3 / 3
第一部「バインドプレイヤー」
2日目「下水道サルベージ」
しおりを挟む
特性というものが存在する。
例えば鳥は空を飛べたり、猛獣は牙が備わっていたりと。
人間でさえも特技という名でその特性というものが存在する。
では、スライムにはどういう特性があるのか?
「あの、銀さん。これでいいんですか?」
「ああ。もうちょい奥まで照らしてくれ」
「はぁ……」
佐紀は戸惑いの表情で間の抜けた声を発した。手には懐中電灯を持ち、小さな下水道の隙間を照らしている。
その先にはみっちりと青いゲル状の物体が詰まっており、さながら泥のつまった状態であった。
スライムの特性は二つある。一つは【合成】と呼ばれる合体機能。
他のスライムと合体することにより、そのステータスの一部を吸収することができるという能力。一見魅力的に思える力だが、吸収できる対象はスライムのみ。そして、スライムのステータスは壊滅的に酷い。つまり、吸収してもほとんど足しにならないのだ。よって、この能力に大した旨みはない。
二つ目の能力、それが【ゲル化】であり、スライムの唯一輝ける能力である。
その名の通り、液体のような体をあらゆる狭い場所に侵入させることができる。
使用方法としては、牢屋の隙間や天井の小さな穴や亀裂をゲル化ですり抜けて建物の中の道具を盗んだり、人の鼻の中に入り込んで窒息死させたり、演劇で水たまりの役をやったり。なんというか、もう酷い使い道しか存在しない。
その酷い使い道の一つに、下水道など狭い場所に入りこんで落ちている貨幣を手に入れるというものがある。佐紀に下水道を照らしてもらい、銀がその中にある物を取るというわけだ。
何かを発見したようで、銀は途中のゴミやクズなどに体をぶつけ無いように慎重に外に出る。
「よしっ、ガラス玉発見! 銅貨2枚くらいかな?」
「あ、あの……本当にこんなこと続けるんですか? 他にまだ方法が……」
「いや、ないね。これ以上欲を張ると命の危険がここぞとばかりに襲い掛かってくる。これが一番手堅くていい方法なんだよ」
「だ、だからって下水道の中のゴミを売り払ってお金を稼ぐなんてなんか人として駄目な気がします!」
佐紀の言うことは最もなことだった。他の人がやっているところを見たら、憐みの感情と共に嫌悪感を抱くことだろう。
「でも、俺スライムだし。人じゃないからな」
「それに付き合う私は人ですよぅ……」
この世界ではスライムのやることなすことすべてが「まぁ、スライムだし」で片付けられるだろう。
「私、悲しくなってきました……」
「ま、確かに頃合いとは思ってたけどな」
「……え?」
「こんなことに付き合わせてすまなかった。これ以上は……もういいよ。懐中電灯をしまってきてくれ」
首ではないが、顔を振って銀がそんなことを言う。
佐紀はその言葉に別れの片鱗を感じたのか、慌てて言葉を訂正しだした。
「ち、違います! そんな、お手伝いが嫌とかじゃなくて他の方法がないかなって単純に思っただけで! これしかないなら頑張りますからまだもう少し一緒に……」
「え、何言ってんだ佐紀」
「……ふぇ?」
半泣き状態の佐紀を面喰ったように見る銀。
「この世界に来てから2週間これを繰り返したけど、そろそろ資金も十分だと思うからさ、今日はこれで終わりにしようと思って」
「あ、あ、な、なんだ……そうだったんですか……」
「―――何を勘違いしてたのかは知らんけど、本当にありがとうな」
「い、いえ! むしろお礼はこちらが言う方で」
癖なのかなんなのか。毎度何故か慌てた様に喋る佐紀に銀は何でだよと、小さく笑いながら二人で道具屋へと向かった。
ジュエルオンラインの通貨は、銅貨、銀貨、金貨の三つ。銀貨は銅貨十枚分、金貨は銀貨十枚分、銅貨百枚分といったところだ。金を稼ぐのはそこそこ大変で、自分の店を持つために建物を買ったり借りたりするには金貨が何百枚も必要になったりする。
「だから、普通は自分の店を持つのにリアルタイムで何ヶ月もかかるはずなんだよ。初めてのデータで、しかも一ヶ月。自分の宿屋を持てるなんていったいどうやったんだ?」
銀は前から抱いていた疑問を、道具屋に集めたものを売りながら尋ねた。
すると佐紀は、バツが悪そうに眼を泳がせて、やがてこう答えた。
「あのお店、人に貰ったんです。店長さんに」
佐紀は思い出すように手を手で包んで、胸にあてる。
「店長さん、いきなり冒険者やりたいって言い出して、当時従業員が私一人だったので、店長の権利が私に移ったんです」
「そりゃまた……凄い奴がいたもんだな」
店の店長やりながら冒険者になる方法もあることにはある。NPCでも何でもいいから取りあえず人を雇って宿屋で働かせておけばいい。けれど、その店長とやらは、努力してためたお金で買った店を放棄した。
「……どうにも変な話だな」
「え、そうなんですか?」
佐紀はこのゲームを初めて日が浅いため分からなかったが、銀はその話の不自然さに気づいていた。
建物を買うには果てしない道のりがある。自分の努力の結晶を無償で他人に譲り渡すなど……するだろうか?
「……まぁ、考えてもしょうがないか。どうでもいいことだよな」
銀は誰へともなくつぶやいて、そのことを頭の隅に追いやった。
ちょうどその時、全ての換金が終わったようで、店員が銅貨を5枚ほど、銀に手渡した。
手渡すといっても、銀が袋を包み込むようにして体内に飲み込む感じなのだが。
「これで銀貨2枚がようやく集まったな……長かった」
「あはは……お疲れ様でした」
佐紀は曖昧な笑みを浮かべてほっこり顔の銀と並んで歩く。
「あの、どうしていきなりお金なんですか? 確かに何をするにも大切ですけど……訓練とかのクエストで基本のアイテムを集めたりとかはしないんですか?」
「何をするにも金が必要だからだよ。スライムはどうせ何か攻撃受けたら即死なんだから、初心者用のチュートリアルクエストやって回復アイテムとかもらっても正直いらない。売り払えないしな」
クエスト、というのはいわゆるゲーム内で出される課題や依頼のようなもので、達成することにより報酬としてお金やアイテムが貰えたりする。
ゲーム開始直後に受けられるチュートリアルのクエストは、達成することで初心者用の回復アイテムなどが貰えるのだが、特殊なもの扱いで、報酬でもらったアイテムは売ることができない。
「だからモンスターが倒せない限り、下水道サルベージをひたすらに繰り返す。そして金を貯める。スライムがするべきはそれだ。そしてあるものを購入しておく」
「あるもの……ですか」
訪れたのは武器を取り扱う鍛冶屋。素材を渡して作ってもらうか、金を渡して既製品を購入するか、既に持っている装備品を強化するかのいずれかの方法で利用できる。
「えーっと……ああ、加速のつばさ、これください」
「ええ!? それ銀貨2枚丸ごと使っちゃいますよ!?」
「いいんだよ。まずはこれ買うために稼いでたようなものなんだ」
種族によって、装備可能なものが変わる。人間は頭を含め、両手、両足、背中や首など多彩だが、狼などのモンスターはそれよりかは少し少ないといった具合だ。
ちなみにスライムの装備できる部位は頭と背中のみ。武器などない。
「一応、頭装備の防御力が頭突きとかの威力に干渉したりするらしいんだけどスライムの一撃で死ぬ相手とか見たことない」
「そ、そうですね……」
「背中装備だけど、最初の街で購入できるスライムの最強装備がこれだ」
手とは言えぬ手でスライム用の小型の翼を掲げて見せる。見た目は半透明の天使の翼。純白の見た目が清潔感にあふれており、これがスライムの間抜けな姿に取り付けられるのかと思うと、笑いが禁じえない程に不釣り合いだった。
「というわけで、『装備』」
銀がキーワードを口にすると、翼が独りでに動き、銀の背へと装着された。
「加速のつばさって、どういうものなんですか? 名前的に早そうですが……」
「これは、自身の速度の数値に無条件で+5するんだ。スライムの速度は初期値で5だから……今は10だな」
「へ、へぇ……それ、相当遅い、ですよね」
人間の速度の初期値は25。早い種族となれば35かそこらだろう。
速度のイメージとしては、数値が1違うだけで、50メートル走のタイムが1秒変わると考えてほしい。
これで、スライムの速度がいかに壊滅的かは分かっていいただけたと思う。
普段佐紀と並んで歩くときなどは、佐紀が一生懸命銀の速度に合わせる感じになっている。
「あの、それで何をするんですか?」
「下水道サルベージだ」
「えっ」
「銀貨2枚たまるまでもう一度繰り返すッ!」
その言葉が幻聴とでも言わんばかりに佐紀はわなわなと身震いした。
「じゃあなんで翼買っちゃったんですかぁ!?」
「これから先に必要で……あとは下水道サルベージが楽になるからって」
「流石にそんなのやってられませんっ! というか液状になって下水道に入り込んでいく銀さんを見たくありません!」
そんなことを言い放つと同時に佐紀は走り去ってしまった。
鍛冶屋の前で一人取り残された銀はその後ろ姿を呆然と眺めていることしかできなかった――――
◆
それから暫しの時間がたち。銀が宿屋の扉を必死に押し開けて中に入る。
「佐紀、悪かった。お前がそんなにあの作業嫌がってるとは思わなくて……」
「銀さん、これどうぞ」
「って、は?」
謝罪しようとする銀に佐紀はずいっとそれ突き付けてきた。
銀がまじまじとそれを見ると、どうやら宿帳のようなものだということが分かった。
「コレの管理をしてください」
「え、いや。ちょっと待て」
「それだけなら安全ですよね?」
「いや安全だが、どういうことだ」
状況を理解できない銀に佐紀が指を突き付けた。
「ここでアルバイトしてください! お給料払いますんで!」
「――――あ、そういうことか! いいのか!?」
「いいですよ。働いてくれるんでしたら、当然です」
「……すまん。考えてみたらこれが一番早かったかもしれん」
「本当ですよ……全く、もう」
呆れるようにため息をこぼす佐紀に申し訳なさそうにする銀。
一日の給料は銅貨が5枚。銀貨2枚など4日でたまった。
「……下水道サルベージがいかに稼げないかがよく分かるな」
「分かっていただけたみたいで何よりです……」
宿帳とにらめっこしながらペンを動かす銀の後ろで箒を持って厳かに掃除をする佐紀は、道場にも似た感情を抱いて肩を落としたのだった。
例えば鳥は空を飛べたり、猛獣は牙が備わっていたりと。
人間でさえも特技という名でその特性というものが存在する。
では、スライムにはどういう特性があるのか?
「あの、銀さん。これでいいんですか?」
「ああ。もうちょい奥まで照らしてくれ」
「はぁ……」
佐紀は戸惑いの表情で間の抜けた声を発した。手には懐中電灯を持ち、小さな下水道の隙間を照らしている。
その先にはみっちりと青いゲル状の物体が詰まっており、さながら泥のつまった状態であった。
スライムの特性は二つある。一つは【合成】と呼ばれる合体機能。
他のスライムと合体することにより、そのステータスの一部を吸収することができるという能力。一見魅力的に思える力だが、吸収できる対象はスライムのみ。そして、スライムのステータスは壊滅的に酷い。つまり、吸収してもほとんど足しにならないのだ。よって、この能力に大した旨みはない。
二つ目の能力、それが【ゲル化】であり、スライムの唯一輝ける能力である。
その名の通り、液体のような体をあらゆる狭い場所に侵入させることができる。
使用方法としては、牢屋の隙間や天井の小さな穴や亀裂をゲル化ですり抜けて建物の中の道具を盗んだり、人の鼻の中に入り込んで窒息死させたり、演劇で水たまりの役をやったり。なんというか、もう酷い使い道しか存在しない。
その酷い使い道の一つに、下水道など狭い場所に入りこんで落ちている貨幣を手に入れるというものがある。佐紀に下水道を照らしてもらい、銀がその中にある物を取るというわけだ。
何かを発見したようで、銀は途中のゴミやクズなどに体をぶつけ無いように慎重に外に出る。
「よしっ、ガラス玉発見! 銅貨2枚くらいかな?」
「あ、あの……本当にこんなこと続けるんですか? 他にまだ方法が……」
「いや、ないね。これ以上欲を張ると命の危険がここぞとばかりに襲い掛かってくる。これが一番手堅くていい方法なんだよ」
「だ、だからって下水道の中のゴミを売り払ってお金を稼ぐなんてなんか人として駄目な気がします!」
佐紀の言うことは最もなことだった。他の人がやっているところを見たら、憐みの感情と共に嫌悪感を抱くことだろう。
「でも、俺スライムだし。人じゃないからな」
「それに付き合う私は人ですよぅ……」
この世界ではスライムのやることなすことすべてが「まぁ、スライムだし」で片付けられるだろう。
「私、悲しくなってきました……」
「ま、確かに頃合いとは思ってたけどな」
「……え?」
「こんなことに付き合わせてすまなかった。これ以上は……もういいよ。懐中電灯をしまってきてくれ」
首ではないが、顔を振って銀がそんなことを言う。
佐紀はその言葉に別れの片鱗を感じたのか、慌てて言葉を訂正しだした。
「ち、違います! そんな、お手伝いが嫌とかじゃなくて他の方法がないかなって単純に思っただけで! これしかないなら頑張りますからまだもう少し一緒に……」
「え、何言ってんだ佐紀」
「……ふぇ?」
半泣き状態の佐紀を面喰ったように見る銀。
「この世界に来てから2週間これを繰り返したけど、そろそろ資金も十分だと思うからさ、今日はこれで終わりにしようと思って」
「あ、あ、な、なんだ……そうだったんですか……」
「―――何を勘違いしてたのかは知らんけど、本当にありがとうな」
「い、いえ! むしろお礼はこちらが言う方で」
癖なのかなんなのか。毎度何故か慌てた様に喋る佐紀に銀は何でだよと、小さく笑いながら二人で道具屋へと向かった。
ジュエルオンラインの通貨は、銅貨、銀貨、金貨の三つ。銀貨は銅貨十枚分、金貨は銀貨十枚分、銅貨百枚分といったところだ。金を稼ぐのはそこそこ大変で、自分の店を持つために建物を買ったり借りたりするには金貨が何百枚も必要になったりする。
「だから、普通は自分の店を持つのにリアルタイムで何ヶ月もかかるはずなんだよ。初めてのデータで、しかも一ヶ月。自分の宿屋を持てるなんていったいどうやったんだ?」
銀は前から抱いていた疑問を、道具屋に集めたものを売りながら尋ねた。
すると佐紀は、バツが悪そうに眼を泳がせて、やがてこう答えた。
「あのお店、人に貰ったんです。店長さんに」
佐紀は思い出すように手を手で包んで、胸にあてる。
「店長さん、いきなり冒険者やりたいって言い出して、当時従業員が私一人だったので、店長の権利が私に移ったんです」
「そりゃまた……凄い奴がいたもんだな」
店の店長やりながら冒険者になる方法もあることにはある。NPCでも何でもいいから取りあえず人を雇って宿屋で働かせておけばいい。けれど、その店長とやらは、努力してためたお金で買った店を放棄した。
「……どうにも変な話だな」
「え、そうなんですか?」
佐紀はこのゲームを初めて日が浅いため分からなかったが、銀はその話の不自然さに気づいていた。
建物を買うには果てしない道のりがある。自分の努力の結晶を無償で他人に譲り渡すなど……するだろうか?
「……まぁ、考えてもしょうがないか。どうでもいいことだよな」
銀は誰へともなくつぶやいて、そのことを頭の隅に追いやった。
ちょうどその時、全ての換金が終わったようで、店員が銅貨を5枚ほど、銀に手渡した。
手渡すといっても、銀が袋を包み込むようにして体内に飲み込む感じなのだが。
「これで銀貨2枚がようやく集まったな……長かった」
「あはは……お疲れ様でした」
佐紀は曖昧な笑みを浮かべてほっこり顔の銀と並んで歩く。
「あの、どうしていきなりお金なんですか? 確かに何をするにも大切ですけど……訓練とかのクエストで基本のアイテムを集めたりとかはしないんですか?」
「何をするにも金が必要だからだよ。スライムはどうせ何か攻撃受けたら即死なんだから、初心者用のチュートリアルクエストやって回復アイテムとかもらっても正直いらない。売り払えないしな」
クエスト、というのはいわゆるゲーム内で出される課題や依頼のようなもので、達成することにより報酬としてお金やアイテムが貰えたりする。
ゲーム開始直後に受けられるチュートリアルのクエストは、達成することで初心者用の回復アイテムなどが貰えるのだが、特殊なもの扱いで、報酬でもらったアイテムは売ることができない。
「だからモンスターが倒せない限り、下水道サルベージをひたすらに繰り返す。そして金を貯める。スライムがするべきはそれだ。そしてあるものを購入しておく」
「あるもの……ですか」
訪れたのは武器を取り扱う鍛冶屋。素材を渡して作ってもらうか、金を渡して既製品を購入するか、既に持っている装備品を強化するかのいずれかの方法で利用できる。
「えーっと……ああ、加速のつばさ、これください」
「ええ!? それ銀貨2枚丸ごと使っちゃいますよ!?」
「いいんだよ。まずはこれ買うために稼いでたようなものなんだ」
種族によって、装備可能なものが変わる。人間は頭を含め、両手、両足、背中や首など多彩だが、狼などのモンスターはそれよりかは少し少ないといった具合だ。
ちなみにスライムの装備できる部位は頭と背中のみ。武器などない。
「一応、頭装備の防御力が頭突きとかの威力に干渉したりするらしいんだけどスライムの一撃で死ぬ相手とか見たことない」
「そ、そうですね……」
「背中装備だけど、最初の街で購入できるスライムの最強装備がこれだ」
手とは言えぬ手でスライム用の小型の翼を掲げて見せる。見た目は半透明の天使の翼。純白の見た目が清潔感にあふれており、これがスライムの間抜けな姿に取り付けられるのかと思うと、笑いが禁じえない程に不釣り合いだった。
「というわけで、『装備』」
銀がキーワードを口にすると、翼が独りでに動き、銀の背へと装着された。
「加速のつばさって、どういうものなんですか? 名前的に早そうですが……」
「これは、自身の速度の数値に無条件で+5するんだ。スライムの速度は初期値で5だから……今は10だな」
「へ、へぇ……それ、相当遅い、ですよね」
人間の速度の初期値は25。早い種族となれば35かそこらだろう。
速度のイメージとしては、数値が1違うだけで、50メートル走のタイムが1秒変わると考えてほしい。
これで、スライムの速度がいかに壊滅的かは分かっていいただけたと思う。
普段佐紀と並んで歩くときなどは、佐紀が一生懸命銀の速度に合わせる感じになっている。
「あの、それで何をするんですか?」
「下水道サルベージだ」
「えっ」
「銀貨2枚たまるまでもう一度繰り返すッ!」
その言葉が幻聴とでも言わんばかりに佐紀はわなわなと身震いした。
「じゃあなんで翼買っちゃったんですかぁ!?」
「これから先に必要で……あとは下水道サルベージが楽になるからって」
「流石にそんなのやってられませんっ! というか液状になって下水道に入り込んでいく銀さんを見たくありません!」
そんなことを言い放つと同時に佐紀は走り去ってしまった。
鍛冶屋の前で一人取り残された銀はその後ろ姿を呆然と眺めていることしかできなかった――――
◆
それから暫しの時間がたち。銀が宿屋の扉を必死に押し開けて中に入る。
「佐紀、悪かった。お前がそんなにあの作業嫌がってるとは思わなくて……」
「銀さん、これどうぞ」
「って、は?」
謝罪しようとする銀に佐紀はずいっとそれ突き付けてきた。
銀がまじまじとそれを見ると、どうやら宿帳のようなものだということが分かった。
「コレの管理をしてください」
「え、いや。ちょっと待て」
「それだけなら安全ですよね?」
「いや安全だが、どういうことだ」
状況を理解できない銀に佐紀が指を突き付けた。
「ここでアルバイトしてください! お給料払いますんで!」
「――――あ、そういうことか! いいのか!?」
「いいですよ。働いてくれるんでしたら、当然です」
「……すまん。考えてみたらこれが一番早かったかもしれん」
「本当ですよ……全く、もう」
呆れるようにため息をこぼす佐紀に申し訳なさそうにする銀。
一日の給料は銅貨が5枚。銀貨2枚など4日でたまった。
「……下水道サルベージがいかに稼げないかがよく分かるな」
「分かっていただけたみたいで何よりです……」
宿帳とにらめっこしながらペンを動かす銀の後ろで箒を持って厳かに掃除をする佐紀は、道場にも似た感情を抱いて肩を落としたのだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あなた方の愛が「真実の愛」だと、証明してください
こじまき
恋愛
【全3話】公爵令嬢ツェツィーリアは、婚約者である公爵令息レオポルドから「真実の愛を見つけたから婚約破棄してほしい」と言われてしまう。「そう言われては、私は身を引くしかありませんわね。ただし最低限の礼儀として、あなた方の愛が本当に真実の愛だと証明していただけますか?」
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる