終末レンタル家族

井上シオ

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最終章:最初で最後の家族

第95話「もう誰も消えない世界」

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朝が来た。
ヒカルは目を覚ますと、そばにあるぬいぐるみに手を伸ばした。

おもちは……もう返事をしなかった。

ただ静かに、そこに「いる」だけだった。

それでも、ヒカルは感じていた。
このぬいぐるみの中に宿った「想い」は、まだ自分とともにあると。

街は静かだった。
終末カウントは残り10日。

だが、どこかに焦りや混乱はなかった。
人々は「選んでしまった」からだ。
本物より、レンタルの方が幸せだという選択を。

「ヒカルくん、君だけだよ。世界を止めようとしてるのは」

エリアマネージャーの女が言った。

「私たちももう疲れてるの。本当の家族に裏切られて、傷ついて、ボロボロになった人間にとって、レンタル家族は優しい嘘なの。誰にも傷つけられずに済む、平和な嘘」

ヒカルは黙っていた。

彼女の言葉は、ある意味で正しい。
人はみな、何かしらを失ってここへ来た。

でも――。

「……でも、それで誰かが“消えて”いいわけじゃない」

ヒカルが言った。

「“嘘で幸せになれるなら、壊しても構わない”っていうのは、誰かにとっては“最悪の選択”だ。俺がそうだった。おもちが、そうだった」

女は眉を寄せた。

「じゃあ、何を望むの?
 本物の家族? 自分で作る? それで、誰かがまた傷ついても?」

「……それでも、俺は“自分で選んだ人”と生きたいんだ」

ヒカルの声は震えていた。

だけどその言葉には、確かな“強さ”があった。

ヒカルはミオと並んで歩いた。

「ミオ。俺ね……おもちのことで、ずっと後悔してた。もっと早く気づけば、もっとちゃんと“ありがとう”って言えたのに」

ミオはうなずく。

「でもさ、それってさ。おもちがヒカルに“後悔”させてくれる存在だったってことだよ。大事だったからこそ、悔しいんだよ」

ヒカルは小さく笑った。

「そっか。……じゃあ俺、おもちに“届くかわかんないけど”、手紙書くわ」

その夜。

ヒカルは部屋にこもって、手紙を書いた。

「おもちへ」

「お前がいてくれて、本当に良かった」

「俺が“誰かを信じていい”って思えたのは、お前のおかげだ」

「名前をくれたのは、俺だけど――ほんとは、俺がお前に“名前を呼んでもらった”ことで、救われてたんだと思う」

「俺、これからも生きるよ」

「自分で、自分の手で、“本当の家族”を作る。何度傷ついても、ちゃんと目を見て、“またね”って言える世界にしたい」

「ありがとう」

「もう誰も、消えないようにするから」

手紙を書き終えると、ヒカルはぬいぐるみの胸元にそれをしまった。

「……もう一回、俺に“生きてていい”って、言ってくれた気がするよ」

外では夜が明けかけていた。

けれどヒカルの中では、
もう、朝は来ていた。
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