《完結》幼馴染の女上司と異世界召喚された僕ですが、勇者じゃなく“標的”でした ~殺し屋に命を狙われるとか聞いてない~

月輝晃

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第一章 田中悠斗

うまくいった

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「本当!? ありがとう、クロウ・ヴァインツ! あなたなら、きっとエルトリアを救える!」

 足元には白い大理石の床が広がり、遠くには金色の柱が立ち並ぶ神殿のような場所だった。

 俺の前には、月光のように輝く長い銀色の髪と白いワンピースをまとった、双子神の一人とされる少女が立っていた。16か17歳ほどに見える彼女の名前は、ユリアーナというらしい。

「……その前に……」

 俺はユリアーナの輝く青い瞳を見つめ、言葉を慎重に選んだ。神々の間に漂う花の香りと柔らかな光が、俺の心を奇妙に落ち着かせる。だが、殺し屋としての勘は、こんな場面でも油断を許さない。任務に飛び込む前に、情報はすべて揃えておく。

「いくつか質問がある」

 ユリアーナの唇に、わずかな笑みが浮かぶ。まるで俺の直球な質問を予期していたかのようだ。

「さすがです。準備を怠らないのですね。どんな質問ですか?」

 柔らかなその声には、どこか抗いがたい威厳が宿っていた。光の粒子が彼女の周囲を舞い、まるで星屑が神々の間を漂うような幻想的な光景を描き出す。

 俺は一つ息を整え、静かに口を開いた。

 「まず、武器の調達方法だ。チート転生者と戦うなら、それ相応の装備が必要になる。次に協力者。この『エルトリア』という世界に、俺の味方となる存在はいるのか? そして、トラブルが発生した時や依頼を果たした後、お前とどう連絡を取るか。最後に、ターゲット──チート転生者の特徴。これらを全て、詳しく教えてくれ」

 ユリアーナの目が一瞬細まり、俺の質問を吟味するように微笑む。彼女は指を軽く鳴らし、光の粒子が集まってホログラムのような映像を映し出す。森、街、武器、そして見知らぬ人物の姿が浮かぶ。
 
「武器について。『エルトリア』には地球のような武器はないけど、あなたには特別な手段を用意したわ」

 彼女は右手を上げ、掌に小さな光の渦を出現させる。
 
 「これは『接界孔《リンク・ゲート》』。地球のある部屋に繋がっています。小さな部屋ですが、そこにあるものを取り出すことが出来ます。そして穴の大きさや部屋の大きさはあなたのレベルに比例する。今はレベル1だから、小さな拳銃やナイフ程度しか取り出せない。レベルが上がれば、穴も武器庫も大きくなり、もっと強力な武器も使えるようになるわ」
 
「リンク・ゲート?」

 俺は眉をひそめる。ユリアーナが差し出した光の渦は、掌サイズの小さな円だ。試しに手を伸ばすと、冷たい空気が指先に触れ、向こう側に空間が広がっている感覚がある。覗いてみると、確かに暗い小部屋が見えた。
 
「地球の武器庫に繋がってるなら、俺の装備はすべて使えるってことか?」

「その通り。あなたなら、その使い方をすぐに理解するでしょう」

「だが、武器はどうする?先ほど見た感じだと部屋は空のようだが」

「あなたなら、その部屋に希望の物を運んでくれる人がいるのでは?」

 もう一度リンクゲートを覗く。常人なら見えないほどの暗い部屋の、手の届く範囲に使い古された電話機があった。
 
 ――連絡が取れるのなら……

 1人の小太りの男の顔が浮かぶ。わずかなヒントから、この地球上のどこかもわからない小部屋を探し出し、荷物を届けてくれる者。あの男しかいないだろう。
 
「分かった。次は『エルトリア』での協力者だ。」

 ユリアーナの表情が一瞬曇る。
 
 「協力者はいません。エルトリアでは、あなたは一人の旅人として現れます。仲間は自分で探し、信頼も自分で築く必要がある。情報屋、傭兵、商人――この世界には利用できる人間がたくさんいるけど、裏切りも日常茶飯事。あなたなら、そのくらいは想定済みですよね?」

「当然だ」

 俺は冷たく返す。

「連絡方法について」

 ユリアーナは指を軽く振り、光の渦が消える。
 
「私はいつもあなたを見ています。依頼が完了すれば、自動的に私が感知します。そしてトラブル……あなた1人で解決するしかない。介入は出来ないのです」

「いつも見てる、か。監視されてる気分だな」

 俺は皮肉を込めて言うが、ユリアーナは笑みを崩さない。

「最後に、チート転生者の特徴ですが……」

 彼女の声がわずかに硬くなる。
 
「彼らはイリアールから与えられた異常な能力を持っています。無尽蔵の魔力、超人的な身体能力、未来予知、即時回復――能力は人によって異なるけど、共通するのは『常識を超えた力』です。この世界では目立つ存在となります。ターゲットは自分で特定してください。目立つ存在なら簡単だけど、隠れているものもいるかもしれない」

「自分で探せ、か。面倒だが、やり方は分かってる」

 俺は頷く。標的の特定は殺し屋の基本だ。いつも、情報収集から始める。

「そうだ、もう一つ。チート転生者って奴は全部で何人いるんだ?」



 目を開けると、鬱蒼とした森の小道に立っていた。湿った空気が肌にまとわりつき、遠くで鳥のさえずりが響く。ゼモルディアの砂と硝煙の匂いはなく、代わりに土と緑の香りが肺を満たす。ユリアーナの言った通り、俺はエルトリアに降り立ったらしい。

 まず、身体を確認する。――異変に気付く。服装の違いもそうだが、胸に膨らみがある。手を当てると、柔らかい感触。――女?

 近くの小川に映る自分の姿を見る。年齢も随分若返っている。まるで別人だ。だが、試しに木の枝に跳びつくと、身体の反応は鋭い。筋力や持久力は落ちているが、殺し屋としての訓練がこの身体にも刻まれている。

「ユリアーナの趣味か?」

 俺は呟き、ため息をつく。性別が変わったのは気にならない。身体は道具だ。使えるなら問題ない。
 
「ステータスオープン!」

 叫んでみると、青っぽい半透明のウインドウが目の前にあらわれた。

レベル:1

力:1
素早さ:1
器用さ:1
体力:1
知力:1
精神:1
幸運:1

HP:10
MP:10
SP:10

スキル
なし

余ってるポイント:0

 レベル1か。レベル1は制約になりそうで、以前の俺より不利な条件だ。

 ――少しレベルを上げながら行くか……
 
 ポケットを探ると、小さな光の渦が現れる。ユリアーナが言った『リンクゲート』だ。手を突っ込むと、冷たい空気が指先に触れ、確かに向こう側に空間が広がっている。意識を集中すると、ゼモルディアの武器庫部屋のイメージが浮かぶ。
 
 ふと手に何かが当たる。電話機ぐらいしかないと思われたが、そこには殺されたときの俺の装備――H&K P252やナイフが並んでいた。
 
 試しにP252を引き抜こうとするが、穴が小さすぎて銃身が引っかかる。仕方なく、コンパクトなナイフを手に取る。刃渡り15cm、ゼモルディア製の特注品。裏社会では「影の爪」と呼ばれる一品だ。

「レベル1じゃこれが限界か」

 ナイフを腰に差しながら呟く。穴を閉じると、ポケットに小さな光の粒が残る。これが武器庫への鍵らしい。

 周囲を見渡す。森の小道は交易都市ベルフォードとルナリア村を結ぶ道だ。遠くに石畳の道が見える。まずはベルフォードで情報と装備を整え、チート転生者の動向を掴む。それが殺し屋の基本だ。
 


 そして今、俺は田中悠斗、高柳葵とともにベルフォードへの小道を歩いていた。予定通り、罠を仕掛け近づくことが出来た。2人とも本当の俺を知らない。殺す機会はいくらでもあるだろう。
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