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第18章 戦火
5.戦火
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「リオン!!」
今度は止めることが出来なかった。
リオンは一瞬のうちに城壁の上から身を躍らせた。
そのままふわりと着地し、エラジーを振るって周りの敵を悪鬼のごとく切り伏せていく。
青一面だったそこに、リオンを中心とした血の魔法陣が出来上がった。
おそらくは禁呪。
人間の血を大量に使った、大魔法陣。
「ヴァティール・ライド・エーシャ!!」
魔法陣から禍々しい火炎が浮かび上がり、城門をこじ開けようとしていた兵士たちを襲う。
『魔獣』の名を冠した魔術の威力は絶大で、千名近い兵士たちが一瞬で炎に飲まれる。
破城槌も巨大な炎に包まれて燃え上がった。
あれではもう使い物にならないだろう。
しかし魔法陣の方も数秒ともたず解けてしまう。
術は失敗だったのか!?
炎術に身を焼かれて転げまわる者たちを押しのけるようにして、一旦ひるんだアレス帝国兵が円形にリオンを囲む。
その数は数千。
炎術を警戒してなのか、距離は少しある。
リオンは許容量を超えた大魔道を使ったせいか、肩で息をしている。
「馬鹿ね!!
ボーっとしている場合じゃないでしょ!!
さっさと援護しなさいよッ!!!」
アリシアの切羽詰った怒鳴り声に、俺は長弓に矢をつがえ次々と放った。
他の者も、ハッとしたように同じくリオンを援護する。
この位置なら、矢は届く。
王子時代に仕込まれ、その頃よりはるかに長身となった俺の最大射程距離は400メルトル程。他の者もその半分弱なら充分届く。
もちろん精度はさほどではないが、威嚇にはなるし、リオンと敵兵の間にはそれなりの距離がある。
下手でもさすがにリオンにはかすらないだろうし、運が良ければ密集している敵兵に当たる。
少ない手数では、雨のように矢を降らすところまではいかないが……リオンが回復できるまで、少しでも時間を稼がねば。
息を整えたリオンは一角から敵陣に突っ込み、もう一度『魔獣』の名を冠した大魔術を発動させた。
数百の兵が炎に飲まれたが、先程よりは威力は無い。
立っているのもやっとのようなリオンを、再び兵士たちが遠巻きに囲む。
「何をやっている! 奴に回復の時間を与えるな!!
即刻に討ち取れッ!!」
敵将の雷のような声が響き、兵の一部がリオンに向かって突っ込んでいった。
リオンは荒い息を吐きながら、魔術と魔剣を交互に使い敵を倒していく。
しかし、いくら倒しても敵兵は減らない。
それどころか、すぐ側の街道に別の帝国軍数千の姿が遠くまで見えた。
数時間もしないうちに彼らは此処にたどり着くだろう。
「リオン! 戻ってこい!!」
混戦状態ではあるが、リオンは耳が良い。
俺の声なら聞き分けるはずだ。
そして魔術を使えるリオンなら、城壁を越えて帰城出来るかもしれない。
「リオン!!」
祈るように叫ぶ、俺とリオンの視線が一瞬……合ったような気がした。
それは、その直後の事だった。
「ぐ……っ」
リオンの体が赤く染まっていく。
後ろから襲ってきた兵士の剣を、弟は防ぎきれなかった。
体力はとうに切れ、動きは鈍くなっていた。
でも、それ以上に――――――俺の声に気を取られて上手くさばけなかったように、俺には見えた。
それからは一方的な戦いだった。
何人もの兵士に切り裂かれ、剣を突き立てられ、それでもリオンは倒れなかった。
声をかけたいのに……俺が叫べばリオンの邪魔になる。
必死に声を押し留め、ただ目の前の光景を凝視する事しかできなかった。
リオンは血止めの呪文を唱えながら、ひたすら魔剣を振り回す。
魔剣の刃はどんどん短くなって、今ではまるで懐剣のようにしか見えない。
魔力に反応するあの剣の様子からして……もうリオンに戦う力なんて残っていない。
とうとうリオンの体が地に臥した。
その瞬間を狙い定めるように数本の槍が飛んできて、小さな体を串刺しにする。
敵の将校らしき大男がリオンの前に歩み出て、血で濡れた体につばを吐きかけた。
「汚らわしき死神よ。よくも私の部下を何千人も殺してくれたなッ!!」
男が憎々しげにリオンの背を踏みつけると、リオンの口からは大量の血がこぼれた。
「貴様も赤い血を流すようだが、本当に人間なのか?
腹を割いて中を見てやろう」
そう言うと将校は、倒れたリオンの髪を掴んで高く掲げた。
「止めてくれっ!!
リオン!! リオンを……返せぇぇ!!!」
俺の叫びに、将校は振り向いた。
そして俺に良く見えるようリオンの体をこちらに向けると、一気にリオンの腹を切り裂いた。
リオンの唇がわずかに動く。
ボ ク ヲ ワ ス レ ナ イ デ
それっきり、リオンは動かなくなった。
「うわああああああああああああ!!!」
リオンを追って飛び降りようとする俺の体を、ブラディとアッサムが羽交い締めにする。
「離せ! 離してくれッ!!」
振りほどこうとしても、それは叶わなかった。
他の数人も加わって俺を押さえつける。
ふと、大魔道士アースラの言葉が聞こえたような気がした。
あの時、アースラは言ったではないか。
「呪われろ」
「これから永遠に生き地獄を這いずり回るがいい」
アースラが心血を注いで造った美しい国を、俺は壊した。
俺が捨ててきた故国・エルシオンの民の中には、リオンのように無残に殺された者もきっと大勢いたに違いない。
その事実から目を背けて、俺は『弟と楽しく暮らすこと』に重きを置いて過ごしていた。
これが……彼の言う『罰』なのだろうか……?
国を滅ぼし、再興も忘れた愚かな王子。
だから、『罰』を与えられたのだ。
どこに逃げようと、エルシオンを踏みにじった俺を……きっと『呪い』は追ってくる。平安なんて、永遠に訪れない。
俺は『国を滅ぼす不吉の王子』としていつまでも生き続けなければならないのだ。
今度は止めることが出来なかった。
リオンは一瞬のうちに城壁の上から身を躍らせた。
そのままふわりと着地し、エラジーを振るって周りの敵を悪鬼のごとく切り伏せていく。
青一面だったそこに、リオンを中心とした血の魔法陣が出来上がった。
おそらくは禁呪。
人間の血を大量に使った、大魔法陣。
「ヴァティール・ライド・エーシャ!!」
魔法陣から禍々しい火炎が浮かび上がり、城門をこじ開けようとしていた兵士たちを襲う。
『魔獣』の名を冠した魔術の威力は絶大で、千名近い兵士たちが一瞬で炎に飲まれる。
破城槌も巨大な炎に包まれて燃え上がった。
あれではもう使い物にならないだろう。
しかし魔法陣の方も数秒ともたず解けてしまう。
術は失敗だったのか!?
炎術に身を焼かれて転げまわる者たちを押しのけるようにして、一旦ひるんだアレス帝国兵が円形にリオンを囲む。
その数は数千。
炎術を警戒してなのか、距離は少しある。
リオンは許容量を超えた大魔道を使ったせいか、肩で息をしている。
「馬鹿ね!!
ボーっとしている場合じゃないでしょ!!
さっさと援護しなさいよッ!!!」
アリシアの切羽詰った怒鳴り声に、俺は長弓に矢をつがえ次々と放った。
他の者も、ハッとしたように同じくリオンを援護する。
この位置なら、矢は届く。
王子時代に仕込まれ、その頃よりはるかに長身となった俺の最大射程距離は400メルトル程。他の者もその半分弱なら充分届く。
もちろん精度はさほどではないが、威嚇にはなるし、リオンと敵兵の間にはそれなりの距離がある。
下手でもさすがにリオンにはかすらないだろうし、運が良ければ密集している敵兵に当たる。
少ない手数では、雨のように矢を降らすところまではいかないが……リオンが回復できるまで、少しでも時間を稼がねば。
息を整えたリオンは一角から敵陣に突っ込み、もう一度『魔獣』の名を冠した大魔術を発動させた。
数百の兵が炎に飲まれたが、先程よりは威力は無い。
立っているのもやっとのようなリオンを、再び兵士たちが遠巻きに囲む。
「何をやっている! 奴に回復の時間を与えるな!!
即刻に討ち取れッ!!」
敵将の雷のような声が響き、兵の一部がリオンに向かって突っ込んでいった。
リオンは荒い息を吐きながら、魔術と魔剣を交互に使い敵を倒していく。
しかし、いくら倒しても敵兵は減らない。
それどころか、すぐ側の街道に別の帝国軍数千の姿が遠くまで見えた。
数時間もしないうちに彼らは此処にたどり着くだろう。
「リオン! 戻ってこい!!」
混戦状態ではあるが、リオンは耳が良い。
俺の声なら聞き分けるはずだ。
そして魔術を使えるリオンなら、城壁を越えて帰城出来るかもしれない。
「リオン!!」
祈るように叫ぶ、俺とリオンの視線が一瞬……合ったような気がした。
それは、その直後の事だった。
「ぐ……っ」
リオンの体が赤く染まっていく。
後ろから襲ってきた兵士の剣を、弟は防ぎきれなかった。
体力はとうに切れ、動きは鈍くなっていた。
でも、それ以上に――――――俺の声に気を取られて上手くさばけなかったように、俺には見えた。
それからは一方的な戦いだった。
何人もの兵士に切り裂かれ、剣を突き立てられ、それでもリオンは倒れなかった。
声をかけたいのに……俺が叫べばリオンの邪魔になる。
必死に声を押し留め、ただ目の前の光景を凝視する事しかできなかった。
リオンは血止めの呪文を唱えながら、ひたすら魔剣を振り回す。
魔剣の刃はどんどん短くなって、今ではまるで懐剣のようにしか見えない。
魔力に反応するあの剣の様子からして……もうリオンに戦う力なんて残っていない。
とうとうリオンの体が地に臥した。
その瞬間を狙い定めるように数本の槍が飛んできて、小さな体を串刺しにする。
敵の将校らしき大男がリオンの前に歩み出て、血で濡れた体につばを吐きかけた。
「汚らわしき死神よ。よくも私の部下を何千人も殺してくれたなッ!!」
男が憎々しげにリオンの背を踏みつけると、リオンの口からは大量の血がこぼれた。
「貴様も赤い血を流すようだが、本当に人間なのか?
腹を割いて中を見てやろう」
そう言うと将校は、倒れたリオンの髪を掴んで高く掲げた。
「止めてくれっ!!
リオン!! リオンを……返せぇぇ!!!」
俺の叫びに、将校は振り向いた。
そして俺に良く見えるようリオンの体をこちらに向けると、一気にリオンの腹を切り裂いた。
リオンの唇がわずかに動く。
ボ ク ヲ ワ ス レ ナ イ デ
それっきり、リオンは動かなくなった。
「うわああああああああああああ!!!」
リオンを追って飛び降りようとする俺の体を、ブラディとアッサムが羽交い締めにする。
「離せ! 離してくれッ!!」
振りほどこうとしても、それは叶わなかった。
他の数人も加わって俺を押さえつける。
ふと、大魔道士アースラの言葉が聞こえたような気がした。
あの時、アースラは言ったではないか。
「呪われろ」
「これから永遠に生き地獄を這いずり回るがいい」
アースラが心血を注いで造った美しい国を、俺は壊した。
俺が捨ててきた故国・エルシオンの民の中には、リオンのように無残に殺された者もきっと大勢いたに違いない。
その事実から目を背けて、俺は『弟と楽しく暮らすこと』に重きを置いて過ごしていた。
これが……彼の言う『罰』なのだろうか……?
国を滅ぼし、再興も忘れた愚かな王子。
だから、『罰』を与えられたのだ。
どこに逃げようと、エルシオンを踏みにじった俺を……きっと『呪い』は追ってくる。平安なんて、永遠に訪れない。
俺は『国を滅ぼす不吉の王子』としていつまでも生き続けなければならないのだ。
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