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第六章 楊麗華と幼妻
第六章 楊麗華と幼妻 五
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さて、父の親征をこれ幸いと、太子贇は尉遅熾繁を東宮に呼びつけた。
謁見の間付近には酒の匂いがすでに漂い、太子の顔も赤く染まっている。
これはまあ、いつものことだ。
「面を上げい」
平伏する小柄な少女の面を上げさせてみると、これがまた噂以上に美しい。
麗華と並ぶほどであったのだ。
太子の悪評を父母や家人から聞いていた尉遅熾繁はぶるぶると震えていたが、その様もまた可憐であるように思われた。
なにしろ太子妃・麗華は、美しいが何事にも動じない。天杖で痛めつけても泣きもしない。
見た目とは違って可憐とは程遠いのだ。
悪太子は早速、尉遅熾繁の手を引き奥に連れ込んだ。
そばに控えていた宮女は、あまりに少女が哀れで目を伏せたが、悪帝はかまわず尉遅熾繁を我が物としてしまったのである。
そして数日後、伽羅は自邸で胸を痛めていた。
娘・麗華が尉遅熾繁の窮状を密かに文にしたためてきたのである。
宮中の秘は外に漏らしてはならぬものであるが、そこは大貴族の娘。形ばかりの検閲など、どうにでもすり抜けられる。
『お母さま、太子殿下のやりようはあんまりでございます。
騙して挨拶に参らせた尉遅氏を無理やり我が物としたのでございます。
皇帝陛下に至急お知らせして、諫めていただくわけにはまいらぬものでしょうか』
と、こうである。
泣き言は漏らさぬことが多い麗華であったが、流石に今度ばかりは腹に据えかねたようである。
伽羅も大きくため息をついた。
全く、あの太子はどこまで愚劣なのだろう。
尊い身分であるとはいえ、人妻を奪って隠し、我が物にするなどあんまりである。
まして熾繁は童女。どれほど恐ろしい思いをしたかと思うと心が引き裂かれるようである。
そもそも、尉遅熾繁の夫や舅、そして祖父や父、一族の者は――今まさに『国のために』命がけで戦っているというのに、どうしてこのような非道なことが出来るのか。
しかもあれほど卑怯な手で自宮に引き込んだというのに、悪太子はすぐに尉遅熾繁に飽いて粗雑に扱い『美しいだけの人形娘』とはやし立てたのだそうだ。
熾繁は心労のあまり寝付き、それを麗華が介抱しているという。
さて、伴侶が美しい少女を寝所に連れ込んだならば、普通は嫉妬の一つもするものだ。
少女が自分より若いなら尚更だろう。
しかし麗華は夫を全く愛していなかったので、朱満月が子を生んだ時と同様、尉遅熾繁を哀れと思うばかりであった。
毎日部屋に通っては慰め、一緒に泣いた。
夫のためには涙一つこぼさぬ麗華であったが、尉遅熾繁――または他の哀れな少女たちのためになら泣けるのだ。
「わたくしには、今すぐあなたを助け出すだけの力はありませぬ。
ですがわたくしに出来ることなら、何でもいたしましょう。
あなたの姉代わりとなって、あなたが解放される日まで……心よりお慰め致したいと思いまする」
麗華が熾繁の小さな手を取ると、熾繁も目に涙をいっぱい溜めて麗華を見上げた。
「ここに来てからは、毎日死にたいとばかり思っておりました。
されど太子妃様のお優しいお気持ち、この上なく嬉しく思いまする。
どうぞ『お姉さま』と、呼ばせて下さいませ」
お互いに手を取り合い、それでも伏せた瞳からは涙が零れ落ちた。
こうして四年と十月ほど年上の楊麗華は熾繁と姉妹の契りを結んだのである。
謁見の間付近には酒の匂いがすでに漂い、太子の顔も赤く染まっている。
これはまあ、いつものことだ。
「面を上げい」
平伏する小柄な少女の面を上げさせてみると、これがまた噂以上に美しい。
麗華と並ぶほどであったのだ。
太子の悪評を父母や家人から聞いていた尉遅熾繁はぶるぶると震えていたが、その様もまた可憐であるように思われた。
なにしろ太子妃・麗華は、美しいが何事にも動じない。天杖で痛めつけても泣きもしない。
見た目とは違って可憐とは程遠いのだ。
悪太子は早速、尉遅熾繁の手を引き奥に連れ込んだ。
そばに控えていた宮女は、あまりに少女が哀れで目を伏せたが、悪帝はかまわず尉遅熾繁を我が物としてしまったのである。
そして数日後、伽羅は自邸で胸を痛めていた。
娘・麗華が尉遅熾繁の窮状を密かに文にしたためてきたのである。
宮中の秘は外に漏らしてはならぬものであるが、そこは大貴族の娘。形ばかりの検閲など、どうにでもすり抜けられる。
『お母さま、太子殿下のやりようはあんまりでございます。
騙して挨拶に参らせた尉遅氏を無理やり我が物としたのでございます。
皇帝陛下に至急お知らせして、諫めていただくわけにはまいらぬものでしょうか』
と、こうである。
泣き言は漏らさぬことが多い麗華であったが、流石に今度ばかりは腹に据えかねたようである。
伽羅も大きくため息をついた。
全く、あの太子はどこまで愚劣なのだろう。
尊い身分であるとはいえ、人妻を奪って隠し、我が物にするなどあんまりである。
まして熾繁は童女。どれほど恐ろしい思いをしたかと思うと心が引き裂かれるようである。
そもそも、尉遅熾繁の夫や舅、そして祖父や父、一族の者は――今まさに『国のために』命がけで戦っているというのに、どうしてこのような非道なことが出来るのか。
しかもあれほど卑怯な手で自宮に引き込んだというのに、悪太子はすぐに尉遅熾繁に飽いて粗雑に扱い『美しいだけの人形娘』とはやし立てたのだそうだ。
熾繁は心労のあまり寝付き、それを麗華が介抱しているという。
さて、伴侶が美しい少女を寝所に連れ込んだならば、普通は嫉妬の一つもするものだ。
少女が自分より若いなら尚更だろう。
しかし麗華は夫を全く愛していなかったので、朱満月が子を生んだ時と同様、尉遅熾繁を哀れと思うばかりであった。
毎日部屋に通っては慰め、一緒に泣いた。
夫のためには涙一つこぼさぬ麗華であったが、尉遅熾繁――または他の哀れな少女たちのためになら泣けるのだ。
「わたくしには、今すぐあなたを助け出すだけの力はありませぬ。
ですがわたくしに出来ることなら、何でもいたしましょう。
あなたの姉代わりとなって、あなたが解放される日まで……心よりお慰め致したいと思いまする」
麗華が熾繁の小さな手を取ると、熾繁も目に涙をいっぱい溜めて麗華を見上げた。
「ここに来てからは、毎日死にたいとばかり思っておりました。
されど太子妃様のお優しいお気持ち、この上なく嬉しく思いまする。
どうぞ『お姉さま』と、呼ばせて下さいませ」
お互いに手を取り合い、それでも伏せた瞳からは涙が零れ落ちた。
こうして四年と十月ほど年上の楊麗華は熾繁と姉妹の契りを結んだのである。
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