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第一章 田中悠斗
獣人の村へ④
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僕は小さく笑って、剣を握り直した。
「……さあ、残りの群れが来る前に行こう」
「なにリーダー気取ってんのよ!」
ホーンワイルドボアとの激戦を終え、ウミャウの意外な戦闘センスに驚きつつ、なんとか一息。ずっと背負ってきたウミャウも、今は自分の足でしっかり歩いている。
それにしても――森の奥は、まだ油断できない。
「ママ、早く……」
ウミャウが小さくつぶやくたびに、胸の奥が締め付けられる。
助けに行かなきゃ――そう思う一方で、もう足が棒のように重い。
少し開けた場所に出たところで、葵が肩で息をしながら言った。
「ねぇ……ちょっと休憩しよ。私、もう限界。ヒール履いて戦う女の気持ち、あんたにわかる?」
「いや、それヒール脱いでるだろ」
「心のヒールがあるの!」
「意味わかんねぇよ……」
そんな軽口を交わしながら、朽ちた切り株のそばに腰を下ろす。
ウミャウが僕の膝の横にちょこんと座り、葵は疲れた様子で隣にドカッと腰を下ろした。
距離、近い。……いや、近いって。肩、触れてるんですけど!?
「ふぅ……あー、やっぱり地面固い。悠斗、背中貸して」
「は? 背中?」
「壁代わり。ほら、あんた丈夫でしょ?」
「……はいはい」
言われるままに背中を貸すと、葵がためらいなく背中にもたれかかってきた。背中越しに伝わる体温。髪がふわりと首に触れる。ちょっといい匂いがする。
「うわ……なんか妙に落ち着く……」
「へぇ、意外。私のこと嫌いなんでしょ?」
「いや……その……好きとか嫌いとかじゃなくて」
「じゃあ、“好き”なんだ?」
「い、いや、違うって!」
振り返ろうとすると、葵の指が僕の頬をつついた。
「ふーん。じゃあ“嫌い”なの?」
「……それも違う」
「じゃ、どっち?」
「……わからん」
「ははっ、優柔不断~。彼氏力ゼロ~」
「俺、彼氏じゃねぇし!」
……って言いながら、なんか夫婦漫才みたいになってるの、どういうこと。
ウミャウがそんな僕らを見上げて、ぱちぱちと瞬きをした。
「パパとママ、なかよしミャウ。チューする?」
「ぶっ!!?」
「ちょ、ちょっとウミャウ!? ちがっ……」
「パ、パパぁ!? だれが!?」
顔が真っ赤になる葵を見て、ウミャウはけろっと笑っている。
「だって、いつもケンカしてるけど、いっしょに笑ってるミャウ。ママとパパみたいミャウ」
「ちょ、悠斗! なんとか言ってよ!」
「え、いや……まぁ、確かに……夫婦漫才っぽいとは思ってた」
「殺すわよ」
「ママ、こわいミャウ」
「ママじゃない!」
葵が両手で顔を覆ってプルプル震える。
でもその耳まで真っ赤なのを、僕は見逃さなかった。
――なんか、こんな風に異世界で助け合いながら、絆を深めあっていくってのも悪くないんじゃない?
この小さな子を真ん中にして、笑ってる感じ。
まるで……家族みたいだ。
僕はそっとウミャウの頭を撫でた。
「ありがとな、ウミャウ。おかげで助かった」
「えへへ……ママも、パパも、すきミャウ」
「ママじゃないってば!」
「はいはい、ママ」
「悠斗! お前まで!!」
葵が肩で僕をどついてきた。痛いけど、どこか懐かしいような、温かい感覚だった。
道中、他にも植物型のモンスター、さらには頭上からコウモリ型のモンスターに何度も襲われたが何とか逃走。レベルは上がらなかったけど逃げるが勝ちだ。
……ほんとに、なんなんだこの世界。
魔族とかスキルとか、命がけの戦いとか。
なのに今は、なんだか笑えてる。
それが少し、嬉しかった。
――けれど。
安堵の空気は、すぐに焦げ臭い匂いで打ち消された。
風の向こう、森の奥。
黒い煙が、空に昇っていた。
「……見て」
葵が立ち上がり、表情を引き締めた。
「村が……燃えてる」
ウミャウの手が、僕の服をギュッと掴む。
小さな声が震える。
「ママ……ママが……」
僕と葵は、顔を見合わせた。
さっきまでのぬくもりが、一瞬で引き締まる。
「行こう」
僕は盾を握り直し、足を踏み出した。
「……さあ、残りの群れが来る前に行こう」
「なにリーダー気取ってんのよ!」
ホーンワイルドボアとの激戦を終え、ウミャウの意外な戦闘センスに驚きつつ、なんとか一息。ずっと背負ってきたウミャウも、今は自分の足でしっかり歩いている。
それにしても――森の奥は、まだ油断できない。
「ママ、早く……」
ウミャウが小さくつぶやくたびに、胸の奥が締め付けられる。
助けに行かなきゃ――そう思う一方で、もう足が棒のように重い。
少し開けた場所に出たところで、葵が肩で息をしながら言った。
「ねぇ……ちょっと休憩しよ。私、もう限界。ヒール履いて戦う女の気持ち、あんたにわかる?」
「いや、それヒール脱いでるだろ」
「心のヒールがあるの!」
「意味わかんねぇよ……」
そんな軽口を交わしながら、朽ちた切り株のそばに腰を下ろす。
ウミャウが僕の膝の横にちょこんと座り、葵は疲れた様子で隣にドカッと腰を下ろした。
距離、近い。……いや、近いって。肩、触れてるんですけど!?
「ふぅ……あー、やっぱり地面固い。悠斗、背中貸して」
「は? 背中?」
「壁代わり。ほら、あんた丈夫でしょ?」
「……はいはい」
言われるままに背中を貸すと、葵がためらいなく背中にもたれかかってきた。背中越しに伝わる体温。髪がふわりと首に触れる。ちょっといい匂いがする。
「うわ……なんか妙に落ち着く……」
「へぇ、意外。私のこと嫌いなんでしょ?」
「いや……その……好きとか嫌いとかじゃなくて」
「じゃあ、“好き”なんだ?」
「い、いや、違うって!」
振り返ろうとすると、葵の指が僕の頬をつついた。
「ふーん。じゃあ“嫌い”なの?」
「……それも違う」
「じゃ、どっち?」
「……わからん」
「ははっ、優柔不断~。彼氏力ゼロ~」
「俺、彼氏じゃねぇし!」
……って言いながら、なんか夫婦漫才みたいになってるの、どういうこと。
ウミャウがそんな僕らを見上げて、ぱちぱちと瞬きをした。
「パパとママ、なかよしミャウ。チューする?」
「ぶっ!!?」
「ちょ、ちょっとウミャウ!? ちがっ……」
「パ、パパぁ!? だれが!?」
顔が真っ赤になる葵を見て、ウミャウはけろっと笑っている。
「だって、いつもケンカしてるけど、いっしょに笑ってるミャウ。ママとパパみたいミャウ」
「ちょ、悠斗! なんとか言ってよ!」
「え、いや……まぁ、確かに……夫婦漫才っぽいとは思ってた」
「殺すわよ」
「ママ、こわいミャウ」
「ママじゃない!」
葵が両手で顔を覆ってプルプル震える。
でもその耳まで真っ赤なのを、僕は見逃さなかった。
――なんか、こんな風に異世界で助け合いながら、絆を深めあっていくってのも悪くないんじゃない?
この小さな子を真ん中にして、笑ってる感じ。
まるで……家族みたいだ。
僕はそっとウミャウの頭を撫でた。
「ありがとな、ウミャウ。おかげで助かった」
「えへへ……ママも、パパも、すきミャウ」
「ママじゃないってば!」
「はいはい、ママ」
「悠斗! お前まで!!」
葵が肩で僕をどついてきた。痛いけど、どこか懐かしいような、温かい感覚だった。
道中、他にも植物型のモンスター、さらには頭上からコウモリ型のモンスターに何度も襲われたが何とか逃走。レベルは上がらなかったけど逃げるが勝ちだ。
……ほんとに、なんなんだこの世界。
魔族とかスキルとか、命がけの戦いとか。
なのに今は、なんだか笑えてる。
それが少し、嬉しかった。
――けれど。
安堵の空気は、すぐに焦げ臭い匂いで打ち消された。
風の向こう、森の奥。
黒い煙が、空に昇っていた。
「……見て」
葵が立ち上がり、表情を引き締めた。
「村が……燃えてる」
ウミャウの手が、僕の服をギュッと掴む。
小さな声が震える。
「ママ……ママが……」
僕と葵は、顔を見合わせた。
さっきまでのぬくもりが、一瞬で引き締まる。
「行こう」
僕は盾を握り直し、足を踏み出した。
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