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第22章 許し
4.許し
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姫が15才の誕生日を迎えたその日、うちの国ともっと強い同盟を結びたいアレス王の意向もあって21歳年上のアルフレッド王との婚約が確定した。
最初は本国からの要請に驚いたエリス姫だったが、姫にとっても母国とこの国との『末永い友好』は願ってもないことであったらしい。
二つ返事で了承の運びとなった。
アルフレッド王は元々とっくに妃を娶っておらねばならぬ年齢だったが、あまりに忙しすぎたせいか浮いた噂の一つも聞いたことがない。
でも待てよ……エリス姫を可愛がって『お兄様』と呼ばせていたっけな?
下心からではないと信じたいが、姫の意向を聞くなり王も即断したという話しだから、まさかのロリコ……いや、年下好きなのかもしれない。
二人の年は相当離れていたが、この婚儀は『良縁』として城の皆にも喜ばれた。アレス帝国は憎いが、それでも平和が恒久的なものになるのであればそちらを選びたいのが人の情というものなのだろう。
ただ、エリス姫を娘のように可愛がっていたヴァティールだけは婚約が決まって以来一週間、ショックのためか食事も取らずに部屋に閉じこもった。
部屋の外から王みずから呼びかけても、アリシアやエリス姫が奴の大好きな苺ケーキを持って行っても、頑として扉を開けなかった。
もちろん、部屋主である俺まで追い出されたままだった。
本当に大人気無い魔獣である。
それでも一週間たって、やっと部屋から出てきたあいつは、
「エリスを泣かせたら八つ裂きにして殺す」
……というドスの効いた祝いの(?)言葉を王に贈り渋々了承した。
その後もヴァティールはリオンの姿のまま婚儀に参加し、魔獣に似合わぬ涙を盛大に流していたが……花嫁からのキスを頬に受けボソボソと、でも今度こそは、まともな祝福の言葉を述べていた。
その姿を城の者たちは微笑ましく見ていたが、俺には違和感があった。
花嫁より年上のはずのヴァティールの方が、姫よりずっと幼いのだ。
リオンの体はあれから全く年をとっていない。
呪いを受けた11才当時の、小さな姿のままだ。
俺たちは不死を与えられたが、不老ではない。
これまでも、俺やリオンは成長してきた。
弟が亡くなってからは中身が魔獣と入れ替わってはいるが、それでも体だけは成長していくはずなのに、リオンの体は一切の成長を止めたのだ。
他の者たちは『大魔道士』というのはそういう神秘的存在なのだろう、と気にも留めていないようだが、俺にはそれが不思議でたまらない。
ヴァティールの魔力がリオンの体に何か悪い作用をもたらしているのではあるまいか?
俺は魔術に疎いので方法まではわからないが、リオンの体を乗取ったとき魔獣は言った。
「絶対にリオンの体は返さない。
リオンにアースラ仕込みの魔縛術があろうと、いくらでもやりようはある」
と。
弟の身を案じながらも王の警護をしていた時、ふとした会話が耳に入った。
アリシアとエリス王妃の会話だ。
エリス姫達が言うには、ヴァティールの手はとても冷たいのだそうだ。
俺がヴァティールに触れることは無いが、娘のように可愛がられているエリス王妃やアリシアはそうじゃない。
あの魔獣はもしや……。
俺は一つの仮説を立てた。
それは、確かめることすらためらわれるような恐ろしい説だったが、俺は弟のために真実を突き止めねばならない。
最初は本国からの要請に驚いたエリス姫だったが、姫にとっても母国とこの国との『末永い友好』は願ってもないことであったらしい。
二つ返事で了承の運びとなった。
アルフレッド王は元々とっくに妃を娶っておらねばならぬ年齢だったが、あまりに忙しすぎたせいか浮いた噂の一つも聞いたことがない。
でも待てよ……エリス姫を可愛がって『お兄様』と呼ばせていたっけな?
下心からではないと信じたいが、姫の意向を聞くなり王も即断したという話しだから、まさかのロリコ……いや、年下好きなのかもしれない。
二人の年は相当離れていたが、この婚儀は『良縁』として城の皆にも喜ばれた。アレス帝国は憎いが、それでも平和が恒久的なものになるのであればそちらを選びたいのが人の情というものなのだろう。
ただ、エリス姫を娘のように可愛がっていたヴァティールだけは婚約が決まって以来一週間、ショックのためか食事も取らずに部屋に閉じこもった。
部屋の外から王みずから呼びかけても、アリシアやエリス姫が奴の大好きな苺ケーキを持って行っても、頑として扉を開けなかった。
もちろん、部屋主である俺まで追い出されたままだった。
本当に大人気無い魔獣である。
それでも一週間たって、やっと部屋から出てきたあいつは、
「エリスを泣かせたら八つ裂きにして殺す」
……というドスの効いた祝いの(?)言葉を王に贈り渋々了承した。
その後もヴァティールはリオンの姿のまま婚儀に参加し、魔獣に似合わぬ涙を盛大に流していたが……花嫁からのキスを頬に受けボソボソと、でも今度こそは、まともな祝福の言葉を述べていた。
その姿を城の者たちは微笑ましく見ていたが、俺には違和感があった。
花嫁より年上のはずのヴァティールの方が、姫よりずっと幼いのだ。
リオンの体はあれから全く年をとっていない。
呪いを受けた11才当時の、小さな姿のままだ。
俺たちは不死を与えられたが、不老ではない。
これまでも、俺やリオンは成長してきた。
弟が亡くなってからは中身が魔獣と入れ替わってはいるが、それでも体だけは成長していくはずなのに、リオンの体は一切の成長を止めたのだ。
他の者たちは『大魔道士』というのはそういう神秘的存在なのだろう、と気にも留めていないようだが、俺にはそれが不思議でたまらない。
ヴァティールの魔力がリオンの体に何か悪い作用をもたらしているのではあるまいか?
俺は魔術に疎いので方法まではわからないが、リオンの体を乗取ったとき魔獣は言った。
「絶対にリオンの体は返さない。
リオンにアースラ仕込みの魔縛術があろうと、いくらでもやりようはある」
と。
弟の身を案じながらも王の警護をしていた時、ふとした会話が耳に入った。
アリシアとエリス王妃の会話だ。
エリス姫達が言うには、ヴァティールの手はとても冷たいのだそうだ。
俺がヴァティールに触れることは無いが、娘のように可愛がられているエリス王妃やアリシアはそうじゃない。
あの魔獣はもしや……。
俺は一つの仮説を立てた。
それは、確かめることすらためらわれるような恐ろしい説だったが、俺は弟のために真実を突き止めねばならない。
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