卒業した姉とこれから入学するのではしゃぐ妹

月輝晃

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温水プール

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「こっちこっちー!空いてるよ!」

かおりんの声が、プールの壁に反響する。

春休みも終わりが近づいた、ある日の午後。外はまだ肌寒いけれど、館内に入るとほんのり暖かい湿気に包まれた。

温水プール独特のやわらかい蒸気と、塩素の匂い。
わたしは少し浮ついた気分で、水着の肩紐を直す。ミントグリーンのセパレートタイプ。ヘソはぎりぎり見えないけど、気を抜くと肌の露出に意識がいってしまう。

「ほら、しおりんもこっち来てよ~」

かおりんはスレンダーな体にパステルピンクのワンピース水着。まだちょっと幼さが残ってるけど、最近やけに視線を集めるようになってきたのが気になる。本人は全然気づいてないっぽいけど。

そして、今回のプールに一緒に来ているのが、かおりんの同級生で仲良しの真菜まなとえりか。

真菜まなは少し勝ち気な顔立ちで、青いハイレグっぽい水着が大胆。短めの髪が水に濡れると、まるでスポーツ雑誌のグラビアのようにキマって見える。

えりかは色白で、ロングヘアをお団子にまとめている。ふわっとした胸元が印象的な白地のフリル水着で、見た目はおっとり系なのに、意外と毒舌。

そして――4人の視線が、自然と25メートルプールの端に集まる。

「さっきから気になってたんだけど……あれ、空いてるよね?」

真菜まなが指を差す。

「25mのまっすぐのレーン。貸切じゃん、今!」

「……ってことは、やるしかないね」

かおりんがにんまりと笑う。

「勝負?」

「勝負っしょ!25m、全力!誰がいちばん早いか!」

「負けた人は、ジュースおごりとか?」

「それとも、罰ゲーム?」

「えー、何それ、気になる!」

女子4人の目が一斉にきらりと光った。

そうして、プールサイドに並んだわたしたち。

肌に張りつく水着。水滴が太ももを伝って落ちる感覚。
湿度と水の冷たさ、そしてちょっとした緊張感が、やけにリアルに身体をくすぐる。

「じゃ、並ぼうか!」

スタート地点。4人並んで、それぞれ軽くストレッチ。

わたしは肩を回しながら、さりげなく隣を見る。
えりかの胸元が、水着越しにふわっと上下してて……ちょっと目のやり場に困る。

「しおりん、見てたでしょ~」

「なっ、見てないし!」

「ふふふ、照れてる~」

「……気のせいじゃない?」

真菜まなは胸を張って、堂々と前屈をしている。その動きで背中のラインがくっきり浮かぶ。下半身の引き締まり方が、明らかに運動部。

かおりんはというと、膝を抱えてしゃがみながら、「おなか冷たい~」と自分の腹を押さえている。スカート型の水着の裾から、太ももがちらちらと見えてドキドキする。

「よし、準備OK?」

「いつでもいける!」

「じゃあ、スタートコールはえりかお願い!」

「了解~。じゃ、いくよ。Ready……Go!!」

水しぶきが一斉にあがった。



最初に飛び出したのは、意外にも――かおりんだった。

「うそっ、はやっ!」

水面をスムーズにかく手、しなやかに伸びる腕、バタ足の水飛沫が小さいのに進みが早い。
あの子、部活では帰宅部じゃなかったっけ……?

「これは……姉の威厳がかかってる……!」

わたしは必死で追いかける。けれど、水の中では視界が限られて、スピードの感覚が狂う。どれくらい差がついてるのか、まったくわからない。

真菜まなの泳ぎは力強く、まっすぐに水を割って進む。フォームがとにかくきれい。さすがだ。

えりかはというと、スタートは遅れたけれど、途中からスルスルとスピードを上げてきた。水中のしなり方が独特で、柔らかい動きなのに推進力がある。

「……負けられないっ!」

わたしは自分の体のラインを意識して、ぐっと背筋を伸ばす。肩の使い方、水の押し出し、太もものバタつき――全部がつながって、少しずつ加速していく。

耳に水の音しか聞こえない。

でも、その静寂の中に、確かに4人の息づかいがあった。

息継ぎのたびに、となりをちらっと見る。真菜がこちらに気づいてニヤリと笑う。

「抜かせるなら、抜いてみな?」

その顔が、くそ、かっこいいじゃないか……!

わたしは必死で追いつこうと、腕を伸ばす。
水着が肌に密着して、ちょっとだけ胸のラインがずれる感覚――無視無視!

「あと少し……!」

プールの底の青いタイル。視界にゴールラインの壁が近づく。

「……っ!」

最後の一かき、全員が同時に手を伸ばす――

バンッ!

水しぶきと同時に、ゴールの壁に手が触れた。

息を切らしながら、わたしたちは顔を上げた。

「……っ、どう……だった?」

「見た!?見てた!?誰1位だった!?」

「たぶん……1位、真菜まな!」

「やったああああ!」

真菜まながガッツポーズ。水滴が腕を伝って肩を濡らすその姿が、もう絵になりすぎ。

「2位は……しおりん!」

「よしっ!姉の威厳は守った……!」

「3位……かおりん!惜しい!」

「え~~~!出だし完璧だったのに~~!」

「えりかは?」

「ふふ、わたしはビリ。でもいいの。全員の後ろから、水着のお尻じっくり見てたから」

「は!?なにそれ!」

「変態発言きた!」

真菜まなも揺れてたよ?」

「ばっ、ばかっ、それ言うなって!」

顔を赤らめて笑いあいながら、わたしたちはぷかぷかと浮かびながら並んでプールの端に寄った。

水着からちらりと見える肌、汗じゃなく水滴が流れていく感触、そして競争のあとの高揚感。
全部が、今だけの宝物みたいだった。

「もう一回、やろっか」

「次は背泳ぎ?」

「それとも、水中騎馬戦?」

「しおりん、今ニヤッてしたよね?」

「してないしてない!」

「してたしてた~~!」

笑い声が、水の中で広がっていく。

春休みの終わり。
わたしたちは、濡れたまま、何度でも競争する。

誰が速くても、誰が勝っても、
この時間が続けば、それだけで――勝ち。
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