54 / 61
第一章 田中悠斗
崩壊
しおりを挟む
「ふふ、さすが悠斗はん、ただ者やないな!」
彼女の口元が愉快そうに歪む。
手のひらの小さな傷が、じんじんと疼いた。
ほんのかすり傷――なのに、妙に熱い。
毒、か……?
いや、システムウィンドウには何も出ていない。
状態異常の警告も、デバフ表示もない。
しかし妙な感覚がある。
それなのに、少し――身体が重い。
指先が鈍く、視界の端が滲む。
まるで、空気が急に濃くなったような感覚。
「ふふ、やるやん。ほいたら次は……どないや?」
彼女が刀を上段に構える。
月光が刃を撫で、銀の光が闇を裂いた。
――再び、振り下ろす。
僕はまた、ゆっくりそれを躱し……いや、彼女の動きが前より速い!
目で追えるギリギリの速さで、刃が閃く。
ザシュッ!!
避けきれず、肩に熱が走った。
左肩の布が裂け、温かい血が滲む。
振り返るより早く、彼女は体を回転させ、横薙ぎにもう一撃。
ザシュッ!!
……速い! さらに速い!!
――なんでだ!?
さっきまでより、明らかに速い。
動きがどんどん早くなっている!!
動体視力が追いつかない。いや、僕の方が鈍くなっているのか……!?
完全躱せずに腹をかすめる。
腹に衝撃。
切っ先が浅く通り、皮膚を割く。
鉄の匂いとともに、息が詰まった。
腹の皮を少し切られ、思わず膝をつく。
「ぐっ……くそっ……!」
――何が起こった?彼女の動きがどんどん早くなってる。
――剣も重い。こんなに重かったか?
――もう刀の動きが見えない!ヤバイヤバイ!
剣を支えに、呼吸を整える。
体が重い。腕が鉛みたいだ。
まるで、何かに力を吸われているような……。
膝をついた僕の目前で、少女がすっと踏み込む。
次の瞬間――
ザクッ。
立てていた方の膝に、刀が深々と突き立った。
金属が骨に当たる嫌な感触。血が噴き出す。
「ぐああああっ!!」
叫び声が勝手に漏れた。
視界が白く弾け、痛みで呼吸が詰まる。
刀を握ったまま、彼女はゆっくりと顔を上げ、冷ややかに言う。
「……もう勝負はついたのう」
その声には一切の感情がなかった。
淡々としているのに、妙に耳に残る。
彼女は刀を引き抜く。
血が飛び散り、地面を赤く染めた。
体の奥が熱い。
それなのに、手足が冷たく、感覚が遠のいていく。
――くそっ、こんなところで……!
「スキル発動、『2倍』……!」
意識を集中し、いつものように力を込める。
けれど――
……何も起きない。
「なっ……なんで……?」
スキルを使う意思を込めるが、何も起きない。
青白い光のエフェクトも現れない。
まるで、世界そのものが一瞬、僕の存在を無視したみたいだ。
「ふふ……どうしたが?」
彼女の声が近づく。
刀の切っ先が、月光を受けてわずかに光った。
「な、なんで急に速く……。手を抜いてたのか、それとも……」
頭の奥がガンガンする。
スキルも発動しない。体が重い。
視界の端が滲む。
――まさか。
――レベル偽装? 実際はレベル30くらいあるとか……?
「レベル……偽装?」
自分の声がかすれる。
レベル3のはず。
でも今の動きは、どう見ても……僕以上の……。
――でも、でも、こっちのスキルも発動しないし。
なのに、だ。
【鑑定】!
心の中で唱える。
――無反応。
……発動しない。
まるでこの世界のルールの外にいるみたいだ。
――状態異常? ステータスウィンドウを……!
――出ない。いや、出てるけどぼんやりとしか……ノイズも走ってる。
数字が滲んでいる。まるで世界そのものが乱れているみたいだ。
「な、なんだ……これ……?」
僕が呻くと、彼女は最初きょとんとした表情をしたが、すぐに薄く笑った。
「早うなったんやのうて、あんたが“元に戻った”だけや」
「……元に?」
「この世界に来た時にもろうた“加護”が、消えたんじゃ」
「消えた……?」
「そうよ。わしらの刀で傷ついた者は、神の加護も、チートな能力も、みんな消えてしもう。これが“双子神ユリアーナ”から授かった力や」
双子神――ユリアーナ。
……聞いた名前だ。イリアールの“もう片方の神”――この世界を創ったとされる、もう一柱。
「今のあんたが、本来の姿っちゅうわけじゃ」
ゾクリと背筋が冷える。
体は重く、痛みは強く、血は止まらない。
スキルは動かず、ステータスは崩壊している。
「な、なんで……双子神の力を持った人が、僕を……? 僕は双子神イリアールから依頼を受けたんだぞ!」
「ふん……おまんら“チート転生者”が好き勝手暴れだしたら、この世界、壊れてしまうらしいで」
「好き勝手って……そんなつもりじゃ……」
「そう言うんは、皆おんなじや」
彼女の声は、冷たく、それでいて哀しげでもあった。
その瞳は、敵意だけでなく、どこか諦めを含んでいるように見える。
「ふふ……悠斗はん、驚いた顔がええな」
彼女はゆっくりと刀を振り、血を払う。
膝から流れる血が石畳に線を描き、夜風がそれを乾かしていく。
ズキズキとした痛みが全身を駆け巡る。身体が重い……さっきの含み針の傷から、痛みとともに体の奥から何かが抜けていく――力、なのか、それとも魂なのか。
彼女が刀を鞘に収めると、軽やかな笑い声を上げる。
月光の下、着物の裾がふわりと舞う。
「さて、真剣勝負やったのう――」
彼女はそう言うと、鞘に納めたまま刀の柄に手をかけ、居合の構えを取った。その姿は静かな嵐のようで、周囲の空気がザワリと引き締まる。
「そうそう、名乗っちょらんかったのう。わしぁ、岡田以蔵っちゅうがぜよ」
岡田以蔵? 昔の人の名前で聞いたことがあるような……でも今は、そんなことを考えている余裕はない。
名前が低く落ちる。土佐の訛りが、月夜の酒場に不思議な重みを落とす。刃が目に見えぬ緊張を現場に刻みつける。
――首を、斬るつもりだ。
意識の奥で血の鼓動が速くなる。刃先が喉に触れる光景が、一瞬のうちに幾度も再生される。呼吸が詰まり、世界が音を失ったように思えた。
「安心せぇ。わしら殺し屋の手にかかれば、元の世界に生まれ変わるっちゅうことらしいき」
言葉は淡々と、しかし冷たく胸を刺す。まるで帳尻合わせの取引のように、人の命を転がす語り口だ。言葉の影に、底知れぬ覚悟と軽薄さが同居している。
――じゃあ死んで、元の世界に戻るのか。
――またブラック会社の派遣社員に戻るのか。
――あるいは、平凡以下の繰り返しをやり直すのか。
思考はぞっとして、選択肢のどれもが暗く沈む。刀の重みが、未来の重さになる。月明かりの中、以蔵の瞳だけが静かに笑っていた。
心臓がドクンと鳴った。
恐怖でも絶望でもない、ただの“現実感”。
僕は、ようやく理解した。
――ああ、チートも、加護も、全部。
“借りもの”だったんだ。
「いやだ……」
いやだ
「いやだ……」
いやだ
いやだ、いやだ
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
いやだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「助けて!!」
「セレナ! サーラ! エリル! ウミャウ! リネット! このままじゃ殺される、誰か――助けて!!」
夜空に叫びが吸い込まれる。
だが返事はない。
「おなごに助けを求めるとは、情けない男じゃのう」
以蔵の声が、まるで冷えた刃そのもののように響く。
「助けて! 誰かっ!」
誰も――動かない。
視線だけが、宙をさまよっている。
「セレナ!」
彼女はそこにいる。だが、焦点の合わない目でこちらを見つめ、口を開いた。
「あ……あ……」
「セレナ! 早く助けて!」
「いや……わたしは……」
「セレナ!」
「……できない……王国騎士団の団長ともあろうものが、民間の争いに介入など……」
――え?
――何言ってんの……?
(『悠斗、君はリーダーとして十分だ』『……でも、私だけの悠斗でいいよね』『ねえ、悠斗。今夜この後、二人で祝勝会……しないか?』)
脳裏で、さっきまでの笑顔がぐしゃりと崩れていく。
「エリル!」
「……あ……わたしは何でここに……? ルナリアのギルドを放っておいて……討伐報告は郵送で良かったのに……」
(『悠斗さんのためなら……』『悠斗さん、すごい!』『さすが悠斗さん!』)
「サーラ!」
「……」
(『ユートと一緒なら大丈夫ヒョウよ!』『ユート、ひょうすき!』)
「ウミャウ!」
「……」
(『ユート、だいすき!』『ミャウ、ユートと冒険楽しいニャ!』)
「リネット!」
「……」
(『悠斗さん、信じてます……』『わたしも、もっと活躍したかった……』)
誰も動かない。
誰も僕を見ていない。
目の前の景色が歪む。鼓動の音だけが異様に大きく響く。
「おなごがおまんに寄せる好意も、双子神イリアールの加護の仕業じゃ」
以蔵の声が、静かに刺す。
「元のあんた、そんなにもてたか? 周りが好意的やったか? そんなはずはないわな」
彼女の眼差しは、突き放すようでいて、どこか悲しげだった。
「今のあんたが――本当のあんたや」
「あ……あ……」
言葉が出ない。心臓が締め付けられる。あの温かかった仲間たちの笑い声が、遠ざかっていく。
「もうええやろ。これは天誅じゃ」
その名が月夜に落ちた瞬間、世界の色がひとつ抜け落ちたように静まった。
「ほいたらな」
鞘から刃が抜ける音が、すべての終わりを告げる鐘の音のように響く。
以蔵の刀が月光を受け、鋭い弧を描く――。
――その時。
パァァァァンッ!!
一発の銃声が夜を裂いた。
閃光。硝煙の匂い。以蔵の足元に火花が散り、砂煙が舞い上がる。
以蔵が咄嗟に後方へ跳び、刀を引く。
「……ほう、先約がおったんかいのう」
僕が叫ぶ。
そこに――銃を構えて立っていたのは、風に髪をなびかせながら、鋭くこちらを見据える女性。
「……サーラ!?」
月光に照らされたその横顔は、さっきまでのぼんやりした表情ではない。
覚醒した獣のような、凛とした目をしていた。
彼女の口元が愉快そうに歪む。
手のひらの小さな傷が、じんじんと疼いた。
ほんのかすり傷――なのに、妙に熱い。
毒、か……?
いや、システムウィンドウには何も出ていない。
状態異常の警告も、デバフ表示もない。
しかし妙な感覚がある。
それなのに、少し――身体が重い。
指先が鈍く、視界の端が滲む。
まるで、空気が急に濃くなったような感覚。
「ふふ、やるやん。ほいたら次は……どないや?」
彼女が刀を上段に構える。
月光が刃を撫で、銀の光が闇を裂いた。
――再び、振り下ろす。
僕はまた、ゆっくりそれを躱し……いや、彼女の動きが前より速い!
目で追えるギリギリの速さで、刃が閃く。
ザシュッ!!
避けきれず、肩に熱が走った。
左肩の布が裂け、温かい血が滲む。
振り返るより早く、彼女は体を回転させ、横薙ぎにもう一撃。
ザシュッ!!
……速い! さらに速い!!
――なんでだ!?
さっきまでより、明らかに速い。
動きがどんどん早くなっている!!
動体視力が追いつかない。いや、僕の方が鈍くなっているのか……!?
完全躱せずに腹をかすめる。
腹に衝撃。
切っ先が浅く通り、皮膚を割く。
鉄の匂いとともに、息が詰まった。
腹の皮を少し切られ、思わず膝をつく。
「ぐっ……くそっ……!」
――何が起こった?彼女の動きがどんどん早くなってる。
――剣も重い。こんなに重かったか?
――もう刀の動きが見えない!ヤバイヤバイ!
剣を支えに、呼吸を整える。
体が重い。腕が鉛みたいだ。
まるで、何かに力を吸われているような……。
膝をついた僕の目前で、少女がすっと踏み込む。
次の瞬間――
ザクッ。
立てていた方の膝に、刀が深々と突き立った。
金属が骨に当たる嫌な感触。血が噴き出す。
「ぐああああっ!!」
叫び声が勝手に漏れた。
視界が白く弾け、痛みで呼吸が詰まる。
刀を握ったまま、彼女はゆっくりと顔を上げ、冷ややかに言う。
「……もう勝負はついたのう」
その声には一切の感情がなかった。
淡々としているのに、妙に耳に残る。
彼女は刀を引き抜く。
血が飛び散り、地面を赤く染めた。
体の奥が熱い。
それなのに、手足が冷たく、感覚が遠のいていく。
――くそっ、こんなところで……!
「スキル発動、『2倍』……!」
意識を集中し、いつものように力を込める。
けれど――
……何も起きない。
「なっ……なんで……?」
スキルを使う意思を込めるが、何も起きない。
青白い光のエフェクトも現れない。
まるで、世界そのものが一瞬、僕の存在を無視したみたいだ。
「ふふ……どうしたが?」
彼女の声が近づく。
刀の切っ先が、月光を受けてわずかに光った。
「な、なんで急に速く……。手を抜いてたのか、それとも……」
頭の奥がガンガンする。
スキルも発動しない。体が重い。
視界の端が滲む。
――まさか。
――レベル偽装? 実際はレベル30くらいあるとか……?
「レベル……偽装?」
自分の声がかすれる。
レベル3のはず。
でも今の動きは、どう見ても……僕以上の……。
――でも、でも、こっちのスキルも発動しないし。
なのに、だ。
【鑑定】!
心の中で唱える。
――無反応。
……発動しない。
まるでこの世界のルールの外にいるみたいだ。
――状態異常? ステータスウィンドウを……!
――出ない。いや、出てるけどぼんやりとしか……ノイズも走ってる。
数字が滲んでいる。まるで世界そのものが乱れているみたいだ。
「な、なんだ……これ……?」
僕が呻くと、彼女は最初きょとんとした表情をしたが、すぐに薄く笑った。
「早うなったんやのうて、あんたが“元に戻った”だけや」
「……元に?」
「この世界に来た時にもろうた“加護”が、消えたんじゃ」
「消えた……?」
「そうよ。わしらの刀で傷ついた者は、神の加護も、チートな能力も、みんな消えてしもう。これが“双子神ユリアーナ”から授かった力や」
双子神――ユリアーナ。
……聞いた名前だ。イリアールの“もう片方の神”――この世界を創ったとされる、もう一柱。
「今のあんたが、本来の姿っちゅうわけじゃ」
ゾクリと背筋が冷える。
体は重く、痛みは強く、血は止まらない。
スキルは動かず、ステータスは崩壊している。
「な、なんで……双子神の力を持った人が、僕を……? 僕は双子神イリアールから依頼を受けたんだぞ!」
「ふん……おまんら“チート転生者”が好き勝手暴れだしたら、この世界、壊れてしまうらしいで」
「好き勝手って……そんなつもりじゃ……」
「そう言うんは、皆おんなじや」
彼女の声は、冷たく、それでいて哀しげでもあった。
その瞳は、敵意だけでなく、どこか諦めを含んでいるように見える。
「ふふ……悠斗はん、驚いた顔がええな」
彼女はゆっくりと刀を振り、血を払う。
膝から流れる血が石畳に線を描き、夜風がそれを乾かしていく。
ズキズキとした痛みが全身を駆け巡る。身体が重い……さっきの含み針の傷から、痛みとともに体の奥から何かが抜けていく――力、なのか、それとも魂なのか。
彼女が刀を鞘に収めると、軽やかな笑い声を上げる。
月光の下、着物の裾がふわりと舞う。
「さて、真剣勝負やったのう――」
彼女はそう言うと、鞘に納めたまま刀の柄に手をかけ、居合の構えを取った。その姿は静かな嵐のようで、周囲の空気がザワリと引き締まる。
「そうそう、名乗っちょらんかったのう。わしぁ、岡田以蔵っちゅうがぜよ」
岡田以蔵? 昔の人の名前で聞いたことがあるような……でも今は、そんなことを考えている余裕はない。
名前が低く落ちる。土佐の訛りが、月夜の酒場に不思議な重みを落とす。刃が目に見えぬ緊張を現場に刻みつける。
――首を、斬るつもりだ。
意識の奥で血の鼓動が速くなる。刃先が喉に触れる光景が、一瞬のうちに幾度も再生される。呼吸が詰まり、世界が音を失ったように思えた。
「安心せぇ。わしら殺し屋の手にかかれば、元の世界に生まれ変わるっちゅうことらしいき」
言葉は淡々と、しかし冷たく胸を刺す。まるで帳尻合わせの取引のように、人の命を転がす語り口だ。言葉の影に、底知れぬ覚悟と軽薄さが同居している。
――じゃあ死んで、元の世界に戻るのか。
――またブラック会社の派遣社員に戻るのか。
――あるいは、平凡以下の繰り返しをやり直すのか。
思考はぞっとして、選択肢のどれもが暗く沈む。刀の重みが、未来の重さになる。月明かりの中、以蔵の瞳だけが静かに笑っていた。
心臓がドクンと鳴った。
恐怖でも絶望でもない、ただの“現実感”。
僕は、ようやく理解した。
――ああ、チートも、加護も、全部。
“借りもの”だったんだ。
「いやだ……」
いやだ
「いやだ……」
いやだ
いやだ、いやだ
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ
いやだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「助けて!!」
「セレナ! サーラ! エリル! ウミャウ! リネット! このままじゃ殺される、誰か――助けて!!」
夜空に叫びが吸い込まれる。
だが返事はない。
「おなごに助けを求めるとは、情けない男じゃのう」
以蔵の声が、まるで冷えた刃そのもののように響く。
「助けて! 誰かっ!」
誰も――動かない。
視線だけが、宙をさまよっている。
「セレナ!」
彼女はそこにいる。だが、焦点の合わない目でこちらを見つめ、口を開いた。
「あ……あ……」
「セレナ! 早く助けて!」
「いや……わたしは……」
「セレナ!」
「……できない……王国騎士団の団長ともあろうものが、民間の争いに介入など……」
――え?
――何言ってんの……?
(『悠斗、君はリーダーとして十分だ』『……でも、私だけの悠斗でいいよね』『ねえ、悠斗。今夜この後、二人で祝勝会……しないか?』)
脳裏で、さっきまでの笑顔がぐしゃりと崩れていく。
「エリル!」
「……あ……わたしは何でここに……? ルナリアのギルドを放っておいて……討伐報告は郵送で良かったのに……」
(『悠斗さんのためなら……』『悠斗さん、すごい!』『さすが悠斗さん!』)
「サーラ!」
「……」
(『ユートと一緒なら大丈夫ヒョウよ!』『ユート、ひょうすき!』)
「ウミャウ!」
「……」
(『ユート、だいすき!』『ミャウ、ユートと冒険楽しいニャ!』)
「リネット!」
「……」
(『悠斗さん、信じてます……』『わたしも、もっと活躍したかった……』)
誰も動かない。
誰も僕を見ていない。
目の前の景色が歪む。鼓動の音だけが異様に大きく響く。
「おなごがおまんに寄せる好意も、双子神イリアールの加護の仕業じゃ」
以蔵の声が、静かに刺す。
「元のあんた、そんなにもてたか? 周りが好意的やったか? そんなはずはないわな」
彼女の眼差しは、突き放すようでいて、どこか悲しげだった。
「今のあんたが――本当のあんたや」
「あ……あ……」
言葉が出ない。心臓が締め付けられる。あの温かかった仲間たちの笑い声が、遠ざかっていく。
「もうええやろ。これは天誅じゃ」
その名が月夜に落ちた瞬間、世界の色がひとつ抜け落ちたように静まった。
「ほいたらな」
鞘から刃が抜ける音が、すべての終わりを告げる鐘の音のように響く。
以蔵の刀が月光を受け、鋭い弧を描く――。
――その時。
パァァァァンッ!!
一発の銃声が夜を裂いた。
閃光。硝煙の匂い。以蔵の足元に火花が散り、砂煙が舞い上がる。
以蔵が咄嗟に後方へ跳び、刀を引く。
「……ほう、先約がおったんかいのう」
僕が叫ぶ。
そこに――銃を構えて立っていたのは、風に髪をなびかせながら、鋭くこちらを見据える女性。
「……サーラ!?」
月光に照らされたその横顔は、さっきまでのぼんやりした表情ではない。
覚醒した獣のような、凛とした目をしていた。
3
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる