《完結》幼馴染の女上司と異世界召喚された僕ですが、勇者じゃなく“標的”でした ~殺し屋に命を狙われるとか聞いてない~

月輝晃

文字の大きさ
35 / 61
第一章 田中悠斗

うまくいった

しおりを挟む
「本当!? ありがとう、クロウ・ヴァインツ! あなたなら、きっとエルトリアを救える!」

 足元には白い大理石の床が広がり、遠くには金色の柱が立ち並ぶ神殿のような場所だった。

 俺の前には、月光のように輝く長い銀色の髪と白いワンピースをまとった、双子神の一人とされる少女が立っていた。16か17歳ほどに見える彼女の名前は、ユリアーナというらしい。

「……その前に……」

 俺はユリアーナの輝く青い瞳を見つめ、言葉を慎重に選んだ。神々の間に漂う花の香りと柔らかな光が、俺の心を奇妙に落ち着かせる。だが、殺し屋としての勘は、こんな場面でも油断を許さない。任務に飛び込む前に、情報はすべて揃えておく。

「いくつか質問がある」

 ユリアーナの唇に、わずかな笑みが浮かぶ。まるで俺の直球な質問を予期していたかのようだ。

「さすがです。準備を怠らないのですね。どんな質問ですか?」

 柔らかなその声には、どこか抗いがたい威厳が宿っていた。光の粒子が彼女の周囲を舞い、まるで星屑が神々の間を漂うような幻想的な光景を描き出す。

 俺は一つ息を整え、静かに口を開いた。

 「まず、武器の調達方法だ。チート転生者と戦うなら、それ相応の装備が必要になる。次に協力者。この『エルトリア』という世界に、俺の味方となる存在はいるのか? そして、トラブルが発生した時や依頼を果たした後、お前とどう連絡を取るか。最後に、ターゲット──チート転生者の特徴。これらを全て、詳しく教えてくれ」

 ユリアーナの目が一瞬細まり、俺の質問を吟味するように微笑む。彼女は指を軽く鳴らし、光の粒子が集まってホログラムのような映像を映し出す。森、街、武器、そして見知らぬ人物の姿が浮かぶ。
 
「武器について。『エルトリア』には地球のような武器はないけど、あなたには特別な手段を用意したわ」

 彼女は右手を上げ、掌に小さな光の渦を出現させる。
 
 「これは『接界孔《リンク・ゲート》』。地球のある部屋に繋がっています。小さな部屋ですが、そこにあるものを取り出すことが出来ます。そして穴の大きさや部屋の大きさはあなたのレベルに比例する。今はレベル1だから、小さな拳銃やナイフ程度しか取り出せない。レベルが上がれば、穴も武器庫も大きくなり、もっと強力な武器も使えるようになるわ」
 
「リンク・ゲート?」

 俺は眉をひそめる。ユリアーナが差し出した光の渦は、掌サイズの小さな円だ。試しに手を伸ばすと、冷たい空気が指先に触れ、向こう側に空間が広がっている感覚がある。覗いてみると、確かに暗い小部屋が見えた。
 
「地球の武器庫に繋がってるなら、俺の装備はすべて使えるってことか?」

「その通り。あなたなら、その使い方をすぐに理解するでしょう」

「だが、武器はどうする?先ほど見た感じだと部屋は空のようだが」

「あなたなら、その部屋に希望の物を運んでくれる人がいるのでは?」

 もう一度リンクゲートを覗く。常人なら見えないほどの暗い部屋の、手の届く範囲に使い古された電話機があった。
 
 ――連絡が取れるのなら……

 1人の小太りの男の顔が浮かぶ。わずかなヒントから、この地球上のどこかもわからない小部屋を探し出し、荷物を届けてくれる者。あの男しかいないだろう。
 
「分かった。次は『エルトリア』での協力者だ。」

 ユリアーナの表情が一瞬曇る。
 
 「協力者はいません。エルトリアでは、あなたは一人の旅人として現れます。仲間は自分で探し、信頼も自分で築く必要がある。情報屋、傭兵、商人――この世界には利用できる人間がたくさんいるけど、裏切りも日常茶飯事。あなたなら、そのくらいは想定済みですよね?」

「当然だ」

 俺は冷たく返す。

「連絡方法について」

 ユリアーナは指を軽く振り、光の渦が消える。
 
「私はいつもあなたを見ています。依頼が完了すれば、自動的に私が感知します。そしてトラブル……あなた1人で解決するしかない。介入は出来ないのです」

「いつも見てる、か。監視されてる気分だな」

 俺は皮肉を込めて言うが、ユリアーナは笑みを崩さない。

「最後に、チート転生者の特徴ですが……」

 彼女の声がわずかに硬くなる。
 
「彼らはイリアールから与えられた異常な能力を持っています。無尽蔵の魔力、超人的な身体能力、未来予知、即時回復――能力は人によって異なるけど、共通するのは『常識を超えた力』です。この世界では目立つ存在となります。ターゲットは自分で特定してください。目立つ存在なら簡単だけど、隠れているものもいるかもしれない」

「自分で探せ、か。面倒だが、やり方は分かってる」

 俺は頷く。標的の特定は殺し屋の基本だ。いつも、情報収集から始める。

「そうだ、もう一つ。チート転生者って奴は全部で何人いるんだ?」



 目を開けると、鬱蒼とした森の小道に立っていた。湿った空気が肌にまとわりつき、遠くで鳥のさえずりが響く。ゼモルディアの砂と硝煙の匂いはなく、代わりに土と緑の香りが肺を満たす。ユリアーナの言った通り、俺はエルトリアに降り立ったらしい。

 まず、身体を確認する。――異変に気付く。服装の違いもそうだが、胸に膨らみがある。手を当てると、柔らかい感触。――女?

 近くの小川に映る自分の姿を見る。年齢も随分若返っている。まるで別人だ。だが、試しに木の枝に跳びつくと、身体の反応は鋭い。筋力や持久力は落ちているが、殺し屋としての訓練がこの身体にも刻まれている。

「ユリアーナの趣味か?」

 俺は呟き、ため息をつく。性別が変わったのは気にならない。身体は道具だ。使えるなら問題ない。
 
「ステータスオープン!」

 叫んでみると、青っぽい半透明のウインドウが目の前にあらわれた。

レベル:1

力:1
素早さ:1
器用さ:1
体力:1
知力:1
精神:1
幸運:1

HP:10
MP:10
SP:10

スキル
なし

余ってるポイント:0

 レベル1か。レベル1は制約になりそうで、以前の俺より不利な条件だ。

 ――少しレベルを上げながら行くか……
 
 ポケットを探ると、小さな光の渦が現れる。ユリアーナが言った『リンクゲート』だ。手を突っ込むと、冷たい空気が指先に触れ、確かに向こう側に空間が広がっている。意識を集中すると、ゼモルディアの武器庫部屋のイメージが浮かぶ。
 
 ふと手に何かが当たる。電話機ぐらいしかないと思われたが、そこには殺されたときの俺の装備――H&K P252やナイフが並んでいた。
 
 試しにP252を引き抜こうとするが、穴が小さすぎて銃身が引っかかる。仕方なく、コンパクトなナイフを手に取る。刃渡り15cm、ゼモルディア製の特注品。裏社会では「影の爪」と呼ばれる一品だ。

「レベル1じゃこれが限界か」

 ナイフを腰に差しながら呟く。穴を閉じると、ポケットに小さな光の粒が残る。これが武器庫への鍵らしい。

 周囲を見渡す。森の小道は交易都市ベルフォードとルナリア村を結ぶ道だ。遠くに石畳の道が見える。まずはベルフォードで情報と装備を整え、チート転生者の動向を掴む。それが殺し屋の基本だ。
 


 そして今、俺は田中悠斗、高柳葵とともにベルフォードへの小道を歩いていた。予定通り、罠を仕掛け近づくことが出来た。2人とも本当の俺を知らない。殺す機会はいくらでもあるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸
ファンタジー
天上魔界「イイルクオン」 世界は大きく分けて二つの勢力が存在する。 ”人類”と”魔族” 生存圏を争って日夜争いを続けている。 しかしそんな中、戦争に背を向け、ただひたすらに宝を追い求める男がいた。 トレジャーハンターその名はラルフ。 夢とロマンを求め、日夜、洞窟や遺跡に潜る。 そこで出会った未知との遭遇はラルフの人生の大きな転換期となり世界が動く 欺瞞、裏切り、秩序の崩壊、 世界の均衡が崩れた時、終焉を迎える。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」 「え?」 「は?」 「いせかい……?」 異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。 ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。 そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!? 異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。 時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。 目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』 半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。 そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。 信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。 少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。 ==== ※お気に入り、感想がありましたら励みになります ※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。 ※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります ※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...