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第一章 田中悠斗
倉庫の中で
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月光が薄く差し込むベルフォードの街はずれ。廃れた倉庫の影に、僕――田中悠斗とリネットは身を潜めていた。
倉庫の壁は錆びた鉄板と朽ちかけた木ででき、埃と湿った土の匂いが漂う。くすんだ窓ガラスから見える遠くの山の稜線が、夜空に黒く浮かんでいた。
僕は膝を抱え、倉庫の隅でうずくまっていた。膝の傷からは血が滲み、服は破れ、顔は涙と泥で汚れている。
リネットは眉をひそめ、杖を握る。
「【ヒール】!」
淡い緑の光が悠斗の膝を包むが、傷は閉じない。血が止まらず、ジンジンと疼く。リネットは焦りながら、別の魔法を試す。
「【状態異常解除】ピュリファイ・ブリーズ!」
今度は青い光が傷を包むが、効果はない。
リネットはポーチから薬草を取り出し、悠斗の膝の傷に巻く。彼女の指が優しく動くが、傷口に変化はない。
「ダメ! 魔法や薬草では傷口が閉じない。まるでこの世界のものが効果ないみたいに……」
――そうだ
――効果なんか無いのさ
――すべて嘘だった
――力も
――素早さも
――器用さも
――知力も
――体力も
――精神も
――幸運も
――スキルも
――賞賛も
――友情も
――好意も
――全部
――全部、全部、全部、全部、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ
――ぜんぶ嘘だった。
リネットは悠斗の隣に膝をつき、そっと肩に手を置く。自分の袖口を破った布で、僕の顔を拭いてくれた。
――君も嘘なんだろう……?
リネットは少しだけためらってから、僕の隣に腰を下ろした。膝を抱えた姿勢のまま、夜風に揺れる金髪を押さえて、小さな声で話し始める。
「悠斗さん、私には、まだ10歳の弟が居るんです」
――え? なんの話?
「すっごく元気で、チャンバラが大好きで」
リネットの目が、ほんの少しだけ和らぐ。
「木の棒を剣みたいに振り回して……よく私を相手にしてくるんですよ。『姉ちゃん、今日こそ勝つ!』ってね」
僕は黙って聞く。リネットの声は、どこか遠くを見ているようだった。
「両親は、もういないんですよ。二人とも野党に襲われて……。叔父に引き取られたんですけど……あまり可愛がられなかった」
淡々と語る口調の奥に、長い間押し込めてきた痛みが滲む。
「だから、弟とはいつも二人で助け合って……冬は一枚の毛布を分け合って眠ったり、パンを半分こにして食べたり……」
彼女の指先が、破れた袖の端を無意識にいじっている。
「あの日……私が村で誘拐されてしまって……どこに連れて行かるのかもわからなくて……もう弟に会えないのかと思うと怖くて……本当に怖くて……そして、檻の中でずっと泣いていました」
「そんな話、初めて聞いた……」
小さく息を呑み、リネットは僕を見つめる。
「そんな時に、あなたが来たんです」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「あの瞬間、本当に……本当に嬉しかった」
リネットは微笑んだ。涙が光っていた。
「そうだ悠斗さん、私を弟のいる村に連れて行ってください」
「え?」
「護衛してくださいね」
彼女の言葉は、迷いなく僕の心に届いた。
「あ、ああ……もちろんだ! 僕が絶対、君と弟を会わせてやる!」
「じゃあ……弟に会いに行けるように、あなたが無事でいてくれないと」
この子だけは……リネットだけは……嘘じゃない。嘘じゃないんだ。
*
「っ!」
立ち上がろうとすると、やはり痛い。
薬草は効果が薄いけど、完全に効果が無かったわけではないらしい。血が止まったおかげで、少しだが加護の能力も戻って来た気がする。
「悠斗さん、ごめんなさい。私が、もっと強い魔法を覚えていれば……」
僕は弱々しく笑った。
「大丈夫、リネット。こんな傷、ブラック会社で徹夜した時の疲れに比べたらマシさ……ハハハ」
リネットは唇を噛み、悲しい顔をする。
――その時
コン、コン、コン!
倉庫の入り口からノックの音と軽やかな笑い声が響く。
「ほぉ~、なんや、えらい感動的なシーンやんけ!」
入口の影から女が姿を現した。
金髪を無造作に後ろで束ね、細い目をニタリと細める。
黒いロングコートの下、腰には異様に光る細身のナイフケース――いや、医療用のメスだ。
「ワイな、ロンドンで死んでもうてん。せやけど、トラックに引かれたわけちゃうで。ほんでな、女神みたいな人に『チート転生者倒してくれへん?』言われてん。それで探すんめんどいなぁ思いながら街ぶらぶらしてたら、たまたま転生者いう人戦ってるとこ見つけたんや。おかげでめっちゃラッキーやったわ」
関西弁の軽快な口調が、場に不穏な空気をもたらす。
「名前はジャック、よろしゅうな! ユリアーナはんの依頼で、チート転生者の首、ちょいと頂戴しに来たわ!」
「また……ユリアーナの殺し屋か……!」
リネットが悠斗の前に立ち、杖を構える。
「悠斗さんを守ります! あなた、近づかないで!」
女――ジャックは、猫のようにしなやかな歩みで距離を詰めながら、右手のメスをくるくると回していた。
刃先が月明かりを受けて銀色に瞬く。
「ワイ、ロンドン生まれやから霧では逃げられへんねん。」
関西訛りの、耳に残る低い女声。なんでロンドン生まれが関西弁なんだよ!
ジャックはクスクス笑い、メスを指で弾く。
その瞬間、リネットが杖を回し、ジャックに殴りかかった。
――早い! そして巧い!
「悠斗さんに……指一本でも触れさせない!」
カンッ!
刃と木が激しくぶつかり、金属音が倉庫に響く。
そのままリネットは杖を滑らせ、手首のスナップと共に円を描くように回転――棒術特有の「巻き落とし」。
ジャックの握るメスが、吸い込まれるように軌道から外れ、床に転がった。
「なっ……!」
ジャックの細目が一瞬だけ見開かれたが、そのまま杖を喉元に突きつける。リネットは、さらに杖に魔法力を込める。
「すごいリネット! こんなに強いなんて!」
「フフ、チャンバラごっこのたまものですよ!」
――チャンバラのレベルを通り越してるけど……
でも、これがリネットの真の姿なんだ。あのおどおどした内気な少女は、本当のリネットが抑えられていた状態だったんだ。
「レベルの低いあなた達では、私には敵いません!」
さらに杖に魔法力を込める。既に詠唱は終わっているようだ。
「はは、やるなあお嬢ちゃん、気合い入っとるやん!でもな……」
パァン!
突如、窓ガラスが割れ、リネットの杖が真ん中から弾け飛んだ。
木片が床に散らばり、リネットは驚愕で固まる。
「なっ……!?」
窓の外、山の方から? 狙撃手だ。ジャックの仲間、もう一人の殺し屋か。
「おっと、うちの相棒、ナイスタイミングや! お嬢ちゃん、杖なしでどう戦うん?」
ジャックが笑い声を上げる。
リネットは折れた杖を握り、震える手で悠斗を庇う。
「杖がなくても……悠斗さんを守る!」
ジャックがメスを拾い上げ、リネットの腕をかすめる。血が滴り、リネットは膝をつく。悠斗が叫ぶ。
「リネット! やめろ、俺を置いて逃げろ!」
「嫌です!」
「リネット! 頼む逃げてくれ!」
「嫌ぁ!!」
リネットは後退しながらも僕を庇うように立つ。だが、武器はない。
僕の膝はまだ痛む。それでも――
「リネット、下がれ!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
震える足に力を込め、僕は彼女の前に立った。
ジャックはメスを構え、低く笑う。
「おお、男前やなあ。そやけど――」
「……そこまでだ」
低く冷えた声が、倉庫の入口から響いた。
銃を構えたサーラが、そこにいた。
倉庫の壁は錆びた鉄板と朽ちかけた木ででき、埃と湿った土の匂いが漂う。くすんだ窓ガラスから見える遠くの山の稜線が、夜空に黒く浮かんでいた。
僕は膝を抱え、倉庫の隅でうずくまっていた。膝の傷からは血が滲み、服は破れ、顔は涙と泥で汚れている。
リネットは眉をひそめ、杖を握る。
「【ヒール】!」
淡い緑の光が悠斗の膝を包むが、傷は閉じない。血が止まらず、ジンジンと疼く。リネットは焦りながら、別の魔法を試す。
「【状態異常解除】ピュリファイ・ブリーズ!」
今度は青い光が傷を包むが、効果はない。
リネットはポーチから薬草を取り出し、悠斗の膝の傷に巻く。彼女の指が優しく動くが、傷口に変化はない。
「ダメ! 魔法や薬草では傷口が閉じない。まるでこの世界のものが効果ないみたいに……」
――そうだ
――効果なんか無いのさ
――すべて嘘だった
――力も
――素早さも
――器用さも
――知力も
――体力も
――精神も
――幸運も
――スキルも
――賞賛も
――友情も
――好意も
――全部
――全部、全部、全部、全部、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ
――ぜんぶ嘘だった。
リネットは悠斗の隣に膝をつき、そっと肩に手を置く。自分の袖口を破った布で、僕の顔を拭いてくれた。
――君も嘘なんだろう……?
リネットは少しだけためらってから、僕の隣に腰を下ろした。膝を抱えた姿勢のまま、夜風に揺れる金髪を押さえて、小さな声で話し始める。
「悠斗さん、私には、まだ10歳の弟が居るんです」
――え? なんの話?
「すっごく元気で、チャンバラが大好きで」
リネットの目が、ほんの少しだけ和らぐ。
「木の棒を剣みたいに振り回して……よく私を相手にしてくるんですよ。『姉ちゃん、今日こそ勝つ!』ってね」
僕は黙って聞く。リネットの声は、どこか遠くを見ているようだった。
「両親は、もういないんですよ。二人とも野党に襲われて……。叔父に引き取られたんですけど……あまり可愛がられなかった」
淡々と語る口調の奥に、長い間押し込めてきた痛みが滲む。
「だから、弟とはいつも二人で助け合って……冬は一枚の毛布を分け合って眠ったり、パンを半分こにして食べたり……」
彼女の指先が、破れた袖の端を無意識にいじっている。
「あの日……私が村で誘拐されてしまって……どこに連れて行かるのかもわからなくて……もう弟に会えないのかと思うと怖くて……本当に怖くて……そして、檻の中でずっと泣いていました」
「そんな話、初めて聞いた……」
小さく息を呑み、リネットは僕を見つめる。
「そんな時に、あなたが来たんです」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「あの瞬間、本当に……本当に嬉しかった」
リネットは微笑んだ。涙が光っていた。
「そうだ悠斗さん、私を弟のいる村に連れて行ってください」
「え?」
「護衛してくださいね」
彼女の言葉は、迷いなく僕の心に届いた。
「あ、ああ……もちろんだ! 僕が絶対、君と弟を会わせてやる!」
「じゃあ……弟に会いに行けるように、あなたが無事でいてくれないと」
この子だけは……リネットだけは……嘘じゃない。嘘じゃないんだ。
*
「っ!」
立ち上がろうとすると、やはり痛い。
薬草は効果が薄いけど、完全に効果が無かったわけではないらしい。血が止まったおかげで、少しだが加護の能力も戻って来た気がする。
「悠斗さん、ごめんなさい。私が、もっと強い魔法を覚えていれば……」
僕は弱々しく笑った。
「大丈夫、リネット。こんな傷、ブラック会社で徹夜した時の疲れに比べたらマシさ……ハハハ」
リネットは唇を噛み、悲しい顔をする。
――その時
コン、コン、コン!
倉庫の入り口からノックの音と軽やかな笑い声が響く。
「ほぉ~、なんや、えらい感動的なシーンやんけ!」
入口の影から女が姿を現した。
金髪を無造作に後ろで束ね、細い目をニタリと細める。
黒いロングコートの下、腰には異様に光る細身のナイフケース――いや、医療用のメスだ。
「ワイな、ロンドンで死んでもうてん。せやけど、トラックに引かれたわけちゃうで。ほんでな、女神みたいな人に『チート転生者倒してくれへん?』言われてん。それで探すんめんどいなぁ思いながら街ぶらぶらしてたら、たまたま転生者いう人戦ってるとこ見つけたんや。おかげでめっちゃラッキーやったわ」
関西弁の軽快な口調が、場に不穏な空気をもたらす。
「名前はジャック、よろしゅうな! ユリアーナはんの依頼で、チート転生者の首、ちょいと頂戴しに来たわ!」
「また……ユリアーナの殺し屋か……!」
リネットが悠斗の前に立ち、杖を構える。
「悠斗さんを守ります! あなた、近づかないで!」
女――ジャックは、猫のようにしなやかな歩みで距離を詰めながら、右手のメスをくるくると回していた。
刃先が月明かりを受けて銀色に瞬く。
「ワイ、ロンドン生まれやから霧では逃げられへんねん。」
関西訛りの、耳に残る低い女声。なんでロンドン生まれが関西弁なんだよ!
ジャックはクスクス笑い、メスを指で弾く。
その瞬間、リネットが杖を回し、ジャックに殴りかかった。
――早い! そして巧い!
「悠斗さんに……指一本でも触れさせない!」
カンッ!
刃と木が激しくぶつかり、金属音が倉庫に響く。
そのままリネットは杖を滑らせ、手首のスナップと共に円を描くように回転――棒術特有の「巻き落とし」。
ジャックの握るメスが、吸い込まれるように軌道から外れ、床に転がった。
「なっ……!」
ジャックの細目が一瞬だけ見開かれたが、そのまま杖を喉元に突きつける。リネットは、さらに杖に魔法力を込める。
「すごいリネット! こんなに強いなんて!」
「フフ、チャンバラごっこのたまものですよ!」
――チャンバラのレベルを通り越してるけど……
でも、これがリネットの真の姿なんだ。あのおどおどした内気な少女は、本当のリネットが抑えられていた状態だったんだ。
「レベルの低いあなた達では、私には敵いません!」
さらに杖に魔法力を込める。既に詠唱は終わっているようだ。
「はは、やるなあお嬢ちゃん、気合い入っとるやん!でもな……」
パァン!
突如、窓ガラスが割れ、リネットの杖が真ん中から弾け飛んだ。
木片が床に散らばり、リネットは驚愕で固まる。
「なっ……!?」
窓の外、山の方から? 狙撃手だ。ジャックの仲間、もう一人の殺し屋か。
「おっと、うちの相棒、ナイスタイミングや! お嬢ちゃん、杖なしでどう戦うん?」
ジャックが笑い声を上げる。
リネットは折れた杖を握り、震える手で悠斗を庇う。
「杖がなくても……悠斗さんを守る!」
ジャックがメスを拾い上げ、リネットの腕をかすめる。血が滴り、リネットは膝をつく。悠斗が叫ぶ。
「リネット! やめろ、俺を置いて逃げろ!」
「嫌です!」
「リネット! 頼む逃げてくれ!」
「嫌ぁ!!」
リネットは後退しながらも僕を庇うように立つ。だが、武器はない。
僕の膝はまだ痛む。それでも――
「リネット、下がれ!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
震える足に力を込め、僕は彼女の前に立った。
ジャックはメスを構え、低く笑う。
「おお、男前やなあ。そやけど――」
「……そこまでだ」
低く冷えた声が、倉庫の入口から響いた。
銃を構えたサーラが、そこにいた。
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そんなある日、変化がやってきた。
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その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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