卒業した姉とこれから入学するのではしゃぐ妹

月輝晃

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映画研究会

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《部活、まだ迷ってる。明日、吹奏楽と写真部見てくる》

 かおりんからのLINEに、わたしは自然と笑顔になった。

 同じ制服じゃなくても――
 別々の学校に通うようになっても、
 わたしたちはやっぱり、姉妹なんだなって思う。

 でも、同時にどこかで、かおりんはもう自分の道を歩き始めているんだって、少しだけ寂しくもあった。

 そのとき、胸の奥にふと浮かんだ言葉。

「わたしも、なにかを“始めたい”」

 なにか、わたしにしかできないことを。
 妹が頑張ってるなら、わたしもなにかを背負ってみたい。


 翌日、大学の昼休み。

 映画研究会の部室の窓を開けると、春の風がふわっと入り込んできた。カーテンがふわりと踊って、心のなかにあった小さな決意に火をつけた。

 座道部。

 わたしが高校で作った、ちょっと変な、でも大事な部活。

「映画研究会の中に、また“あの部活”を作れたら……」

 ぼそっとつぶやいたそのとき。

「なにか、考えごと?」

 背後から、ひかりんの声。

 わたしは少し驚いて振り返った。今日もラフなパーカー姿、でも目元はどこか澄んでいて、まっすぐ。

「ううん……あのね、ひかりん。わたし、ちょっと相談があって」


 テーブルに紅茶のカップを並べながら、わたしはゆっくりと語った。

 ――高校で作った座道部のこと。
 ――座ることの美しさ、静けさの中にある心の動き。
 ――それが、映画を観る姿勢にもつながっているって、最近気づいたこと。

「……だからね、映画研究会の中で“座道”をテーマにした分科会……というか、“静の視点”を深める時間があってもいいんじゃないかなって思ったの」

 ひかりんは、静かにわたしの言葉を聞いていた。

 そして、カップをひとくち傾けてから、にこっと笑った。

「フフ……しおりって、外から見たら柔らかいのに、中に熱があるよね」

「熱なんて……そんな立派なものじゃ……」

「あるよ。ちゃんと伝わってきた」

 そう言って、彼女の手がわたしの手の上にそっと重なった。

 その手の温度に、わたしの胸がまた静かに高鳴った。



 すぐに畳のスペースがある教室の予約も取れた。

 夕方近く、映画研究会のホワイトボードの端に、わたしたちはひとつのタイトルを書き加えた。

《分科会:座道と映画》
~静けさと所作を通して、映画と向き合う~

 白いマーカーの文字が、夕日でオレンジ色に染まる。

「……今日のしおり、かっこいいよ」

 ぽつりとひかりんが言った。

「……ありがと。でも、ひかりんがいたから、動き出せたんだよ」

 照れくさい空気が流れる。
 だけど、嫌じゃない。むしろ――嬉しい。

 最初はほんの4人だった。

 正座の仕方、呼吸、姿勢の重心。
 そしてその状態で観る映画の、心への“しみ方”。

 不思議と、みんなの集中力が変わっていくのが分かった。

 座道は、やっぱり特別な何かを持っている。

 ひかりんは、観終わったあと、わたしにこう言った。

「……この姿勢で観ると、まるで登場人物の気持ちが、自分の内側で反響してるみたい」

「それ、たぶん正解」

 思ったよりも、賛同者は多かった。

「映画観るとき、姿勢って確かに大事だよね。集中力が変わる気がする」

「あと、和室で観る映画って、なんか特別感あるし」

「しおりちゃん、正座の美学ってやつ、教えてよ!」

 ――意外だった。ちょっと拍子抜けするくらい。

 でも、それがすごく嬉しかった。



 活動の後片づけをしているとき、ひかりんがふいに話しかけてきた。

「ねえ、しおり」

「うん?」

「……いま、あたし、しおりにすごく惹かれてると思う」

 その声は、すごく静かで、だけど確かなものだった。

 わたしは咄嗟に答えられなかった。

 でも、どこかでずっと感じていた。
 ひかりんといるとき、胸が高鳴ること。
 視線が重なるだけで、手がふれるだけで、心が少し揺れること。

 ――こういうことなのかな。

 ゆっくりと顔を上げた。

 ひかりんの目は、まっすぐにわたしを見ていた。

「しおりが作った“座道”、すごく好き。」

 わたしは黙って、そっと彼女の手を取った。

 畳の上で交わした、たったそれだけの仕草。

 それが、きっと言葉よりずっと、想いを伝えてくれた。



 日が暮れて、キャンパスの灯りがぼんやりと地面を照らす。

 わたしとひかりんは、ふたり並んで構内の石畳を歩いた。

「次回はもっと多く来るかもね」

「うん。でも、4人でも十分だったよ。静けさって、大人数じゃつくれないし」

「……たしかに」

 ひかりんがふと立ち止まり、わたしを見た。

「でも、ふたりなら、静けさも、やさしさも、ちゃんとある」

 その言葉に、胸がきゅっと鳴った。

 ああ、たしかに。

 座ることと向き合うこと。



帰り道。スマホの画面に、かおりんからのメッセージが届いていた。

《座道部、わたしが引き継ぐって言ったけど、やっぱり不安。誰も来なかったら、どうしようって思っちゃう》

 その言葉に、わたしは微笑んで返信した。

《大丈夫。わたしも今日、大学に“座道”つくったよ。同じ時間に、違う場所で、同じ道を歩こう》

《あんたならできる。わたしもやるから》

 送信ボタンを押すと、心の奥で、なにかが静かに燃えはじめるのを感じた。
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