《完結》幼馴染の女上司と異世界召喚された僕ですが、勇者じゃなく“標的”でした ~殺し屋に命を狙われるとか聞いてない~

月輝晃

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第一章 田中悠斗

帰り道

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 ベルフォードへの帰路、僕らは疲れ果てながらも、高揚感に包まれていた。ワイバーンを倒した達成感と、仲間たちの笑顔が、葵の不在による心の隙間を少しだけ埋めてくれる。
  
 夕暮れの山道は、戦いの熱を洗い流すように涼しい風が吹き抜ける。
 遠くの地平線では太陽が沈みかけ、赤と橙のグラデーションが空を染めていた。
 
 あの地獄のような火山洞窟が嘘みたいだ。
 硫黄の匂いももう薄れ、空気がどこか甘く感じる。
 肩に担いだ袋の中では、ドラゴンの鱗が金属のようにカチャカチャと鳴っていた。
 重い。でも、心地いい重さだ。

「ユート、今回の冒険も最高だったニャ!」  

 ウミャウが僕の左手を握りながら、尻尾をピョンピョン揺らして歩く。
 全然疲れてない……いつもの猫らしい軽快な動きに、この子の体力ゲージどうなってるんだと疑問が湧く。

「ヒョウ! サーラも楽しかったヒョウ! 次はもっと強いの倒すヒョウ!」

 サーラが後ろから僕の背中にスリスリしながら言う。
 ……いや、ほんと、いつからそんなキャラになったんだよ。
 森でのウミャウとの遊びが、彼女の野生(?)を呼び覚ましたとしか思えない。
 前はもっとクールなツン豹だったのに、今じゃ完全に陽キャ豹だ。

「ドラゴンの鱗と爪と心臓……いくらになるでしょう? うふふふふ」

 エリルが魔獣図鑑をしまいながら、上機嫌に笑っている。
 自分の腕を僕の右手に絡ませながら、柔らかい胸を僕の腕に押し付けてくる。いや、困るうう。それ反則。
「エ、エリル、前見て歩こう! 危ないって!」
「わかります? 当ててますよ……うふふふふ」
 酔ってるの? ねえ、酔ってるの??

「ふふ、悠斗の活躍、部下たちに見せたかったな……でも、私だけの悠斗でいいよね……ボソッ」
 セレナが鎧の肩を僕に押しつけながら囁く。鎧、硬いって! 顔に当たると痛いんだから! 

「グスッ……悠斗さん、わたしも、もっと活躍したかった……」  

 リネットが後ろでぽつりと呟いた。
 杖を抱え、肩を落としてトボトボ歩く姿がいじらしい。
 彼女のMPが尽きたせいで後半は少し出番が減ったけど――
 熱風防御と回復魔法がなかったら、全滅してたかもしれない。
 僕は振り返って、笑いながら声をかけた。

「リネット、あれだけの魔法を使ってくれたんだ。助かったよ。本当にありがとうな」

 リネットの顔がパッと明るくなり、涙で潤んだ瞳がキラキラと輝いた。
 「悠斗さん……! うぅ、嬉しいですっ!」
 
 そのまま抱きついてこようとするから、慌てて手を振って制止する。
「ま、待ってリネット! 歩きづらいから! 本気で!」
「えー……グスッ……」

 ウミャウがその様子を見てニヤニヤ笑う。
「ヒョウ! 次は誰がユートに抱きつくヒョウ?」
「順番待ちやめろー!!」

 皆の笑い声が夕暮れの山に響き渡る。

「それにしても、みんな、ほんとよくやったよ。」  

 燃えるような夕日が山の稜線を包み、金色の光が仲間たちの髪を照らした。
 戦いの熱とは違う、心の温かさが胸に広がる。

 その光の中で――ふと、葵の背中を思い出す。
 いつも冷静で、僕より前を歩いていたあの姿。
 彼女がいなくなっても、こうして歩き続けられているのは、きっと仲間たちがいるからだ。
 
 ……葵、どうだ? 僕はやったぞ!

 心の中で小さく呟いた。
 誰にも聞こえないように。
 風が優しく頬を撫で、遠くで鳥の声が響いた。
 その音がまるで、葵の返事のように思えた。

 ――ベルフォードまで、もう少しだ。
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