《完結》幼馴染の女上司と異世界召喚された僕ですが、勇者じゃなく“標的”でした ~殺し屋に命を狙われるとか聞いてない~

月輝晃

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第一章 田中悠斗

村に着いたけど③

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 髭男ひげおとこが斧を振り上げ、獣のような唸り声を上げた。
「オスガキは殺していい。メスガキは動けなくしてから――まとめて叩き潰す!」

 地鳴りのような笑いが響き、炎の中で戦闘が始まった。

 次の瞬間、髭男の体が淡く赤黒く光った。
「ゴオオッ……!」
 低いうなりとともに、冷たい圧が辺りに広がる。
 
 胸の奥がギュッと締めつけられる! こ、呼吸がで……き……な……い。
 葵の体も同じようにビクッと震えていた。

 ――スキルか。しかも……この感じ、覚えがある。
 ホーンワイルドボアの咆哮ほうこう。だが、これはもっと濃い“恐怖”。
 鑑定では分からなかったけど、おそらく威圧系――精神を直接揺さぶるスキルだ。

「ひっ……!」
 ウミャウが僕の背中で小さく悲鳴を上げ、震える。
 葵の剣を握る指先もわずかに震えている。
 まるで、全身が誰かの手で押さえつけられているようだ。

  ――これはホーンワイルドボアの咆哮とは違う。恐怖を与えるスキルか。
  
 ――クソッ……体が……重い!

 髭男がゆっくりと斧を構えた。
 炎に照らされるその影は、まるで巨獣のように膨れ上がって見える。

 ドゴォッ!!

 斧が盾に叩きつけられ、鉄が悲鳴を上げた。
 衝撃が腕を貫き、骨が軋む。HPが一気に20減って50、SPが15減って55。
 ……SP? なんで減ってるの? 体力じゃなくて……気力的な何か? いや今は考えるな!

 受け止めただけで、腕がビリビリしびれる。
 レベル差が違いすぎる。ガードしても、ダメージが貫通してくる。

「網に気をつけて! 捕まったら終わりだよ!」
 葵の声が飛ぶ。
 
 レベル18の野盗が2人、網を投げてきた。
 彼女がスルッと身をひねり、剣を閃かせる。
 スパァンッ――! 一瞬で網を断ち切った。

 僕も盾で網を弾き返すが、次の瞬間、別の2人が血まみれの斧を振り下ろしてきた。
 盾で一撃を防ぎ、剣で浅く受け流す。それだけでHPが15減って35。
 ……やばい。あと一撃で死ねる。

「ユート、だいじょうぶ!?」
 背後でウミャウの声。
 正直、笑って答えたいけど、それどころじゃない!

 考えろ。冷静になれ。
 レベル22――1レベルごとに+1、ボーナス+3として、全部“力”に振ってたら……22+66=88。88って、化け物か。人間の筋力じゃねぇ!
 
 特にこの人たち全部力に振ってそうだよね。
 全然相手にならないよ。どうしよう。

 そんな計算してる間にも、葵はもう動いていた。
 葵の剣術はLv3! その動きで、レベル18の野盗へ斬り込む。
 
 ザシュッ――
 切り裂いたが、浅い。血が飛び散るだけで、野盗は踏みとどまる。

 レベル差があるせいか、ダメージが少ない! 
 葵が連続斬りを繰り出し、さらにもう1撃。

「ちっ、こいつ速ぇ!」
 野盗が舌打ちし、網を再び投げる。
 葵が木の幹を蹴り、跳躍してかわした。
 炎の中で、彼女の髪が流星のように光る。
 
 速い……やっぱり、葵も素早さに全振りしたか
 予想通り、素早さは若干こっちの方が有利か。
 
 その隙に、ウミャウが動く。
 
「ミャウ、みんなを守る!」
 ウミャウが小さく叫んだ。

 地面を駆け抜ける小さな影。
 拾い上げた小石が、ヒュッと空気を裂いて飛ぶ。
 ――パシッ! レベル18の野盗の顔面に直撃!

「ぐあっ!」
 野盗が目を押さえてよろけた。

「今だ! 葵、ウミャウを連れて逃げろ! 僕が時間を稼ぐ!」
「なっ……無茶言わないで! 一緒に逃げるよ!」
「ダメだ、ウミャウが捕まる! 葵、信じてくれ!」

 一瞬、葵の唇が震えた。
 けれど、次の瞬間には決意の色が宿っていた。

「……残業代、出さないからね!」
 ウミャウの手を掴み、茂みへ駆け出す。

「逃がすかっ!!」
 髭男が叫ぶ。
 
 二人の野盗が追いかけようとした瞬間――
 ウミャウが振り返りざまに小石を連投!
 カン、カン!と二人の足元に命中し、バランスを崩す。
 その間に葵とウミャウが闇の中へ消えた。

「よしっ……!」

 胸をなでおろした刹那、髭男がピタリと動きを止めた。
 静かに目を閉じ、次に開いた時、笑っていた。
 それは“人の笑み”じゃなかった。
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