《完結》幼馴染の女上司と異世界召喚された僕ですが、勇者じゃなく“標的”でした ~殺し屋に命を狙われるとか聞いてない~

月輝晃

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第一章 田中悠斗

野党ボス戦②

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 その時、背後から鋭い声が飛んだ。

「悠斗、しゃきっとしなさいよ!」

 その一言が肩を叩くように、僕を現実に引き戻した。

 葵だ!
 葵が光のような速さでザルドの側面を斬り抜ける――ザシュッ!
 その音が、闇の地下室に閃光のように走った。

 すぐさま続くように、サーラが豹のごとき跳躍で飛び込み、ザルドの腕に拳を叩き込む。
 
  ガツン!
  
 だが、鋼のように硬い体毛が衝撃を吸収し、まるで岩を殴ったように手が弾かれる。ザルドの顔がわずかに歪み、赤い眼が怒りの色でぎらりと光った。

「ガキ共……よくも俺の商売を邪魔してくれたな!」

 咆哮――。
 ゴオオオオオッ!!

 地下全体が震える。音ではなく“圧”だ。
 空気が波打ち、僕も葵もサーラも一瞬、体の動きを奪われる。
 鼓膜がキンと鳴り、視界がぐにゃりと歪む。

 だが、ウミャウだけは耳を塞いで耐えていた。
 涙をにじませながら、それでも小さな手を伸ばし――石を握る。

「ユート、がんばって!」

 ビシッ!!
 小石が一直線に飛び、ザルドの片目に命中した。

「ぐっ……このガキィッ!」

 巨体がわずかによろめく。
 その一瞬が、戦局を変える。

「いいぞ、ウミャウ! その調子だ!」
 僕が叫ぶと、ウミャウが涙を拭って小さな牙を見せる。
 
「ミャウ、負けない!」
 その声は、あの炎に包まれた村で泣いていた子と同じではなかった。
 もう一度小石を拾って構える。強い子だ……!

 ザルドが怒号を上げ、床を割るほどの踏み込みで暴れ出す。
「このガキどもがァッ!」

 けれど、ウミャウの石が作った一瞬の隙を、葵とサーラが見逃すはずもない。

「悠斗、ボーッとすんな! 動けっ!」

 葵が剣を振り上げ、ザルドの脇腹へと滑り込む。
 
 キンッ! 
 
 鋼鉄の音が響き、刃が火花を散らして弾かれる。
 だが葵は止まらない。フットワークが軽い――テニス部仕込みのステップが床を滑る。

 ザルドの巨体の周りを円を描くように走り、呼吸と間合いを計りながら反撃の機会を狙う。
 その姿は、戦場に咲く疾風そのものだった。

 サーラも怯まない。
 低く唸り声をあげ、しなやかな筋肉を弾かせながら、鋭い爪を振り下ろす。
 
 ガツン――!
 
 金属のような音とともに、ザルドの肩に直撃。衝撃で巨体がわずかに傾ぐ。獣人特有の膂力りょうりょくが炸裂し、床の石がヒビを描いた。

「チッ……雑魚が群れても無駄だ!」

 ザルドが獣の喉から低く唸り、両腕をゆっくりと広げる。
 冷気が――流れ出した。
 氷結爪・第二波。さっきよりも、明らかに範囲が広い。
 空気そのものが凍りつくような音がして、床の霜が一気に広がっていく。

「全員、散るんだ!」

 僕の叫びが反射して、石壁に弾けた。
 ウミャウを抱きかかえ、横へ転がり込む。
 葵とサーラも左右へ飛び、氷の刃が轟音とともに通り抜ける。
 
 ガリガリガリッ――ッ!
 
 地下室の壁が一瞬で削られ、石の破片が雨のように降る。
 ほほをかすめた冷気が、まるで刃物。肌が切れたようにヒリつく。

「はぁっ……はぁっ……! こいつの攻撃、ヤバすぎる……!」

 息を吸うだけで肺が痛い。
 床には氷が張り、足を動かすたびに滑る音がする。
 それでも立ち上がるしかない――この化け物を前に、逃げたら終わりだ。

 ザルドが冷たい息を吐きながら、ゆっくりとこちらを見据える。
 その赤い眼光は、まるで狩りを愉しむ捕食者。

「さて……どの骨から砕いてやろうか」

 ――殺気が、空気そのものを裂いた。
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