56 / 61
第一章 田中悠斗
影の爪②
しおりを挟む
情報屋との路地裏での接触から3日が経った。俺――クロウ・ヴァインツ、いや、今はサーラという名の獣人として、ベルフォードの街に溶け込んでいた。
銀色の髪と鋭い黄色の瞳を持つ豹の姿に、馴染んできた。身体の敏捷性や鋭い感覚は使える――ただ、匂いや音の情報量が多すぎて、慣れるのにまだ時間がかかりそうだった。この3日間、目立たぬよう街の流れに身を任せ、細かい情報を集めてきた。
市場の喧噪、商人たちの掛け声、路地裏での囁き――ベルフォードは表も裏も生き生きと動いている。昼は露店で薬草や食料を買い、夜は酒場や路地で噂を聞き集めた。チート転生者の痕跡を追うためだ。ユリアーナの言葉では、彼らは「目立つ存在」だという。なら、異常な力や行動で噂になるはず。だが、3日経っても具体的な手がかりは薄い。情報屋が約束した「会いに行く」時刻が近づいている今、俺は再び市場の裏路地に足を踏み入れる。
*
夕暮れ時、路地の空気は湿気を帯び、魚の干物と腐った果物の匂いが混じる。フードを深く被り、豹の特徴を隠して歩く。情報屋の男は、同じボロボロのマントを羽織り、路地の奥で待っていた。俺の足音を聞きつけ、ギラつく目がこちらを向く。
「お前、時間通りだな」
男の声は低く、警戒が滲む。
「情報だ。噂の“変わった奴”について、だろ?」
俺は無言で頷き、銀貨をもう一枚渡す。男はそれを素早く懐にしまい、声を潜める。
「しばらく前に、ルナリア村で髪の色が黒い東邦人らしき男女の二人組が冒険者登録したらしい。二人は」
「名前は? 見た目は?」
俺は短く問う。
「名前は? 見た目は?」
「二人とも変わった名前で、登録情報によると男の方はタナカユート、女の方はタカヤナギアオイ。東邦人は年齢より幼く見えるが、歳は15歳前後らしい。今はルナリア周辺の森でモンスター狩りをしている。だが、近づくなら気をつけろ。あの辺、密猟者も出るし、普通の旅人じゃ死ぬぞ」
……普通の旅人ねえ……
この世界の東邦人に見える人間というと、アジア系の人間か。中国人、韓国人、日本人か……だが名前からすると日本人の可能性が高い。一般的な日本人の良識を考える。
ある作戦が浮かんだ。
「密猟者のボスは誰だ」
「あそこの密猟はザルドって獣人がやってる。だが実際に動いてるのはダルトンって髭面の男だ」
「どこにいる?」
俺は鋭く問い詰める。情報屋の男は一瞬怯んだように目をそらし、路地の奥をチラリと見る。まるで誰かに見られていないか確認するかのようだ。
「ダルトンなら、ルナリア村近くの森の北西、川沿いの隠れ家にいる。廃墟みたいな小屋だ。ザルドはそこには滅多に来ねえ。ダルトンが実質仕切ってる。だが、そいつら、傭兵崩れの荒くれ者揃いだ。単独で突っ込むのは無謀だぞ、獣人娘」
男の言葉に、俺はフードの下で小さく笑う。獣人娘、か。俺をそんな風に見るなんて、こいつ、なかなか面白い。だが、情報は揃った。タナカ・ユートとタカヤナギ・アオイ――チート転生者の可能性が高い二人組。そして、密猟者のダルトン。こいつらを利用すれば、ターゲットに近づく足がかりになるかもしれない。
「感謝する」
俺は銀貨をもう一枚弾き、男の懐に放る。男はニヤリと笑い、路地の闇に消えた。
*
夜、ベルフォードの宿屋の狭い部屋に戻り、リンク・ゲートを開く。レベル4のままでは心許ないが、3日間の情報収集で街の構造や噂の流れは掴めた。光の渦はわずかに大きくなり、ナイフの予備をもう一本――「影の爪」の姉妹品、刃渡り12cmの軽量ナイフ――を引き出す。ブーツに仕込み、腰の「影の爪」と合わせて二刀の準備。拳銃はまだ穴が小さすぎて取り出せない。レベルを上げなきゃな。
情報屋の話では、ユートとアオイはルナリア周辺でモンスター狩り。密猟者のダルトンも同じエリアに潜む。ならば、密猟者を餌に二人をおびき出すか。
*
翌朝、ベルフォードの北門を出てルナリア村へ向かう。森の獣道を進み、情報屋の地図を頼りにダルトンの隠れ家を目指す。道中、ホーンラビットを数匹仕留め、レベル5に到達する。
リンク・ゲートを試すと、穴がわずかに広がり、ワルサーPPK――小型拳銃――を引き出せるようになった。弾は6発。ゼモルディアの裏社会で愛用した、信頼できる相棒だ。ホルスターに収め、準備は整った。
*
昼過ぎ、ダルトンの隠れ家に到着。川沿いの廃墟小屋は、苔と蔦に覆われ、朽ちかけた木の壁が傾いている。獣人の耳が、小屋の中から複数の男たちの声を拾う。笑い声、酒瓶のぶつかる音、武器を研ぐ金属音。5人、いや6人か。ダルトンの一味だ。
木々の陰に身を隠し、様子を窺う。リーダーのダルトンは、髭面で屈強な体格の男。剣と盾を携え、傭兵らしい雰囲気だ。部下たちは雑魚っぽく見えるが、鑑定が無いので相手のレベルは不明。間違いなくこちらよりレベルが高いであろう。直接戦うのは面倒だ。
獣人の耳がさらに重要な情報を拾う。酒に酔ったダルトンの声が、部下たちとの会話から漏れ聞こえる。
「次のターゲットはレゼゼ村の獣人どもだ。いつものように子供や女を攫って、ザルドの密猟ネットワークで高く売る。明日の夜、奇襲をかける。準備しろよ」
部下の一人が笑いながら応じる。
「へっ、獣人のガキなら扱いやすい」
――獣人の村を襲う計画か。レゼゼ村……ルナリア村に近いな。ユートとアオイがモンスター狩りでうろついているエリア付近か。絶好の機会だ。ダルトン一味をユートとアオイにぶつけ、混乱の中で二人の能力を観察しつつ、ターゲットの弱点を洗い出す。だが、村の子供たちが巻き込まれるのは見過ごせない。殺し屋の俺に正義感はないが、無駄な犠牲は効率を下げる。子供たちを逃がし、その流れでユートたちを誘導する作戦を立てる。
*
夕暮れが迫る中、俺はレゼゼ村へ急ぐ。獣人の敏捷性を活かし、森を音もなく駆ける。レゼゼ村は小川沿いの小さな集落で、木造の家屋が点在し、獣人たちが穏やかに暮らしている。子供たちが広場で遊び、獣人の特徴――猫や狼の耳、尾――が夕陽に映える。ダルトンの襲撃計画を考えると、この平和は長く続かない。
リンク・ゲートから小さな布袋を取り出す。ゼモルディアの裏社会で使った特製の香料――獣人の嗅覚を刺激する、興奮と不安を誘う匂いだ。人間にはほとんど感じないが、獣人には強烈に作用する。この香料を村の外れ、風上に撒く。匂いは子供たちに届き、敏感な彼らの本能を刺激するはず。逃げ出す方向は、ユートとアオイがモンスター狩りをしている森の南側へ誘導するよう計算する。
木の上から村を見下ろし、香料を風に乗せる。数分後、子供たちの動きが変化する。鼻をひくつかせ、落ち着かない様子で広場を離れ始める。年上の子が小さい子を連れ、森の南へ走り出す。――完璧だ。その中に、5、6歳くらいのふわふわの茶色の髪に、猫みたいな尖った耳をした女の子が目立つ。動きが速く、他の子供をリードしている。こいつをユートたちの方向へ導けばいい。
俺は木から飛び降り、少年の後を追う。獣人の素早さで距離を詰め、気配を消して近づく。女の子が振り返る前に、香料をさらに一振り。匂いが彼の鼻を刺激し、目を細めて南へ加速する。ルナリアの森の南側、ユートとアオイがいるエリアだ。
*
ウミャウという名の猫耳の少女が、ユートとアオイのいる森の南側へ走っていくのを確認した。彼女の小さな背中が木々の間に消えるのを見届け、俺は次の行動に移る。
ユートとアオイの人間性――村を助け、子供を守ろうとする姿勢――から推測するに、ウミャウの話を聞けば、密猟者のアジトを叩きに動くはずだ。
情報屋の話では、ダルトンはザルドの手下に過ぎない。本物のボス、ザルドを倒せば、密猟ネットワークを一網打尽にできる。彼らがザルドのアジトへ向かうと仮定し、俺は一歩先を行く。
ザルドのアジトは、情報屋が教えてくれたレゼゼ村からさらに北、森の奥の古びた石造りの廃墟にある。そこには捕らえた獣人たちが奴隷として売られる前に閉じ込められているという。ユートとアオイが正義感で突っ込んでくるとすれば、俺は先にアジトに潜入し、獣人たちの檻に紛れ込む。混乱の中で彼らの能力を観察し、チート転生者としての本性を暴くチャンスだ。
*
夜、俺はレゼゼ村を離れ、獣人の敏捷性を活かして渓谷へ向かう。
月明かりの下、渓谷のアジトに到着。岩壁に隠れた洞窟のような入り口。獣人の耳が、内部から獣のうなり声や鎖の音を拾う。ザルドの部下が数人、見張りとしてうろついている。人間と獣人が混在し、武器を持っているが、動きは緩慢だ。隙だらけ。俺は気配を消し、岩の陰を縫って洞窟に潜入する。
内部は薄暗く、湿った土と血の匂いが漂う。奥に鉄格子の檻が並び、獣人ばかりではなく人間も閉じ込められている。子供や若い女、男も数人。みすぼらしい服をまとい、怯えた目で周囲を見ている。
俺はリンク・ゲートからボロ布を取り出し、身体に巻きつける。銀髪と黄色の瞳を隠し、獣人の捕虜を装う。香料の残りを布に染み込ませ、獣人の不安を抑える匂いでカモフラージュ。見張りの隙を突き、素早く檻の一つに滑り込む。檻の中の獣人――狼耳の少年と狐尾の女性――が驚いたように俺を見るが、香料の効果か、声を上げる前に落ち着く。
「静かにしろ。味方だ」
俺は低く囁く。少年が頷き、女性は疑うような目だが黙っている。俺はボロ布にくるまり、檻の隅で息を潜める。ユートたちが突入するのを待つ。
*
獣人の耳が、こそこそと歩く足音を捉える。ユートとアオイだ。
「ねえっ」
檻の外から声がかかる。予定どおり、もっともよい位置にいた俺に声をかけてきた。
銀色の髪と鋭い黄色の瞳を持つ豹の姿に、馴染んできた。身体の敏捷性や鋭い感覚は使える――ただ、匂いや音の情報量が多すぎて、慣れるのにまだ時間がかかりそうだった。この3日間、目立たぬよう街の流れに身を任せ、細かい情報を集めてきた。
市場の喧噪、商人たちの掛け声、路地裏での囁き――ベルフォードは表も裏も生き生きと動いている。昼は露店で薬草や食料を買い、夜は酒場や路地で噂を聞き集めた。チート転生者の痕跡を追うためだ。ユリアーナの言葉では、彼らは「目立つ存在」だという。なら、異常な力や行動で噂になるはず。だが、3日経っても具体的な手がかりは薄い。情報屋が約束した「会いに行く」時刻が近づいている今、俺は再び市場の裏路地に足を踏み入れる。
*
夕暮れ時、路地の空気は湿気を帯び、魚の干物と腐った果物の匂いが混じる。フードを深く被り、豹の特徴を隠して歩く。情報屋の男は、同じボロボロのマントを羽織り、路地の奥で待っていた。俺の足音を聞きつけ、ギラつく目がこちらを向く。
「お前、時間通りだな」
男の声は低く、警戒が滲む。
「情報だ。噂の“変わった奴”について、だろ?」
俺は無言で頷き、銀貨をもう一枚渡す。男はそれを素早く懐にしまい、声を潜める。
「しばらく前に、ルナリア村で髪の色が黒い東邦人らしき男女の二人組が冒険者登録したらしい。二人は」
「名前は? 見た目は?」
俺は短く問う。
「名前は? 見た目は?」
「二人とも変わった名前で、登録情報によると男の方はタナカユート、女の方はタカヤナギアオイ。東邦人は年齢より幼く見えるが、歳は15歳前後らしい。今はルナリア周辺の森でモンスター狩りをしている。だが、近づくなら気をつけろ。あの辺、密猟者も出るし、普通の旅人じゃ死ぬぞ」
……普通の旅人ねえ……
この世界の東邦人に見える人間というと、アジア系の人間か。中国人、韓国人、日本人か……だが名前からすると日本人の可能性が高い。一般的な日本人の良識を考える。
ある作戦が浮かんだ。
「密猟者のボスは誰だ」
「あそこの密猟はザルドって獣人がやってる。だが実際に動いてるのはダルトンって髭面の男だ」
「どこにいる?」
俺は鋭く問い詰める。情報屋の男は一瞬怯んだように目をそらし、路地の奥をチラリと見る。まるで誰かに見られていないか確認するかのようだ。
「ダルトンなら、ルナリア村近くの森の北西、川沿いの隠れ家にいる。廃墟みたいな小屋だ。ザルドはそこには滅多に来ねえ。ダルトンが実質仕切ってる。だが、そいつら、傭兵崩れの荒くれ者揃いだ。単独で突っ込むのは無謀だぞ、獣人娘」
男の言葉に、俺はフードの下で小さく笑う。獣人娘、か。俺をそんな風に見るなんて、こいつ、なかなか面白い。だが、情報は揃った。タナカ・ユートとタカヤナギ・アオイ――チート転生者の可能性が高い二人組。そして、密猟者のダルトン。こいつらを利用すれば、ターゲットに近づく足がかりになるかもしれない。
「感謝する」
俺は銀貨をもう一枚弾き、男の懐に放る。男はニヤリと笑い、路地の闇に消えた。
*
夜、ベルフォードの宿屋の狭い部屋に戻り、リンク・ゲートを開く。レベル4のままでは心許ないが、3日間の情報収集で街の構造や噂の流れは掴めた。光の渦はわずかに大きくなり、ナイフの予備をもう一本――「影の爪」の姉妹品、刃渡り12cmの軽量ナイフ――を引き出す。ブーツに仕込み、腰の「影の爪」と合わせて二刀の準備。拳銃はまだ穴が小さすぎて取り出せない。レベルを上げなきゃな。
情報屋の話では、ユートとアオイはルナリア周辺でモンスター狩り。密猟者のダルトンも同じエリアに潜む。ならば、密猟者を餌に二人をおびき出すか。
*
翌朝、ベルフォードの北門を出てルナリア村へ向かう。森の獣道を進み、情報屋の地図を頼りにダルトンの隠れ家を目指す。道中、ホーンラビットを数匹仕留め、レベル5に到達する。
リンク・ゲートを試すと、穴がわずかに広がり、ワルサーPPK――小型拳銃――を引き出せるようになった。弾は6発。ゼモルディアの裏社会で愛用した、信頼できる相棒だ。ホルスターに収め、準備は整った。
*
昼過ぎ、ダルトンの隠れ家に到着。川沿いの廃墟小屋は、苔と蔦に覆われ、朽ちかけた木の壁が傾いている。獣人の耳が、小屋の中から複数の男たちの声を拾う。笑い声、酒瓶のぶつかる音、武器を研ぐ金属音。5人、いや6人か。ダルトンの一味だ。
木々の陰に身を隠し、様子を窺う。リーダーのダルトンは、髭面で屈強な体格の男。剣と盾を携え、傭兵らしい雰囲気だ。部下たちは雑魚っぽく見えるが、鑑定が無いので相手のレベルは不明。間違いなくこちらよりレベルが高いであろう。直接戦うのは面倒だ。
獣人の耳がさらに重要な情報を拾う。酒に酔ったダルトンの声が、部下たちとの会話から漏れ聞こえる。
「次のターゲットはレゼゼ村の獣人どもだ。いつものように子供や女を攫って、ザルドの密猟ネットワークで高く売る。明日の夜、奇襲をかける。準備しろよ」
部下の一人が笑いながら応じる。
「へっ、獣人のガキなら扱いやすい」
――獣人の村を襲う計画か。レゼゼ村……ルナリア村に近いな。ユートとアオイがモンスター狩りでうろついているエリア付近か。絶好の機会だ。ダルトン一味をユートとアオイにぶつけ、混乱の中で二人の能力を観察しつつ、ターゲットの弱点を洗い出す。だが、村の子供たちが巻き込まれるのは見過ごせない。殺し屋の俺に正義感はないが、無駄な犠牲は効率を下げる。子供たちを逃がし、その流れでユートたちを誘導する作戦を立てる。
*
夕暮れが迫る中、俺はレゼゼ村へ急ぐ。獣人の敏捷性を活かし、森を音もなく駆ける。レゼゼ村は小川沿いの小さな集落で、木造の家屋が点在し、獣人たちが穏やかに暮らしている。子供たちが広場で遊び、獣人の特徴――猫や狼の耳、尾――が夕陽に映える。ダルトンの襲撃計画を考えると、この平和は長く続かない。
リンク・ゲートから小さな布袋を取り出す。ゼモルディアの裏社会で使った特製の香料――獣人の嗅覚を刺激する、興奮と不安を誘う匂いだ。人間にはほとんど感じないが、獣人には強烈に作用する。この香料を村の外れ、風上に撒く。匂いは子供たちに届き、敏感な彼らの本能を刺激するはず。逃げ出す方向は、ユートとアオイがモンスター狩りをしている森の南側へ誘導するよう計算する。
木の上から村を見下ろし、香料を風に乗せる。数分後、子供たちの動きが変化する。鼻をひくつかせ、落ち着かない様子で広場を離れ始める。年上の子が小さい子を連れ、森の南へ走り出す。――完璧だ。その中に、5、6歳くらいのふわふわの茶色の髪に、猫みたいな尖った耳をした女の子が目立つ。動きが速く、他の子供をリードしている。こいつをユートたちの方向へ導けばいい。
俺は木から飛び降り、少年の後を追う。獣人の素早さで距離を詰め、気配を消して近づく。女の子が振り返る前に、香料をさらに一振り。匂いが彼の鼻を刺激し、目を細めて南へ加速する。ルナリアの森の南側、ユートとアオイがいるエリアだ。
*
ウミャウという名の猫耳の少女が、ユートとアオイのいる森の南側へ走っていくのを確認した。彼女の小さな背中が木々の間に消えるのを見届け、俺は次の行動に移る。
ユートとアオイの人間性――村を助け、子供を守ろうとする姿勢――から推測するに、ウミャウの話を聞けば、密猟者のアジトを叩きに動くはずだ。
情報屋の話では、ダルトンはザルドの手下に過ぎない。本物のボス、ザルドを倒せば、密猟ネットワークを一網打尽にできる。彼らがザルドのアジトへ向かうと仮定し、俺は一歩先を行く。
ザルドのアジトは、情報屋が教えてくれたレゼゼ村からさらに北、森の奥の古びた石造りの廃墟にある。そこには捕らえた獣人たちが奴隷として売られる前に閉じ込められているという。ユートとアオイが正義感で突っ込んでくるとすれば、俺は先にアジトに潜入し、獣人たちの檻に紛れ込む。混乱の中で彼らの能力を観察し、チート転生者としての本性を暴くチャンスだ。
*
夜、俺はレゼゼ村を離れ、獣人の敏捷性を活かして渓谷へ向かう。
月明かりの下、渓谷のアジトに到着。岩壁に隠れた洞窟のような入り口。獣人の耳が、内部から獣のうなり声や鎖の音を拾う。ザルドの部下が数人、見張りとしてうろついている。人間と獣人が混在し、武器を持っているが、動きは緩慢だ。隙だらけ。俺は気配を消し、岩の陰を縫って洞窟に潜入する。
内部は薄暗く、湿った土と血の匂いが漂う。奥に鉄格子の檻が並び、獣人ばかりではなく人間も閉じ込められている。子供や若い女、男も数人。みすぼらしい服をまとい、怯えた目で周囲を見ている。
俺はリンク・ゲートからボロ布を取り出し、身体に巻きつける。銀髪と黄色の瞳を隠し、獣人の捕虜を装う。香料の残りを布に染み込ませ、獣人の不安を抑える匂いでカモフラージュ。見張りの隙を突き、素早く檻の一つに滑り込む。檻の中の獣人――狼耳の少年と狐尾の女性――が驚いたように俺を見るが、香料の効果か、声を上げる前に落ち着く。
「静かにしろ。味方だ」
俺は低く囁く。少年が頷き、女性は疑うような目だが黙っている。俺はボロ布にくるまり、檻の隅で息を潜める。ユートたちが突入するのを待つ。
*
獣人の耳が、こそこそと歩く足音を捉える。ユートとアオイだ。
「ねえっ」
檻の外から声がかかる。予定どおり、もっともよい位置にいた俺に声をかけてきた。
2
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる