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第10章:虚構の終焉
第77話:“影”の戴冠式
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六月、安土城。
庭に設えられた一段高い壇の上で、十兵衛は正装に身を包んでいた。
金の羽織、黒の裃、そして――
その額には、誰も見たことのない“信長の象徴”とされる冠が載せられていた。
「殿下、此度の“儀”は……」
脇に控える秀吉が、まだ迷うように問う。
「朝廷より正式な勅許も出ておりませぬ。“信長公の模倣”と誹られるやも……」
十兵衛は口元をわずかに緩めた。
「模倣だとて構わぬ。民が見て、家臣が信じれば、それは本物だ」
儀式とは、ただの“信仰の演出”にすぎぬ。
そして、信仰とは常に「見せ方」が作るものだ。
神主を招き、戦勝祈願の儀式をそのまま“天下人の即位”に読み替える。
あくまで「信長公の威光を広めるため」という名目だ。
しかし――その場に集った数千の家臣と諸将は、皆、息を呑んで見ていた。
“あれが、本当に信長なのか”
“いや、信長以上の……何かだ”
大鼓の音とともに、十兵衛が手を掲げた。
「我が名は、織田信長。天下を照らす、日の本の将なり」
瞬間――家臣のひとりが、思わず地に額をつけた。
それを皮切りに、他の者たちも、次々に頭を垂れていく。
「信長公、万歳!」
「信長公に忠義を!」
その声は、やがて波のように広がっていった。
――そして、式の裏。
濃姫は、静かに式を見つめながら、呟いた。
「貴方はもう、“十兵衛”ではないのですね」
それは、祝福か、それとも哀悼か。
十兵衛の心は、もはやそれを受け取る感性を失っていた。
その夜。儀式を終えた十兵衛は、筆を執って日記にこう記す。
本日をもって、影は主となる。
われ、信長の名を継ぎ、信長の意を越える。
影なるがゆえに、真に信長たり得る。
庭に設えられた一段高い壇の上で、十兵衛は正装に身を包んでいた。
金の羽織、黒の裃、そして――
その額には、誰も見たことのない“信長の象徴”とされる冠が載せられていた。
「殿下、此度の“儀”は……」
脇に控える秀吉が、まだ迷うように問う。
「朝廷より正式な勅許も出ておりませぬ。“信長公の模倣”と誹られるやも……」
十兵衛は口元をわずかに緩めた。
「模倣だとて構わぬ。民が見て、家臣が信じれば、それは本物だ」
儀式とは、ただの“信仰の演出”にすぎぬ。
そして、信仰とは常に「見せ方」が作るものだ。
神主を招き、戦勝祈願の儀式をそのまま“天下人の即位”に読み替える。
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しかし――その場に集った数千の家臣と諸将は、皆、息を呑んで見ていた。
“あれが、本当に信長なのか”
“いや、信長以上の……何かだ”
大鼓の音とともに、十兵衛が手を掲げた。
「我が名は、織田信長。天下を照らす、日の本の将なり」
瞬間――家臣のひとりが、思わず地に額をつけた。
それを皮切りに、他の者たちも、次々に頭を垂れていく。
「信長公、万歳!」
「信長公に忠義を!」
その声は、やがて波のように広がっていった。
――そして、式の裏。
濃姫は、静かに式を見つめながら、呟いた。
「貴方はもう、“十兵衛”ではないのですね」
それは、祝福か、それとも哀悼か。
十兵衛の心は、もはやそれを受け取る感性を失っていた。
その夜。儀式を終えた十兵衛は、筆を執って日記にこう記す。
本日をもって、影は主となる。
われ、信長の名を継ぎ、信長の意を越える。
影なるがゆえに、真に信長たり得る。
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