自分で“母”を思い出せるから」
「そう」
「でも――お礼は言いたくて来た」
しばらく沈黙が流れた。
「……ありがとう。子どもを演じるには、いろんな痛みがあったけど……君の“演技”があったから、俺は、生き延びられた」
仮想人格の“母”は、静かにうなずいた。
「そう言ってくれるなら、本望だよ。……だけど、君はもう、“母を必要としない子ども”になってしまったね」
帰り道。
ヒカルは、空を見上げた。
かつて、自分の中にだけあった“母”の存在。
それを誰かが演じてくれていたから、自分は“子ども”でいられた。
だけど今――
自分は、誰かのために“何者か”を演じることも、できる気がしていた。
「ただいま」
部屋に戻ると、ミオがカレーを温めていた。
テーブルには三人分の皿。ひとつは、ぬいぐるみのおもちの前。
「……なにこれ」
「なんとなく。ヒカルが帰ってきたら、家族っぽく見えるかなって思って」
ヒカルは笑った。
「そっか。“母”っていう役は、誰かに演じてもらうだけじゃなくて、自分で思い出すものなんだなって」
「うん。お兄ちゃんも“お兄ちゃん”っていう役、ずっと頑張ってたよね」
「もう演技じゃなくていい。“俺たちの家族”を作ろう」
三人目の皿にスプーンを添える。
言葉にする必要はなかったけれど、それはたしかに、小さな“選択”だった。
――選んだ。
この日から、ヒカルは“誰かの子ども”じゃなく、“誰かの家族”になった。
空は少し曇っていたけれど、不思議な静けさに包まれていた。
ヒカルは、ひとりで旧中央記録館を訪れていた。
そこにはかつて、終末システムの礎となった“人格ファイル”が保管されている。
重い扉を押し開け、奥へと進む。
目的はただひとつ――“母”という役を与えられた、あの存在にもう一度会うこと。
カプセルの中に静かに眠る仮想人格体。
それはかつて、ヒカルの記憶の中の“母”の声や表情をベースに、作り上げられたものだった。
「……君が来ると思っていたよ」
声がした。
機械に繋がれたその“母”は、ヒカルの姿を見て微笑む。
「僕は“母親”じゃない。ただ、君の記憶に沿って演じていただけ。
それでも、君が望むなら……また“母”として話すこともできる」
ヒカルは首を振った。
「……もう、いらない。俺は、自分で“母”を思い出せるから」
「そう」
「でも――お礼は言いたくて来た」
しばらく沈黙が流れた。
「……ありがとう。子どもを演じるには、いろんな痛みがあったけど……君の“演技”があったから、俺は、生き延びられた」
仮想人格の“母”は、静かにうなずいた。
「そう言ってくれるなら、本望だよ。……だけど、君はもう、“母を必要としない子ども”になってしまったね」
帰り道。
ヒカルは、空を見上げた。
かつて、自分の中にだけあった“母”の存在。
それを誰かが演じてくれていたから、自分は“子ども”でいられた。
だけど今――
自分は、誰かのために“何者か”を演じることも、できる気がしていた。
「ただいま」
部屋に戻ると、ミオがカレーを温めていた。
テーブルには三人分の皿。ひとつは、ぬいぐるみのおもちの前。
「……なにこれ」
「なんとなく。ヒカルが帰ってきたら、家族っぽく見えるかなって思って」
ヒカルは笑った。
「そっか。“母”っていう役は、誰かに演じてもらうだけじゃなくて、自分で思い出すものなんだなって」
「うん。お兄ちゃんも“お兄ちゃん”っていう役、ずっと頑張ってたよね」
「もう演技じゃなくていい。“俺たちの家族”を作ろう」
三人目の皿にスプーンを添える。
言葉にする必要はなかったけれど、それはたしかに、小さな“選択”だった。
――選んだ。
この日から、ヒカルは“誰かの子ども”じゃなく、“誰かの家族”になった。
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