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映画研究会
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《部活、まだ迷ってる。明日、吹奏楽と写真部見てくる》
かおりんからのLINEに、わたしは自然と笑顔になった。
同じ制服じゃなくても――
別々の学校に通うようになっても、
わたしたちはやっぱり、姉妹なんだなって思う。
でも、同時にどこかで、かおりんはもう自分の道を歩き始めているんだって、少しだけ寂しくもあった。
そのとき、胸の奥にふと浮かんだ言葉。
「わたしも、なにかを“始めたい”」
なにか、わたしにしかできないことを。
妹が頑張ってるなら、わたしもなにかを背負ってみたい。
*
翌日、大学の昼休み。
映画研究会の部室の窓を開けると、春の風がふわっと入り込んできた。カーテンがふわりと踊って、心のなかにあった小さな決意に火をつけた。
座道部。
わたしが高校で作った、ちょっと変な、でも大事な部活。
「映画研究会の中に、また“あの部活”を作れたら……」
ぼそっとつぶやいたそのとき。
「なにか、考えごと?」
背後から、ひかりんの声。
わたしは少し驚いて振り返った。今日もラフなパーカー姿、でも目元はどこか澄んでいて、まっすぐ。
「ううん……あのね、ひかりん。わたし、ちょっと相談があって」
*
テーブルに紅茶のカップを並べながら、わたしはゆっくりと語った。
――高校で作った座道部のこと。
――座ることの美しさ、静けさの中にある心の動き。
――それが、映画を観る姿勢にもつながっているって、最近気づいたこと。
「……だからね、映画研究会の中で“座道”をテーマにした分科会……というか、“静の視点”を深める時間があってもいいんじゃないかなって思ったの」
ひかりんは、静かにわたしの言葉を聞いていた。
そして、カップをひとくち傾けてから、にこっと笑った。
「フフ……しおりって、外から見たら柔らかいのに、中に熱があるよね」
「熱なんて……そんな立派なものじゃ……」
「あるよ。ちゃんと伝わってきた」
そう言って、彼女の手がわたしの手の上にそっと重なった。
その手の温度に、わたしの胸がまた静かに高鳴った。
*
すぐに畳のスペースがある教室の予約も取れた。
夕方近く、映画研究会のホワイトボードの端に、わたしたちはひとつのタイトルを書き加えた。
《分科会:座道と映画》
~静けさと所作を通して、映画と向き合う~
白いマーカーの文字が、夕日でオレンジ色に染まる。
「……今日のしおり、かっこいいよ」
ぽつりとひかりんが言った。
「……ありがと。でも、ひかりんがいたから、動き出せたんだよ」
照れくさい空気が流れる。
だけど、嫌じゃない。むしろ――嬉しい。
最初はほんの4人だった。
正座の仕方、呼吸、姿勢の重心。
そしてその状態で観る映画の、心への“しみ方”。
不思議と、みんなの集中力が変わっていくのが分かった。
座道は、やっぱり特別な何かを持っている。
ひかりんは、観終わったあと、わたしにこう言った。
「……この姿勢で観ると、まるで登場人物の気持ちが、自分の内側で反響してるみたい」
「それ、たぶん正解」
思ったよりも、賛同者は多かった。
「映画観るとき、姿勢って確かに大事だよね。集中力が変わる気がする」
「あと、和室で観る映画って、なんか特別感あるし」
「しおりちゃん、正座の美学ってやつ、教えてよ!」
――意外だった。ちょっと拍子抜けするくらい。
でも、それがすごく嬉しかった。
*
活動の後片づけをしているとき、ひかりんがふいに話しかけてきた。
「ねえ、しおり」
「うん?」
「……いま、あたし、しおりにすごく惹かれてると思う」
その声は、すごく静かで、だけど確かなものだった。
わたしは咄嗟に答えられなかった。
でも、どこかでずっと感じていた。
ひかりんといるとき、胸が高鳴ること。
視線が重なるだけで、手がふれるだけで、心が少し揺れること。
――こういうことなのかな。
ゆっくりと顔を上げた。
ひかりんの目は、まっすぐにわたしを見ていた。
「しおりが作った“座道”、すごく好き。」
わたしは黙って、そっと彼女の手を取った。
畳の上で交わした、たったそれだけの仕草。
それが、きっと言葉よりずっと、想いを伝えてくれた。
*
日が暮れて、キャンパスの灯りがぼんやりと地面を照らす。
わたしとひかりんは、ふたり並んで構内の石畳を歩いた。
「次回はもっと多く来るかもね」
「うん。でも、4人でも十分だったよ。静けさって、大人数じゃつくれないし」
「……たしかに」
ひかりんがふと立ち止まり、わたしを見た。
「でも、ふたりなら、静けさも、やさしさも、ちゃんとある」
その言葉に、胸がきゅっと鳴った。
ああ、たしかに。
座ることと向き合うこと。
*
帰り道。スマホの画面に、かおりんからのメッセージが届いていた。
《座道部、わたしが引き継ぐって言ったけど、やっぱり不安。誰も来なかったら、どうしようって思っちゃう》
その言葉に、わたしは微笑んで返信した。
《大丈夫。わたしも今日、大学に“座道”つくったよ。同じ時間に、違う場所で、同じ道を歩こう》
《あんたならできる。わたしもやるから》
送信ボタンを押すと、心の奥で、なにかが静かに燃えはじめるのを感じた。
かおりんからのLINEに、わたしは自然と笑顔になった。
同じ制服じゃなくても――
別々の学校に通うようになっても、
わたしたちはやっぱり、姉妹なんだなって思う。
でも、同時にどこかで、かおりんはもう自分の道を歩き始めているんだって、少しだけ寂しくもあった。
そのとき、胸の奥にふと浮かんだ言葉。
「わたしも、なにかを“始めたい”」
なにか、わたしにしかできないことを。
妹が頑張ってるなら、わたしもなにかを背負ってみたい。
*
翌日、大学の昼休み。
映画研究会の部室の窓を開けると、春の風がふわっと入り込んできた。カーテンがふわりと踊って、心のなかにあった小さな決意に火をつけた。
座道部。
わたしが高校で作った、ちょっと変な、でも大事な部活。
「映画研究会の中に、また“あの部活”を作れたら……」
ぼそっとつぶやいたそのとき。
「なにか、考えごと?」
背後から、ひかりんの声。
わたしは少し驚いて振り返った。今日もラフなパーカー姿、でも目元はどこか澄んでいて、まっすぐ。
「ううん……あのね、ひかりん。わたし、ちょっと相談があって」
*
テーブルに紅茶のカップを並べながら、わたしはゆっくりと語った。
――高校で作った座道部のこと。
――座ることの美しさ、静けさの中にある心の動き。
――それが、映画を観る姿勢にもつながっているって、最近気づいたこと。
「……だからね、映画研究会の中で“座道”をテーマにした分科会……というか、“静の視点”を深める時間があってもいいんじゃないかなって思ったの」
ひかりんは、静かにわたしの言葉を聞いていた。
そして、カップをひとくち傾けてから、にこっと笑った。
「フフ……しおりって、外から見たら柔らかいのに、中に熱があるよね」
「熱なんて……そんな立派なものじゃ……」
「あるよ。ちゃんと伝わってきた」
そう言って、彼女の手がわたしの手の上にそっと重なった。
その手の温度に、わたしの胸がまた静かに高鳴った。
*
すぐに畳のスペースがある教室の予約も取れた。
夕方近く、映画研究会のホワイトボードの端に、わたしたちはひとつのタイトルを書き加えた。
《分科会:座道と映画》
~静けさと所作を通して、映画と向き合う~
白いマーカーの文字が、夕日でオレンジ色に染まる。
「……今日のしおり、かっこいいよ」
ぽつりとひかりんが言った。
「……ありがと。でも、ひかりんがいたから、動き出せたんだよ」
照れくさい空気が流れる。
だけど、嫌じゃない。むしろ――嬉しい。
最初はほんの4人だった。
正座の仕方、呼吸、姿勢の重心。
そしてその状態で観る映画の、心への“しみ方”。
不思議と、みんなの集中力が変わっていくのが分かった。
座道は、やっぱり特別な何かを持っている。
ひかりんは、観終わったあと、わたしにこう言った。
「……この姿勢で観ると、まるで登場人物の気持ちが、自分の内側で反響してるみたい」
「それ、たぶん正解」
思ったよりも、賛同者は多かった。
「映画観るとき、姿勢って確かに大事だよね。集中力が変わる気がする」
「あと、和室で観る映画って、なんか特別感あるし」
「しおりちゃん、正座の美学ってやつ、教えてよ!」
――意外だった。ちょっと拍子抜けするくらい。
でも、それがすごく嬉しかった。
*
活動の後片づけをしているとき、ひかりんがふいに話しかけてきた。
「ねえ、しおり」
「うん?」
「……いま、あたし、しおりにすごく惹かれてると思う」
その声は、すごく静かで、だけど確かなものだった。
わたしは咄嗟に答えられなかった。
でも、どこかでずっと感じていた。
ひかりんといるとき、胸が高鳴ること。
視線が重なるだけで、手がふれるだけで、心が少し揺れること。
――こういうことなのかな。
ゆっくりと顔を上げた。
ひかりんの目は、まっすぐにわたしを見ていた。
「しおりが作った“座道”、すごく好き。」
わたしは黙って、そっと彼女の手を取った。
畳の上で交わした、たったそれだけの仕草。
それが、きっと言葉よりずっと、想いを伝えてくれた。
*
日が暮れて、キャンパスの灯りがぼんやりと地面を照らす。
わたしとひかりんは、ふたり並んで構内の石畳を歩いた。
「次回はもっと多く来るかもね」
「うん。でも、4人でも十分だったよ。静けさって、大人数じゃつくれないし」
「……たしかに」
ひかりんがふと立ち止まり、わたしを見た。
「でも、ふたりなら、静けさも、やさしさも、ちゃんとある」
その言葉に、胸がきゅっと鳴った。
ああ、たしかに。
座ることと向き合うこと。
*
帰り道。スマホの画面に、かおりんからのメッセージが届いていた。
《座道部、わたしが引き継ぐって言ったけど、やっぱり不安。誰も来なかったら、どうしようって思っちゃう》
その言葉に、わたしは微笑んで返信した。
《大丈夫。わたしも今日、大学に“座道”つくったよ。同じ時間に、違う場所で、同じ道を歩こう》
《あんたならできる。わたしもやるから》
送信ボタンを押すと、心の奥で、なにかが静かに燃えはじめるのを感じた。
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