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第22章 許し
5.許し
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俺とヴァティールは同室だ。
リオンの面影を消されるようで本当は不快だったが、ヴァティールが強く望んだので仕方が無い。
昼はアリシアかウルフが張り付いているが、夜間魔獣を野放しにするのはやはりためらわれるので、どちらにせよ俺と同室にせざるをえないという理由もある。
魔獣といえども人間の体を使う以上は睡眠をとるようで、夜はベットに横になって眠る。
しかしそのうちきっと……奴は動き出す。
俺は眠ったふりをして、ヴァティールが起きだすのを待った。
それを数日繰り返す。
ある日の真夜中、ついに隣のベットで起き上がる気配がした。
ささやくような呪文に続き、何かが月明かりを小さく反射する。
魔剣エラジー。その刀身に光が反射したのだ。
俺は気づかれないよう薄く眼を開けてその様子を伺った。
ヴァティールは血止めの呪文を囁きながら刀身を自分の方に向けると、一気に自分の心臓を貫いた。
「何をしているんだ!! ヴァティール!!!」
ヴァティールはしまったという顔で振り向いた。
魔獣の胸には刀身が刺さったままだ。
「……気にするな。この体を殺しているだけだ」
ヴァティールは痛みのためか、顔をゆがめてそう言った。
「その体は俺の弟の体だ!!
おかしいと思っていた。リオンが復活しないなんて!!
お前はリオンが出てこれないように、体が修復を終える寸前に再び壊して使っていたんだ!!
そこまでしてその体を使いたいのかっ!!」
俺は激情のままにヴァティールの襟首を掴んだ。
「……当たり前だろう。
他に移る体が無いのなら、どんな痛みに耐えてもこの体にしがみつくしかない。
ワタシは何百年もの間、王家の奴隷として屈服させられてきた。
その気持ち、オマエなどにはわかるまいよ」
魔獣は俺の手を振り払い、魔剣を元通り鞘に納めた。
そうして少し寂しげな顔をして言った。
「ワタシは王家の者は嫌いだが、子供のオマエに罪があるわけじゃなし……リオンとて憎きアースラの人器といえど、哀れには思う。
リオンは死ぬ間際、オマエのことだけを考えていた。
憎しみも恨みもなく『世界で一番大事な』オマエのことだけを。
オマエがアレを覚えていてくれさえいれば、そしてオマエが幸せに生きてくれさえいれば、それでリオンは満足なのだ。
……だから、せめてワタシがあれの代わりにオマエを守ってやろうとずっと傍にいた。
ブルボア王国に手も貸してやった」
そう言ってヴァティールは目を閉じた。
「オマエと過ごすのは結構楽しかったよ。でも目障りだと言うのなら、この部屋から出て行ってやる。
それでもワタシはオマエを守ってやるし……そうだな、これからはアリシアと暮らすがいい。
エリスが結婚したと言うのに、うんと年上のアリシアがいつまでも独り身というのは可哀想だ」
そうしてヴァティールは自分の荷物をいくらか引っ張り出し始めた。
元々リオンの持ち物だった物は一つも出さなかったので、一応俺に気を使ってくれているのかもしれない。
「なぁエル……この体を殺しても、痛いのはワタシだけだ。
深く眠っているリオンに、痛みは全く無い。安心しろ」
ヴァティールは振り向きもせず、そのまま出て行った。
俺はその場から動けなかった。
リオンの面影を消されるようで本当は不快だったが、ヴァティールが強く望んだので仕方が無い。
昼はアリシアかウルフが張り付いているが、夜間魔獣を野放しにするのはやはりためらわれるので、どちらにせよ俺と同室にせざるをえないという理由もある。
魔獣といえども人間の体を使う以上は睡眠をとるようで、夜はベットに横になって眠る。
しかしそのうちきっと……奴は動き出す。
俺は眠ったふりをして、ヴァティールが起きだすのを待った。
それを数日繰り返す。
ある日の真夜中、ついに隣のベットで起き上がる気配がした。
ささやくような呪文に続き、何かが月明かりを小さく反射する。
魔剣エラジー。その刀身に光が反射したのだ。
俺は気づかれないよう薄く眼を開けてその様子を伺った。
ヴァティールは血止めの呪文を囁きながら刀身を自分の方に向けると、一気に自分の心臓を貫いた。
「何をしているんだ!! ヴァティール!!!」
ヴァティールはしまったという顔で振り向いた。
魔獣の胸には刀身が刺さったままだ。
「……気にするな。この体を殺しているだけだ」
ヴァティールは痛みのためか、顔をゆがめてそう言った。
「その体は俺の弟の体だ!!
おかしいと思っていた。リオンが復活しないなんて!!
お前はリオンが出てこれないように、体が修復を終える寸前に再び壊して使っていたんだ!!
そこまでしてその体を使いたいのかっ!!」
俺は激情のままにヴァティールの襟首を掴んだ。
「……当たり前だろう。
他に移る体が無いのなら、どんな痛みに耐えてもこの体にしがみつくしかない。
ワタシは何百年もの間、王家の奴隷として屈服させられてきた。
その気持ち、オマエなどにはわかるまいよ」
魔獣は俺の手を振り払い、魔剣を元通り鞘に納めた。
そうして少し寂しげな顔をして言った。
「ワタシは王家の者は嫌いだが、子供のオマエに罪があるわけじゃなし……リオンとて憎きアースラの人器といえど、哀れには思う。
リオンは死ぬ間際、オマエのことだけを考えていた。
憎しみも恨みもなく『世界で一番大事な』オマエのことだけを。
オマエがアレを覚えていてくれさえいれば、そしてオマエが幸せに生きてくれさえいれば、それでリオンは満足なのだ。
……だから、せめてワタシがあれの代わりにオマエを守ってやろうとずっと傍にいた。
ブルボア王国に手も貸してやった」
そう言ってヴァティールは目を閉じた。
「オマエと過ごすのは結構楽しかったよ。でも目障りだと言うのなら、この部屋から出て行ってやる。
それでもワタシはオマエを守ってやるし……そうだな、これからはアリシアと暮らすがいい。
エリスが結婚したと言うのに、うんと年上のアリシアがいつまでも独り身というのは可哀想だ」
そうしてヴァティールは自分の荷物をいくらか引っ張り出し始めた。
元々リオンの持ち物だった物は一つも出さなかったので、一応俺に気を使ってくれているのかもしれない。
「なぁエル……この体を殺しても、痛いのはワタシだけだ。
深く眠っているリオンに、痛みは全く無い。安心しろ」
ヴァティールは振り向きもせず、そのまま出て行った。
俺はその場から動けなかった。
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