バインドプレイヤー

市場竜太郎

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第一部「バインドプレイヤー」

0日目「スライムの生き方」

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「ジュエルオンライン」
いわゆる、典型的なオンラインゲーム。
剣と魔法のファンタジーの世界で、仲間と協力して物語を読み解いていく。そんな、どこにでもあるような面白味も何もないゲーム。
けれども、このゲームにはユーザーを創る楽しさが確かにあった。
それは「プレイヤーの選択できる種族の多さ」。
種族はそのままゲーム内でのプレイヤーの生きる道になり、その自由度は海よりも広い物だった。例えば、普通に人間になって勇者を目指すもよし。街の宿屋なんかで働いてそのまま自分の店を持つもよし。魔物になって他のプレイヤーと戦うこともできれば、魔王となって世界を滅ぼそうとしてもいい。けれど、その逆を行くように善人魔王、魔物をめざし、冒険者やってるプレイヤーなんかと一緒になって人助けすることもできる。
NPCというのも、もちろん居ることに入るが、この「ジュエルオンライン」を形作っているのは殆ど中にいるプレイヤーたちだろう。
さて、ここまで来たところで考えていただきたい。
どんな種族にもなれるということは、当然その中で力を持たない非力な存在もあるということだ。まぁ、街の一般人だとか、猫だとか。やりようによっては自給自足できる種族ならまだいい。
――――けれど。
本当の本当に。
どうしようもない程弱く、そして報われない種族がいるとしたら?
そんなの、誰もなろうとはしないだろう。
いや、しないはずなのだ。
しかし、世のゲーマーというのは好んでマゾの道へと走りたがるものが多い。
このゲームでもそれはもちろん居たのだが、「その」報われなさ、どうしようもなさゆえに何度もゲームオーバーを重ねながらも、結局何の打開策も見つけられずにマゾの道を走るプレイヤー達は諦めていった。
今もなおそのマゾの道を走り続けるものは、数十万いるプレイヤーの中に居て数人。いや、もしかしたら一人居るのすら珍しいと言われる程かもしれない。
ともかく、その報われない、救いのない種族―――「スライム」を選択し、このゲームを始める者を「ジュエルオンライン」のユーザー達はこう呼んだ。

【バインドプレイヤー】―――と。





「――――ッ!」

一人の青年が、その瞬間に息をのんだ。
脂汗をたらし、身を震わせ、体を使って歓喜する。
散らかった薄暗い部屋の中に光るパソコンのディスプレイ。
そこには、一段の階段を背に立つ小さなスライムの姿があった。

「やっと……着地ダメージで死なずに階段下りられるようになったぜ!」

高いところから飛び降り、着地すれば当然痛い。時と場合によれば痛いでは済まないかもしれない。ゲーム内にもその概念が存在する。自分の身長、筋力に関係して、高所から飛び降りるとダメージを負う、というシステムだ。階段は一段十五センチほど。スライムは身長約三十センチ。

(いや、言いたいことは分かる)

パソコンの前でガッツポーズを取る青年、バインドプレイヤー立花銀は一人思った。
階段下るだけで痛いも何もないはずだ。
しかしこのスライム、階段を下りた時にかかる体へのわずかな衝撃でお亡くなりになる。それ故に、崖から降りるようにして体を動かし、一段一段慎重に下りなければならない。これが中々難しい。
「最初の一日の最初の5分を生き残れるかどうか」これこそがバインドプレイヤーの登竜門といえる。

「やれやれ……ようやく成功したな」

ゲーム開始から2時間弱。プレイヤーのスタート地点である宿屋の総数十段の階段をようやく下りきった。これでも相当早い方でもある。どれだけ早くてもこの作業を2時間以内にこなしたものは居ない。
階段のドット数、フレーム、当たり判定。ありとあらゆる項目を熟知していなければこのスピードは出せない。

「よし、ここから更に……冒険者の試験があるから……」

スライムを選択して生きるにしても、その難易度を和らげる方法は一応ある。
あるとは言っても、それはスズメの涙、焼け石に水、労して効なし。
それでもやる意味はまだあると思ったスライムたちはこぞってその方法を試すが……結局は新しい脅威が生まれ失敗する。
例えを言うならば、村の住民となって平穏に過ごす。これは一見平和そうに見えるが、魔物の襲撃だとか、天災だとかで死ぬ。武装していないという条件も合間って、魔物の襲撃などにはめっぽう弱い。
結局、スライムは冒険者となるのが一番と考えられた。

「さて、始めようか―――って、あ?」

マウスを動かし、ディスプレイの中のスライムを動かす。
しかし、途中で画面が凍りついたかのように何もかもが動かなくなった。

「……パソコン、逝ったか?」

何度かマウスをいじってみるも、反応なし。
仕方がないと肩を落とした銀は、パソコンを強制終了させようとした……瞬間。

「―――っ!?」

世界が、ぐるりと回りだした全てのものが逆さまになりそして、元通りになった。
訳の分からぬまま、銀はその場に倒れ込んだ。
衝撃で部屋のほこりが巻き上がり、薄暗い部屋の中でディスプレイだけが怪しく光る。

「な、なん――――!?」

訳の分からぬまま。意識は、みるみる遠のいて行った。
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