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5話 忍者はメイドエルフに出会う
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そっくりだ。
カレナ様と名乗る可憐な少女を目にして、俺は真っ先に主の姿を思い出した。
金色の髪、透き通るような白い肌、ぴょこんと飛び出た長い耳。
そして小さな身体。
「人間さんお前なんて言うの?」
「……クロウです。カレナ様」
「カレナでいいよ!」
そう言って華奢な手で俺の大きな手を握り、カレナ様は俺をエルフの里の奥へと案内していく。
花畑がどこまでも続くのかと思いきや、生活圏になっているだろう居住区があちこちから姿を現し始めてきた。
「ここが私たちのお家だよ」
「寝所ですか。良い場所ですね」
「えへへっ……」
カレナ様は俺の言葉が嬉しかったのか身体をむずむず動かしながら、ぎゅっと手を握られた。
とても可愛らしい。
「ここまで来るの大変だったでしょ! 私のお家で休んでいってよ!」
「よろしいのですが? ですが……」
俺はここで一つ気になった。
カレナ様は確かに親切で俺を家に招待してくださっているが、しかし、彼女はおそらくその見た目から推察するに、まだ年齢もお若いことだろう。
父君や母君がいらしゃってもおかしくない。彼らの許可を取らねば彼女はよくとも、俺がせっかく来たエルフの里を追い出されることになるだろう。
「こっちだよ!」
そう引っ張ってくるカレナ様の歩みを俺が止められるはずもなく、ひとまず彼女の家についていくことにした。
「こっちこっちー」
「か、カレナ様、いったいどこまで」
しかし、いくつもの住居を通り過ぎ、一向にカレナ様は止まる気配を見せなかった。
道中、カレナ様以外のエルフの方々を目にしたが、どなたも金髪で小さくて愛らしくて油断すると心を奪われそうで非常に目に毒であった。
「ついたよ! ここが私のお家!」
そう言って、彼女が指差したお家は――里で一番大きな木造の宮殿であった。
☆
「お帰りなさいませ、カレナ様」
「ただいまディネ!」
そう言って俺たちを出迎えたのは、カレナ様と同じくらいの背丈の侍女の格好をしたエルフの少女であった。
黒を基調としたわんぴいす、と呼ばれる服に、ひらひらのついた白い前掛けをつけている。
頭には名前は知らぬが同じくひらひらのついた白い飾りをつけている。
これは、国を出てから何度か目にすることもあったが、めいど、と呼ばれる者か。
「あらそちらの方は」
「この人はクロウ! さっき友達になったんだ!」
「左様ですか。人間のお客様がこう立て続けにいらしゃるとはめずらしい。初めまして、ディネリンド=ノンドールと申します」
そう言ってディネリンドと名乗られたエルフは長いわんぴいすの両端をつかみ紳士的にお辞儀した。
「俺はクロウと申します。クロウ=クロミヤ。この度はお招きいただきありがとうございます。ディネ様」
「ディネでよろしいですよ。クロウさん。私はただの使用人ですので」
「めいど、呼ばれる者ですか」
「はい、そうです。クロウさんに分かりやすく言うと、メイドエルフですね」
メイドエルフ……。
聞き慣れぬ響きであったが悪い気はしなかった。
しかし、他の家と明らかに違う豪奢な作り、そして使用人がいるという環境、これはますます勝手に上がり込んではマズイのでは。
「あの、ディネ様、伺いたいのですが……」
「ディネ、です」
「……ディネ、質問なのですが、私はどなたかに許可を貰わずともこちらに上がっても――」
「ディネー、早摘みのお茶っぱまだあったよねー」
と、俺とディネ様……いや、俺とディネが話しこんでいる間に、カレナ様はとてとてと部屋の奥へと進み、こちらからも聞こえる何かを漁るような音を出しはじめた。
「ああ、カレナ様、給仕は私がやりますから少しお待ちくださーい! すみません、クロウさん、詳しいお話はまたのちほどで」
「はい、それは構いませんが」
不安がる俺の心配をよそに、ディネは軽やかに笑い。
「カレナ様が良いといったなら万事は大丈夫ですよ。あの方は、このアルフヘイムのお姫様
ですから」
そう言ってのけたのだった。
カレナ様と名乗る可憐な少女を目にして、俺は真っ先に主の姿を思い出した。
金色の髪、透き通るような白い肌、ぴょこんと飛び出た長い耳。
そして小さな身体。
「人間さんお前なんて言うの?」
「……クロウです。カレナ様」
「カレナでいいよ!」
そう言って華奢な手で俺の大きな手を握り、カレナ様は俺をエルフの里の奥へと案内していく。
花畑がどこまでも続くのかと思いきや、生活圏になっているだろう居住区があちこちから姿を現し始めてきた。
「ここが私たちのお家だよ」
「寝所ですか。良い場所ですね」
「えへへっ……」
カレナ様は俺の言葉が嬉しかったのか身体をむずむず動かしながら、ぎゅっと手を握られた。
とても可愛らしい。
「ここまで来るの大変だったでしょ! 私のお家で休んでいってよ!」
「よろしいのですが? ですが……」
俺はここで一つ気になった。
カレナ様は確かに親切で俺を家に招待してくださっているが、しかし、彼女はおそらくその見た目から推察するに、まだ年齢もお若いことだろう。
父君や母君がいらしゃってもおかしくない。彼らの許可を取らねば彼女はよくとも、俺がせっかく来たエルフの里を追い出されることになるだろう。
「こっちだよ!」
そう引っ張ってくるカレナ様の歩みを俺が止められるはずもなく、ひとまず彼女の家についていくことにした。
「こっちこっちー」
「か、カレナ様、いったいどこまで」
しかし、いくつもの住居を通り過ぎ、一向にカレナ様は止まる気配を見せなかった。
道中、カレナ様以外のエルフの方々を目にしたが、どなたも金髪で小さくて愛らしくて油断すると心を奪われそうで非常に目に毒であった。
「ついたよ! ここが私のお家!」
そう言って、彼女が指差したお家は――里で一番大きな木造の宮殿であった。
☆
「お帰りなさいませ、カレナ様」
「ただいまディネ!」
そう言って俺たちを出迎えたのは、カレナ様と同じくらいの背丈の侍女の格好をしたエルフの少女であった。
黒を基調としたわんぴいす、と呼ばれる服に、ひらひらのついた白い前掛けをつけている。
頭には名前は知らぬが同じくひらひらのついた白い飾りをつけている。
これは、国を出てから何度か目にすることもあったが、めいど、と呼ばれる者か。
「あらそちらの方は」
「この人はクロウ! さっき友達になったんだ!」
「左様ですか。人間のお客様がこう立て続けにいらしゃるとはめずらしい。初めまして、ディネリンド=ノンドールと申します」
そう言ってディネリンドと名乗られたエルフは長いわんぴいすの両端をつかみ紳士的にお辞儀した。
「俺はクロウと申します。クロウ=クロミヤ。この度はお招きいただきありがとうございます。ディネ様」
「ディネでよろしいですよ。クロウさん。私はただの使用人ですので」
「めいど、呼ばれる者ですか」
「はい、そうです。クロウさんに分かりやすく言うと、メイドエルフですね」
メイドエルフ……。
聞き慣れぬ響きであったが悪い気はしなかった。
しかし、他の家と明らかに違う豪奢な作り、そして使用人がいるという環境、これはますます勝手に上がり込んではマズイのでは。
「あの、ディネ様、伺いたいのですが……」
「ディネ、です」
「……ディネ、質問なのですが、私はどなたかに許可を貰わずともこちらに上がっても――」
「ディネー、早摘みのお茶っぱまだあったよねー」
と、俺とディネ様……いや、俺とディネが話しこんでいる間に、カレナ様はとてとてと部屋の奥へと進み、こちらからも聞こえる何かを漁るような音を出しはじめた。
「ああ、カレナ様、給仕は私がやりますから少しお待ちくださーい! すみません、クロウさん、詳しいお話はまたのちほどで」
「はい、それは構いませんが」
不安がる俺の心配をよそに、ディネは軽やかに笑い。
「カレナ様が良いといったなら万事は大丈夫ですよ。あの方は、このアルフヘイムのお姫様
ですから」
そう言ってのけたのだった。
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