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第六章 楊麗華と幼妻
第六章 楊麗華と幼妻 三
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さて、そんな東宮内で、ひときわ大きな騒ぎがあった。
また一人、美少女が酔っ払い太子の宮に連れ込まれたというのだ。
年は、まだ十二歳であるらしい。
それだけなら、決して珍しいことではなかった。
麗華の婚礼も同年齢であったし、太子贇は明確に少女好みであったので、大抵の妃は、そのぐらいの年で連れ込まれている。
だが彼女は何としたことか、すでに『人妻』であった。
名を尉遅熾繁という。
彼女の祖父は、尉遅迥と言って、若いころの容貌は、独孤信同様、史書に記されるほど美しい。老いた今も、他の武者たちとは明らかに違う、美形な爺様である。
また、楊堅と同じく『柱国大将軍』の一人で、国に対しては多大な功があった。
性格は誠実にして公正であり、美形にありがちな傲慢さもない。
他国と戦っても、決して部下たちに奪略を許さなかったので、征服地の民からさえ人望厚き男であった。
彼には孫娘が三人いた。
うち二人は、可愛い盛りにはやり病で続けて亡くし、残ったのはたった一人である。
残された幼子は祖父の麗容を引き継ぎ、大変美しい顔立ちをしていた。
尉遅迥は、この愛らしい孫娘を掌中の珠のように可愛がっていた。
その孫娘こそが『尉遅熾繁』なのである。
今回、急遽、太子の宮に入れられることとなった少女―――いや、人妻であった。
この少女、本来なら『太子の妃』となるはずではなかった。
幼いとはいえ、すでに『人妻』であるのだから、さもありなん。
話は四年前に遡る。
楊堅の長女・麗華が皇帝邕に望まれ、断り切れずに太子のもとに嫁ぐことを知った熾繁の祖父・尉遅迥は、慌てに慌てた。
『楊堅めに抜け駆けをされた』
『よし、我が孫娘も太子の妃に』
と、思って慌てたわけではないことは、言うまでもない。
麗華のときのように皇帝より直々に『太子の妃』としてお声がかかるのではないかと恐れたのだ。
この時代は複数の妃を持つのが常識であったとはいえ、尉遅熾繁は当時八歳。
いささか心配のし過ぎとも思われるが、この時代には『指腹婚』というものがあった。
「では、その腹の中の子供と婚約を」
そのように、妊婦の腹を指して婚約を決める――つまり、母親の胎内に居るときでさえ、婚約が整ってしまうことも稀では無かったのだ。(*望みの性別でなければ破棄になる)
幼少とはいえ人目を引き付ける美貌の孫は、爺仕込みの賢さも持ち合わせていたので鈴を振るような声で論語などを唱えて見せる。
それがまた王都で大評判となっていた。
だからこそ、皇帝のお声がかかってしまうことを恐れたのだ。
そうして、恐るべき速さで嫁入り先を探した。
戦さながらの早業であったという。
なにしろ、皇帝から打診されてしまえば『断ること』など出来ようはずもない。
それはもう必死で探したのだ。
とは言え、尉遅家は名門である。
可愛い孫娘をどこぞの馬の骨に嫁がせて終いというものではない。
それなりの武勇があって、かつ名門で、性格が良い上に男前であると評判の男でなければ掌中の珠はやれぬのだ。
そこで条件に適う男を必死に探し、密かに打診することとした。
尉遅迥が目を付けた男の名を『宇文温』という。
三十男ではあるが、西陽公というそれなりの地位があり、遠くはあるが、皇族の血を引く一人でもある。
この男は妾なども持っておらず、更に正妻を一年前に失ったばかりであった。
親や家人が「早く次の正妻を」「妾でも良いから持って、まずは跡継ぎをひとり」と、やいやい言っても、亡くなった妻がどうにも忘れられず、のらりくらりとかわしているということだった。
尉遅迥はそこにつけこんだ。
「幼な妻を娶っておけば、今すぐどうこうならずとも『嫡男』としての顔が立つこと間違いなし。
数年は兄のような心持で接し、熾繁が成長するころには情も移って良い夫婦となれることでございましょう」
と、掻き口説いたのだ。
さて、内々の顔合わせも済み、尉遅熾繁は優し気で美男子な宇文温を好ましく思ったようだ。
少なくとも、悪評しか聞かぬ太子よりはずっと良い。
宇文温も、尉遅熾繁のあまりの麗容に驚くとともに、その仕草がやはり子供らしいので微笑ましく思った。
あと数年が経ち、成熟したころにはきっと良き妻になると確信し、婚姻を結ぶことを承諾したのだった。
また一人、美少女が酔っ払い太子の宮に連れ込まれたというのだ。
年は、まだ十二歳であるらしい。
それだけなら、決して珍しいことではなかった。
麗華の婚礼も同年齢であったし、太子贇は明確に少女好みであったので、大抵の妃は、そのぐらいの年で連れ込まれている。
だが彼女は何としたことか、すでに『人妻』であった。
名を尉遅熾繁という。
彼女の祖父は、尉遅迥と言って、若いころの容貌は、独孤信同様、史書に記されるほど美しい。老いた今も、他の武者たちとは明らかに違う、美形な爺様である。
また、楊堅と同じく『柱国大将軍』の一人で、国に対しては多大な功があった。
性格は誠実にして公正であり、美形にありがちな傲慢さもない。
他国と戦っても、決して部下たちに奪略を許さなかったので、征服地の民からさえ人望厚き男であった。
彼には孫娘が三人いた。
うち二人は、可愛い盛りにはやり病で続けて亡くし、残ったのはたった一人である。
残された幼子は祖父の麗容を引き継ぎ、大変美しい顔立ちをしていた。
尉遅迥は、この愛らしい孫娘を掌中の珠のように可愛がっていた。
その孫娘こそが『尉遅熾繁』なのである。
今回、急遽、太子の宮に入れられることとなった少女―――いや、人妻であった。
この少女、本来なら『太子の妃』となるはずではなかった。
幼いとはいえ、すでに『人妻』であるのだから、さもありなん。
話は四年前に遡る。
楊堅の長女・麗華が皇帝邕に望まれ、断り切れずに太子のもとに嫁ぐことを知った熾繁の祖父・尉遅迥は、慌てに慌てた。
『楊堅めに抜け駆けをされた』
『よし、我が孫娘も太子の妃に』
と、思って慌てたわけではないことは、言うまでもない。
麗華のときのように皇帝より直々に『太子の妃』としてお声がかかるのではないかと恐れたのだ。
この時代は複数の妃を持つのが常識であったとはいえ、尉遅熾繁は当時八歳。
いささか心配のし過ぎとも思われるが、この時代には『指腹婚』というものがあった。
「では、その腹の中の子供と婚約を」
そのように、妊婦の腹を指して婚約を決める――つまり、母親の胎内に居るときでさえ、婚約が整ってしまうことも稀では無かったのだ。(*望みの性別でなければ破棄になる)
幼少とはいえ人目を引き付ける美貌の孫は、爺仕込みの賢さも持ち合わせていたので鈴を振るような声で論語などを唱えて見せる。
それがまた王都で大評判となっていた。
だからこそ、皇帝のお声がかかってしまうことを恐れたのだ。
そうして、恐るべき速さで嫁入り先を探した。
戦さながらの早業であったという。
なにしろ、皇帝から打診されてしまえば『断ること』など出来ようはずもない。
それはもう必死で探したのだ。
とは言え、尉遅家は名門である。
可愛い孫娘をどこぞの馬の骨に嫁がせて終いというものではない。
それなりの武勇があって、かつ名門で、性格が良い上に男前であると評判の男でなければ掌中の珠はやれぬのだ。
そこで条件に適う男を必死に探し、密かに打診することとした。
尉遅迥が目を付けた男の名を『宇文温』という。
三十男ではあるが、西陽公というそれなりの地位があり、遠くはあるが、皇族の血を引く一人でもある。
この男は妾なども持っておらず、更に正妻を一年前に失ったばかりであった。
親や家人が「早く次の正妻を」「妾でも良いから持って、まずは跡継ぎをひとり」と、やいやい言っても、亡くなった妻がどうにも忘れられず、のらりくらりとかわしているということだった。
尉遅迥はそこにつけこんだ。
「幼な妻を娶っておけば、今すぐどうこうならずとも『嫡男』としての顔が立つこと間違いなし。
数年は兄のような心持で接し、熾繁が成長するころには情も移って良い夫婦となれることでございましょう」
と、掻き口説いたのだ。
さて、内々の顔合わせも済み、尉遅熾繁は優し気で美男子な宇文温を好ましく思ったようだ。
少なくとも、悪評しか聞かぬ太子よりはずっと良い。
宇文温も、尉遅熾繁のあまりの麗容に驚くとともに、その仕草がやはり子供らしいので微笑ましく思った。
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