独孤皇后物語~隋の皇帝を操った美女(最終話まで毎日複数話更新)

結城 

文字の大きさ
110 / 116
第十三章 次男・楊広

第十三章 次男・楊広 二

しおりを挟む
 その後、楊広がまた女をまんでも、しょう氏は全く文句を言うことはなかった。
 それどころか、相手先にも丁寧に遇したりする。

 楊広は、狐につままれたように思いながら過ごしていた。
 これが母の伽羅であったなら、愛人は滅多打ちに打ち殺されていたことだろう。

 それでも取りあえず、浮気がばれるたびに妃に謝っていたのだが、

「尊い身の太子様が、軽々しく妃に頭を下げるものではありませんわ。
 浮気は男の甲斐性とも申します。お気になさらずとも良いのです」

 麗しいかんばせで、浮気がばれるたびにそう言われると、楊広も段々とその気になってくる。
 手にいれた大輪の華は飛び抜けて美しいが、その周りに色とりどりの百花を飾ったなら、どれほど美しいことだろう。
 そう思えてきたのだ。

 また、楊広は麗しの正妃や愛人たちに贈るために、こっそりと高価な品々を取り寄せることがあった。
 これまた母と違い、しょう氏は怒ることをしない。

「まあ、これは三国時代の壺ですわね。
 青磁は発色が不安定なものが多いのに、これは素晴らしいお品ですわ。
 殿下は本当にお目が高うございます」

 そう言って、贅沢を非難することも、贈り先の愛人たちに嫉妬をすることも無く微笑むのだ。
 楊広はしだいにそのことに慣れていった。

 また同時に、嫉妬してもらえぬことを寂しく思うようにもなっていた。
 母である伽羅の激しさは時に恐ろしく、父に同情しがちであったのだが、いざ妃を娶ってみて全く嫉妬されぬとなれば別である。
 父・楊堅のように妻から愛される夫であると思っていたのに――――。

「これでは妃は『姉上』と全く同じではないか」

 広は誰に言うともなく、ひとりごちた。

 姉・麗華は母の娘でありながら、夫の妃たちには一切の嫉妬心を向けなかった。
 それどころか、諸妃たちとは極めて仲が良く、熱烈に慕われてさえいたのだ。
 楊広はその頃、ほんの少年であったが、はっきりと覚えている。
 家人たちはそのことについて、口をそろえて言っていた。

「夫に対する愛情が、一片すらないのに嫉妬の気持ちなど湧きますまい。
 まあ、あの皇帝は地位だけが取り柄でございますなぁ。
 お嬢様も致し方なく陛下のご機嫌などを取りつつ過ごしておられるようですが、本当にお可哀想に」

 もちろん、このような発言は『不敬』にあたるので、内内だけで交わされた言葉である。
 楊広の脳裏に、次第にこの言葉がチラつくようになっていった。

「一片の愛情すらないのに……か。
 私の結婚は、父母同様に親が決めた結婚であった。それでも私は父を見習ってしょう氏を愛し大切にしたのに、彼女は私を『地位ばかりの男』だと思っているのだろうか」

 楊広はため息をついた。また、こうも考えた。
 しょう氏が別の男に浮気心を持ったなら、自分は嫉妬に狂って彼女を叱責するだろう。
 母のように、浮気相手を打ち殺してしまうかもしれない。
 しかし、それはすべて『愛ゆえ』なのである。

「ならば妃から、嫉妬も叱責も受けぬのは、やはり彼女から愛されていないからであろうか。
 私は……妃が他の男に微笑む様子を思い浮かべただけでも心が苦しくなるというのに」

 楊広はガックリと肩を落とした。
 そして今になって初めて、あんなにも激しい愛情を向けられていた父は『幸せ者』であったのだと思い至ったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

処理中です...