53 / 116
第六章 楊麗華と幼妻
第六章 楊麗華と幼妻 十一
しおりを挟む
さて、太子の問題は戦後に必ずと熾繁の関係者に確約し、皇帝邕は、突厥へと親征することにした。
太子を再度赴かせたいところだが、前回の事例を鑑みればろくに役には立たないであろう。
このような重要な戦いを任せることは到底出来ぬのだ。
まず、先発として柱国大将軍の一人、原国公姫願と東平公神挙を出陣させ、追って皇帝邕も親征することにした。
やはり皇帝が共に戦うと、将兵の意気が違うのである。
邕の体調はかなり良くなっていた。通常の生活であれば、もう支障はない。
だがまだ本調子ではなかった。
宮殿内でかしづかれて過すのと、野外での行軍は天地ほどの差があるのだから、本来なら、そのことを考慮に入れて養生に努めるべきだった。
しかし三十代の若さが彼に己を過信させた。
彼は馬車にさえ乗らず、騎乗して行軍したのだ。
「必ずや蛮族どもを屈服させて、幽州の民の無念を晴らして見せようぞ。
奪略された民も必ず取り戻す。
さあ、者ども、朕に続けい!」
邕の性格では、重要な戦いを将兵に任せっきりにし、宮中でじっとしているなど出来ようはずもない。
雌伏の期間が長かっただけに、枷を解かれた彼は凄まじく行動的だったのだ。
しかし勇ましく出立したものの、間もなく体調を崩し、高熱が続くようになってしまった。
「陛下、このまま行軍しては体調は悪化するばかりでございます。
近くに雲陽宮がございますゆえ、そこでご養生なさるのはいかがでございましょうか」
さすがにこの頃には専用馬車の中であったが、従軍医師が皇帝の脈をとりながら上言した。
皇帝はしばし逡巡したが、高熱の中でうなずいた。
「よかろう。
……しかし朕の病はしばらくは伏せておけ。
士気に……かかわる」
こうして皇帝邕は雲陽宮にて玉体を休めることとなった。
雲陽宮は、皇帝の避暑地として建てられた古宮殿のひとつである。
皇帝邕はそこにて養生することにした。
ただし、ひと月たっても熱は上下を繰り返すばかり。
そこで仕方なく、諸軍へ進軍停止の命令を出しすことにした。
皇帝邕は突厥を下して国を安定させた後、太子廃嫡の機会を窺いつつ、幼い皇子たちの成長を待つつもりであったが、それらはもう叶いそうもない。
なにしろ、長子も駄目だが、やっと十四歳になったばかりの次男も駄目。
その次となればわずか八歳で、この三男にこそ期待をかけていたのだが、もうどうしようもない。
「亡き父も……このような、心持であったのか、のう……。
まだ朕は、若い……やり残した……こと、も……ある。
死に、とう、ない、のう……」
皇帝の父・宇文泰も都より離れた地を巡回中、突如熱病にかかり、卒して(亡くなって)いる。
邕の喉より細く漏れたうめきに、従者たちは何も答えられず俯くばかりであった。
夏六月には病は更に重くなった。
すっかり瘦せ果ててしまい、頬の肉どころか、隆々としていた筋肉も全て削げ落ちてしまった。
髪には若さに似合わぬ白いものが混じり、実際の年齢より十五は老けて見える。
国都から次々派遣されてきた医師たちにも、病の原因は全くわからなかった。
それでも熱が下がり、やや体調が持ち直したと思われる時期が有ったので、皇帝の強い希望により、彼を長安に戻すための特別馬車が用意された。
「陛下、ご気分はいかがでありましょうか。
この馬車は最大限揺れを押さえるよう作られてはおりますが、吐き気などはございませんでしょうか」
皇帝馬車に同乗した医師が時折尋ねるも、目はうつろで食も進まない。
常より大型にしつらえた馬車の、中央に固定された寝台に横たわったままである。
熱が下がったので快方に向かったかと誤解されていたが、実際にはもう、熱を発することも出来ぬほど体の機能が衰えていたのだ。
「長安に……帰りたい、のう。まだ……やる、ことが、朕には……」
そんなうわごとを時折漏らすが、戦馬を駆けさせるように皇帝馬車を駆けさせるわけにもゆかず、国都はまだ遠い。
車体はなるべく揺れぬように工夫されてはいるが、それでも急がせると大きく揺れる。
それは即ち、重病人の負担となる。
「陛下、お心を強く持たれませ。
心身頑強であられた陛下でございます。住み慣れた長安の地に戻られましたら、すぐに良くなりますとも」
それはただの慰めの言葉であったのやもしれない。
もはや皇帝邕の面には死相が現れていた。
それでも進むしかないのだ。
従者たちは皇帝の様子を見ながらゆるゆると馬を走らせた。
通常の数倍の時間がかかったが、それでもついに――――ついに国都にたどり着いたのだ。
ところがである。
ホッとしたのか、なんと皇帝邕はその夜のうちに崩御してしまった。
当時の平均寿命は決して長くはないが、在位期間は十八年。これまた三十四歳の若さであった。
そのとき息子の『悪太子』は、どうしたか。
やつれはてた父の姿を目にして、少しは泣き、孝行しなかったことを後悔したであろうか?
いや彼は、かつて皇帝邕に懲罰用の杖で打たれた痕を撫なでながら、
「やれやれ、やっとくたばったか。
もっと早く死ねばよかったのに」
と、遺骸に向かって罵ったと史書には残されている。
皇帝邕の一番の心残りは、間違いなくこの太子のことであったろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これで第六章は終わりです。
お読みくださり、ありがとうございます!!
それにしても、古代の結婚は恐ろしいですね。
気の強い武則天も後宮に入ったのは十四歳のときです。相手は皇帝とはいえ、もう老人。しかも皇帝が亡くなれば尼になって一生を寺暮らしですから大変です。(武則天は美貌と才覚でそこからのし上がりましたが)
指腹婚は後漢の頃からあったようですが、最初は貴族間でしか行われていませんでした。
しかし宋・元の頃には民間にも広がったようです。
そのことを憂える人は当時にもいたみたいで後に法律で禁じられました。
また、人口を増やすために独身を迫害する法律を制定した方もおられました。
臥薪嘗胆がで有名な越王勾踐です。
女性なら十七歳、男性なら二十歳になってもまだ結婚していないなら、その両親が罪に問われるのです。(教育が悪い!! ということでしょうか?)
とんでもないことですね。うちの両親も私も確実にしょっ引かれますね。
現代で良かったです(^_^;)
太子を再度赴かせたいところだが、前回の事例を鑑みればろくに役には立たないであろう。
このような重要な戦いを任せることは到底出来ぬのだ。
まず、先発として柱国大将軍の一人、原国公姫願と東平公神挙を出陣させ、追って皇帝邕も親征することにした。
やはり皇帝が共に戦うと、将兵の意気が違うのである。
邕の体調はかなり良くなっていた。通常の生活であれば、もう支障はない。
だがまだ本調子ではなかった。
宮殿内でかしづかれて過すのと、野外での行軍は天地ほどの差があるのだから、本来なら、そのことを考慮に入れて養生に努めるべきだった。
しかし三十代の若さが彼に己を過信させた。
彼は馬車にさえ乗らず、騎乗して行軍したのだ。
「必ずや蛮族どもを屈服させて、幽州の民の無念を晴らして見せようぞ。
奪略された民も必ず取り戻す。
さあ、者ども、朕に続けい!」
邕の性格では、重要な戦いを将兵に任せっきりにし、宮中でじっとしているなど出来ようはずもない。
雌伏の期間が長かっただけに、枷を解かれた彼は凄まじく行動的だったのだ。
しかし勇ましく出立したものの、間もなく体調を崩し、高熱が続くようになってしまった。
「陛下、このまま行軍しては体調は悪化するばかりでございます。
近くに雲陽宮がございますゆえ、そこでご養生なさるのはいかがでございましょうか」
さすがにこの頃には専用馬車の中であったが、従軍医師が皇帝の脈をとりながら上言した。
皇帝はしばし逡巡したが、高熱の中でうなずいた。
「よかろう。
……しかし朕の病はしばらくは伏せておけ。
士気に……かかわる」
こうして皇帝邕は雲陽宮にて玉体を休めることとなった。
雲陽宮は、皇帝の避暑地として建てられた古宮殿のひとつである。
皇帝邕はそこにて養生することにした。
ただし、ひと月たっても熱は上下を繰り返すばかり。
そこで仕方なく、諸軍へ進軍停止の命令を出しすことにした。
皇帝邕は突厥を下して国を安定させた後、太子廃嫡の機会を窺いつつ、幼い皇子たちの成長を待つつもりであったが、それらはもう叶いそうもない。
なにしろ、長子も駄目だが、やっと十四歳になったばかりの次男も駄目。
その次となればわずか八歳で、この三男にこそ期待をかけていたのだが、もうどうしようもない。
「亡き父も……このような、心持であったのか、のう……。
まだ朕は、若い……やり残した……こと、も……ある。
死に、とう、ない、のう……」
皇帝の父・宇文泰も都より離れた地を巡回中、突如熱病にかかり、卒して(亡くなって)いる。
邕の喉より細く漏れたうめきに、従者たちは何も答えられず俯くばかりであった。
夏六月には病は更に重くなった。
すっかり瘦せ果ててしまい、頬の肉どころか、隆々としていた筋肉も全て削げ落ちてしまった。
髪には若さに似合わぬ白いものが混じり、実際の年齢より十五は老けて見える。
国都から次々派遣されてきた医師たちにも、病の原因は全くわからなかった。
それでも熱が下がり、やや体調が持ち直したと思われる時期が有ったので、皇帝の強い希望により、彼を長安に戻すための特別馬車が用意された。
「陛下、ご気分はいかがでありましょうか。
この馬車は最大限揺れを押さえるよう作られてはおりますが、吐き気などはございませんでしょうか」
皇帝馬車に同乗した医師が時折尋ねるも、目はうつろで食も進まない。
常より大型にしつらえた馬車の、中央に固定された寝台に横たわったままである。
熱が下がったので快方に向かったかと誤解されていたが、実際にはもう、熱を発することも出来ぬほど体の機能が衰えていたのだ。
「長安に……帰りたい、のう。まだ……やる、ことが、朕には……」
そんなうわごとを時折漏らすが、戦馬を駆けさせるように皇帝馬車を駆けさせるわけにもゆかず、国都はまだ遠い。
車体はなるべく揺れぬように工夫されてはいるが、それでも急がせると大きく揺れる。
それは即ち、重病人の負担となる。
「陛下、お心を強く持たれませ。
心身頑強であられた陛下でございます。住み慣れた長安の地に戻られましたら、すぐに良くなりますとも」
それはただの慰めの言葉であったのやもしれない。
もはや皇帝邕の面には死相が現れていた。
それでも進むしかないのだ。
従者たちは皇帝の様子を見ながらゆるゆると馬を走らせた。
通常の数倍の時間がかかったが、それでもついに――――ついに国都にたどり着いたのだ。
ところがである。
ホッとしたのか、なんと皇帝邕はその夜のうちに崩御してしまった。
当時の平均寿命は決して長くはないが、在位期間は十八年。これまた三十四歳の若さであった。
そのとき息子の『悪太子』は、どうしたか。
やつれはてた父の姿を目にして、少しは泣き、孝行しなかったことを後悔したであろうか?
いや彼は、かつて皇帝邕に懲罰用の杖で打たれた痕を撫なでながら、
「やれやれ、やっとくたばったか。
もっと早く死ねばよかったのに」
と、遺骸に向かって罵ったと史書には残されている。
皇帝邕の一番の心残りは、間違いなくこの太子のことであったろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これで第六章は終わりです。
お読みくださり、ありがとうございます!!
それにしても、古代の結婚は恐ろしいですね。
気の強い武則天も後宮に入ったのは十四歳のときです。相手は皇帝とはいえ、もう老人。しかも皇帝が亡くなれば尼になって一生を寺暮らしですから大変です。(武則天は美貌と才覚でそこからのし上がりましたが)
指腹婚は後漢の頃からあったようですが、最初は貴族間でしか行われていませんでした。
しかし宋・元の頃には民間にも広がったようです。
そのことを憂える人は当時にもいたみたいで後に法律で禁じられました。
また、人口を増やすために独身を迫害する法律を制定した方もおられました。
臥薪嘗胆がで有名な越王勾踐です。
女性なら十七歳、男性なら二十歳になってもまだ結婚していないなら、その両親が罪に問われるのです。(教育が悪い!! ということでしょうか?)
とんでもないことですね。うちの両親も私も確実にしょっ引かれますね。
現代で良かったです(^_^;)
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる